土用

青い瓶のラムネを注ぐと、光に反射して透き通った泡は綺麗で、上にあがる気泡だけが必死なようで、まるで人間の手垢で泳げなくなった酸素を求める金魚みたいに見えて、ただその一瞬の煌めきを夏と美化するんです。


日の長い夏の夕方6時はどちらかと言えば人の足を遅らせて、汗かいたし、水分足りてないしって自分の汗水垂らしてもない仕事を夏の天気に借りてビールを流し込むんだ。


何回も何回も何回も何回も夏を繰り返してこれ以上ない暑さですなんてボジョレーヌーボーを彷彿とさせる言い草を恥ずかしげもなく例年言い続けるお天気キャスターは今日の服装をブランド物とファストファッションで着飾り、その最低限のプライドをテレビの前の僕たちに透けて見せるんだ。


蝉時雨と入道雲に思いを馳せていたのは小学生くらいなもので、そんな小学生の時すらも絵日記には「今日も晴れでした」って持ち手の薄紙が擦れるぐらい擦り減ったクレヨンを使って青を書き込んだ。


ああもう。


夏が嫌いだ。炭酸の抜けたラムネも、死体になった金魚も、クーラーの下で仕事をして老化を夏のせいにして酒を飲むおっさんも、薄氷より透けて見えるプライドを見せられる朝も、もう夏空を見て暑くてうざいとしか感じなくなった自分も!


これでもかと思うくらい引き返せないところまで夏を繰り返していて、どの夏も寂しくなるほど夏という季節には不思議な引力があって、寂寥感に苛まれるこの夏がやっぱり嫌いだ。


ラムネは甘いから、なんて大人ぶった夏の終わりに、夏を楽しめなくなったいつかの夏ぶりに飲み干した。今度は炭酸の抜けないように。


懐かしさ、と言うよりは遅かったな、なんて思っちゃって、つい一人きりの癖に、


例年よりも早い夏の終わりです。

なんておどけてみせた。

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