高校生集団失踪事件

     ◇


「気になったんですけど、向こうに図書館みたいなところはないんですか?」


「そうだな、あるなら行ってみたいな。学長がくちょう蔵書ぞうしょは内容が片寄っているし」


 そんな会話をかわしたロイとスージーが、城内を知る僕らに視線をそそぐ。存在するとしたら、レイヴン城内か、大学みたいなところか。図書館的な書庫がある話は耳にしたことがある。


 アカデミーに所属するコートニーの専門分野ぶんやだろう。どっちにしろ、自分は話すことができないから、視線をそちらへ受け流した。


「本の置かれた場所ならたくさん知ってるけど、まとまって置いてある場所は見たことないかな。少なくとも、自由に出入りできない場所にあるんじゃない?」


「そういえば、学校みたいなところもありませんよね。学生っぽい集団を街で見かけたことありません」


「年をとらないなら、同じことのくり返しになるからな」


「その代替がアカデミーなのかもね。私達ぐらいの若い子もいっぱいいるし」


 他の三人は何ともないのに、自分だけ異世界の話に加われない。所在なげにしている僕に、ロイが気づいた。


「どうして、ウォルターはおたがいの世界のことを話せないんだろうな」


「紙に書くこともできないの?」


 不思議そうに僕を見つめたコートニーがノートを差しだした。ついでに受け取ったシャーペンをかまえる。


「何を書きましょうか」


「じゃあ、異世界でおかした一番の悪事を」


「私達に秘密で買ったものがあったら」


 ロイのはともかく、コートニーのは何だろう。基本的に買い物はみんなで出かけるけど、大半が食材の買いだしで、最終決定権はコートニーにある。


 そんなわけで、財布さいふのヒモはコートニーがにぎっている。何か疑われるようなことしたっけ。ダイアンにプレゼントしたブローチのことだろうか。


「どっちも書けませんよ」


「じゃあ、ダイアンへの想いを書いてください」


「昨日の夕食のメニューを書きます」


 基本パンとごった煮スープで、たまにデザートが出るくらいだから、記憶を呼び起こすまでもない。


 しかし、いざ書こうとしても、シャーペンがプルプルとふるえるばかり。いくら脳が命令を送っても、手だけががんとして動かない。ペンを動かす手すら束縛そくばくされるのか。


『何も書けません!』


 心ならずも、みんなが見えるように大きく書いた。


「君は呪われているのか。いずれ、僕らも君みたいになるんじゃないだろうな」


 不安をもらしたロイのみならず、コートニーも心配そうな様子を見せた。


『最初からこうでした』


 みんなの不安を取りのぞこうと、ノートに書き記した文字をさし示した。


「僕達を向こうへ連れて行ったのは君だが、君を向こうへ連れて行ったのが誰か判明していないからな。やはり、君が運動公園で見つけた、例の黒いマリモだろうか」


「おぼえていないんですか?」


 そう言ったスージーに『おぼえてない』と、引き続き筆談ひつだんで応じた。


「君の部屋で見たあれは、まだあるのか? ほら、引きだしに黒い煙が充満していただろ」


『まだあります。減っても増えてもいません』


「紙に書けるってことは話せるってことじゃない?」


 言われてみればそうだ。実際、現実の話だし。以前も耳にした黒いマリモの話はさっぱり思いだせない。運動公園を探索したのはおぼえているけど、その先は厚いベールにつつまれている。


「ますます、アレがあやしいな。例の高校生集団失踪事件と経緯けいいが似ているし、僕達も現実に戻ってこれなくなることも考えられるな。今度、本格的に調べてみるか」


 ロイが表情をくもらせた。その事件の話は聞きかじった知識しかないけど、確かに、僕らがいっせいに帰ってこれなくなったら集団失踪だ。


 スージーが手にした本をパタンと閉じた。


「私達、戻ってこれなくなるんですか?」


「可能性の話だよ」


「ウォルター、責任取ってください」


「そんなこと言われても……」


「受験のこともあるし、僕はいっそのこと向こうで暮らし続けたいよ。年をとらないところが何より魅力的だ」


「結構、失踪した高校生達は向こうの世界で生きてたりね。そう考えると、私達みたいに能力を持っている人があやしくない? 学長ってちょうど高校生ぐらいの年齢でしょ」


 今まで考えたこともなかったけど、あの街にいる能力者はパトリック以外にいない。しかも、平民の身分で辣腕らつわんをふるったり、突出とっしゅつしてういた存在でもある。


「でも、学長は現実の話をしても感心するばかりじゃないか。とても現実で暮らしていた人間とは思えないな」


 パトリックは現実の話を聞きたがる。口封くちふうじを受ける自分以外とは、よく現実の話をしている。ただ、人々から巫女みこの記憶がぬけ落ちているように、パトリックも現実の記憶を失っている可能性は考えられないだろうか。


「コートニーは失踪事件に詳しかったよな?」


「詳しいってほどじゃないけど、有名なルポなら読んだわよ。失踪した五人は四つの部活に所属していて、同じ教室を部室として共有していたんだって。

 一緒に運動公園へ出かけたのが失踪前日。当日は五人とも普通に登校してきて変わった様子はなかったらしいわよ。それなのに、放課後になった途端、部室にいたはずの五人が、荷物を残したまま一人残らずいなくなったんだって。知ってるのはそのぐらいかな」


「よく知らなかったけど、そこまでエキセントリックな内容だったのか。もう少し、家出っぽい感じだと思っていた」


「ビックリするぐらい謎めいていますね……」


 この話には参加できる。初めて知る内容だけど、世間が大騒ぎしたのも、推理すいり小説を愛するコートニーが、興味を持つのも納得できた。


「僕達と似ているといえば似てるが、いなくなったのは運動公園へ行った直後か。コートニー、写真とか見たことないのか? 名前でもかまわないんだが」


「私が読んだルポには載ってなかったかな。名前はAとかBって表記されてたし。はっきりしてるのは全員高校二年生で、男四人に女一人ってことぐらい」


「高校生だし、事件を起こしたわけではないからな。ただ、二十年近く前とはいえ、相当騒ぎになったみたいだし、ネット上にころがっていてもおかしくないか。とにかく、調べてみよう」


 この後、カーニバルまでに乾燥パスタを使ったメニューを仕上げるという目標を立て、解散となった。

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