侵入者の正体

     ◇


 チーフの話が終わった。すでに話を知っていたのか、ジェネラルを始めとして、全く動揺していない人物が少なからずいる。


 けれど、衝撃を受けている人も同程度いて、表情を見れば、初めて知ったかどうか判別はんべつがついた。


 自分もその一人だけど、話の途中から、交渉相手の『高齢こうれいの男』のことが気になってしょうがなかった。あいつと似ている。そう思った。


 パトリックが話を引き継いだ。


「〈樹海〉から生きて戻れたのはネイサンのみです。後日ごじつの捜索で、辺境伯マーグレイヴ、ダレル、イェーツ卿の三名をのぞく六名の死体が発見され、イェーツ卿の死体も、数カ月後に〈樹海〉の外で発見されました。

 お聞きの通り、機密きみつあつかいにされたのは同士討ちだったからです。敵にやぶれたわけでなく、味方同士で殺し合ったがため、おおやけにすることができなかったのです」


 パトリックはいったん話をくぎった。たちまち、議場ぎじょうが沈黙につつまれた。


 機密あつかいにされたのはもっともだ。ただ、あの能力を知った今となっては、単なる仲間割れと結論づけるのは短絡的たんらくてきだ。


 パトリックが顔を上げて、一同いちどうの顔を見渡しながら言った。


「しかし、みなさん。もう一度、話を振り返ってみてください。すでに気づいている方もいらっしゃると思います。ウッドランドに現れたイェーツ卿、突如仲間を手にかけたダレル。そして、命を落としたはずなのに、一時的によみがえったサム。これらの謎が全て、昨日現れた〈侵入者〉の能力によって説明がつくことに」


「そうだな」


「確かに」


「我々は敵の策略さくりゃくにハマったということか」


 元老院げんろういんの議員たちが口々くちぐちに言った。


「それを裏づける決定的な証拠もあります。〈侵入者〉の能力は、どういうわけか、私とそこにいるウォルターには効果を発揮しません。そのため、片割かたわれのギル・プレスコットという男が、我々の目には別人に映っていました。

 生前せいぜんの彼と面識めんしきがなかったため、全く気づけなかったのですが、関係者に確認したところ、体格、髪の色に顔立かおだち、高めの声など、ダレル・クーパーの特徴と完全に一致していました」


 途端に議場がざわついた。ギルには初めて会った時から違和感いわかんがあった。全くの別人をよそおっていたなら当たり前か。


「ダレル・クーパーが犯人だったってこと?」


 クレアが問いかけた。


「私はそう考えていません。外見がいけんは他人に似せられても、人格まで偽装ぎそうできるとは思えません。実際、その男は外見と振る舞いにひどくギャップがありました」


「だったら、〈侵入者〉はなぜダレル・クーパーの姿をしていたのかね?」


「よく思いだしてください。もう一人の〈侵入者〉がトレイシー・ダベンポートの姿をしていたことを。ウォルターの証言によれば、二人の〈侵入者〉は普通に言葉をかわしていたそうです。

 このことから、どちらかがもう一方をあやつっていたと考えるべきではありません。にわかには信じがたいですが、ここは彼らが死者の体を乗っ取れると考えるのが自然ではないでしょうか」


 パトリックの仮説かせつは納得できる。実際、自分もそうとしか考えられなかった。それを否定すると、トレイシーを〈侵入者〉あつかいしなければならない。


 けれど、人間の体を乗っ取れる存在はなかなか受け入れられず、大半の人が怪訝けげんな表情をしていた。次に声を上げたのはジェネラルだった。


「私も学長がくちょうの説に乗りたいと思います。事実、我々は二人のトレイシー・ダベンポートをこの目で見ていますし、彼がそのような男でないと知っています。ダレル・クーパーにしても同様です」


「私はダレル・クーパーを手にかけたのは、イェーツ卿の同行者だったアカデミーの研究員があやしいと思っています。こちら側の行動がつつぬけになっていたことからも、内通者ないつうしゃがまぎれ込んでいたと見るべきです」


「その研究員が他人になりすます能力者で、交渉相手がゾンビをあやつる能力者ってことね……」


 クレアがつぶやくように言った。あの二人は五年前から一緒に行動していたのか。


「それで、彼らの目的は何だったのかね?」


「その後の動きが五年間も途絶とだえたことを考えると、首をかしげざるをえませんが、商談しょうだんのためだったとは思えません。最初から、我々を攻撃する目的だったのではないでしょうか」


 確かに目的は見えない。それから、悪事を働いていないようだし……。〈樹海〉の戦闘に関する話は、そこでひと段落ついた。


 ふとチーフに目を向けた。そこに見なれた無気力むきりょく上司の姿はなかった。チーフは肩をふるわせながらこう言った。


「そうか……。裏切り者も、頭がおかしくなったやつもいなかったんだな。よかった……。本当によかった……」


 チーフは救われた思いだったろう。かつての仲間にあらぬ疑いをかけたり、裏切り者のレッテルをる必要がなくなったのだから。


 仲間のかたきを討つことだってできる。その考えにいたったのか、ふいにチーフの瞳に情熱がともった。そして、両のコブシをギュッと強くにぎりしめた。


     ◇


「もしかすると、中央広場事件もそいつらの犯行なのか?」


 議員の一人が声を上げると、議場がどよめいた。


「そうか!」


「辺境伯もぬれぎぬだったか」


 その意見に同調する声がたて続けに上がった。けれど、表情をくもらせたパトリックが、ためらいがちに切りだした。


「中央広場事件については、唯一の目撃者である私から、説明させていただきます。あらかじめ断っておきたいのですが、あの事件の犯人が辺境伯であったことに、私は一片いっぺんの疑問もいだいておりません」


 冷や水をあびせる発言で、議場が静まり返った。パトリックをいぶかしげに見つめる人が相次いで現れた。


 他人になりすませる能力があれば、罪をなすりつけることも朝飯前だ。断言するからには、それだけの確信があるのだろう。


「とはいえ、証拠はなく、それを証明する第三者がいるわけでもありません。あくまで私だけが体験した事実であり、それが真実であるかどうかは、みなさんの判断にゆだねたいと思います」


 パトリックはそう前置まえおきしてから、本題へ入った。

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