交錯する二人
麗奈を名古屋駅で降ろした後、水嶋重雄は電話相手に指定されたファーストフード店へと向かっていた。10分ほど車を走らせ市営の地下駐車場に車を停める。店まではここからは徒歩で行かなければならない。水嶋は歩きながら電話の相手が一体誰なのかを模索していた
初めてその相手から電話がかかってきたのは年も開けた学園初日の朝だった…
「もしもし、」
見知らぬ番号からの着信だったが理事長という立場上、交友関係が多い。その為にあまり気にせずに水嶋は電話をとった
「水嶋理事長でしょうか?」
電話の向こうから聞き覚えの無い可愛いらしい女の声が聞こえる
「そうだが、誰だね君は」
思わず語尾を強め水嶋は聞き返した
「名前は言えません。…ただ貴方は私の事を知っているとだけ伝えておきましょうか」
女はそう話すとすぐに会話を続けた
「時間もないので手短に話をします。水嶋理事長、あなたは大友麗奈と体の関係を持っていますよね?」
「なんの事だ?」
「とぼけても無駄ですよ。こちらには証拠の写真もありますので」
「写真?」
「ええ、あなたと大友麗奈が路上で抱き合っているところやラブホテルから手を繋いで出て来る写真など色々ありますが」
水嶋の弱みを握っている女が静かに語る
「要件はなんだ?何が望みだ」
さすがに水嶋は声を荒げた
「さすが理事長、自分の立場をよくお分かりで、話が進めやすくて助かります。それで、要求としてはお金ですね。今週の金曜日までに私が指定した銀行口座にお金を振り込んで下さい」
「信用できるのだな、君のその言葉」
相手は水嶋の言葉を無視し自分の話を続ける
「そして金曜日の午後から貴方は大友麗奈を誘い名古屋に来てください。あくまでも彼女には気づかれない様にしてください。確認が取れたらその日にもう一度私から電話をします。」
「おい、待ってくれ。金額はどれだけ支払えば」
「それは貴方にお任せします。ただし私をがっかりさせるような金額はやめてください。それと先程の証拠写真ですが理事長宛に1枚お送りしてありますよ。もうそろそろそちらに届くはずです。では私はこれで失礼します」
ーー……。
相手からの電話が切れる。しばらく呆然と考え込む水嶋
……トン、トン。
突然、理事長室のドアがノックされ水嶋は慌てて返事をする
「誰だね」
「教頭の高橋です。理事長」
「ああ、入りたまえ」
「失礼します」
「何か僕に用事かね?」
「はい。先程、栗本先生が連れてこられた村重先生なのですが職員室で他の教師との顔合わせが終わりましたので、今から理事長室にお通ししてもよろしいかと思い伺いました。」
「村重?…ああ、今日から臨時教師として来られた先生だったな確か?」
「はい。そうです」
「構わんよ、すぐこちらに連れて来なさい」
「分かりました。……あと、これなんですが今朝、学園のポストに入っていました。差し出し人が不明ですが理事長宛になってますので」
そう言い高橋は封筒を水嶋に渡した。確かに高橋の言う通り差し出し人の名前もない。宛名に【水嶋重雄】様宛となっているだけの茶封筒だ。ただ水嶋にはその中身が何か見当はついていた
「すまないが高橋教頭、やはり村重先生を連れて来るのを5分程経ってからにしてもらいたい。よろしいかな」
「分かりました。村重先生には応接室で少しの間待ってもらう様にします」
「すまん助かるよ」
「それでは私もこれで失礼します」
高橋が理事長室を出て行く。水嶋は高橋から手渡された封筒を開けようとしたが封がしっかりと両面テープで貼り付けられていたので机の中からハサミを取り出し封筒を開ける。開いた封筒の中身を確認すると写真が1枚とメモ用紙のような物が1枚入っている水嶋はそれを丁寧に取り出して確認する。メモ用紙の方には振込先の銀行名、口座番号と氏名が書かれていた。だがおそらくその名前は本人ではないだろうと水嶋は思った。そしてもう1枚のこちらの写真は水嶋にも覚えはあった。
ファッションホテルの建物から2人が仲良くでてくる写真だった。写真を改めて確認し実感させられた水嶋は大きなため息をついたのだった…。
待ち合わせ場所に着いた水嶋。扉を開け中に入るとカウンター越しから女性店員が真っ先に声をかけてきた。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか」
急に声をかけられたうえに注文は決まってますかと聞かれた水嶋は焦っていた。
ーー注文の仕方が分からない
水嶋が入ったファーストフード店は全国のどこにでもあるお店なのだが、水嶋は生まれてから今まで名前は知っていたのだが入った事が無かった。店員にメニューを見せられても何がなんだかわからない。
ーー注文を先に頼まなければ座れないのかこの店は?
店内を見ると席がまだ開いている。
ーー本当は座ってからゆっくり注文したいのだが
水嶋が注文に手こずっているとあっという間に後ろに人の行列が出来始める
「あの、お客様。ご注文がお決まりでないのでしたら後ろのお客様から先にご注文お伺いしてもよろしいでしょうか?」
注文を中々頼まない水嶋に対して女性店員がしびれを切らし話してくる。
ーー彼女の言う通りだ、僕がここに立っていたら後ろの人が頼めないな。どっちにしても注文の仕方が分からない以上、後ろにいる人の行動を参考にした方がいいだろう
ここは女性店員の言うことに同意した方がいいなと思っていると後らから水嶋の肩を誰かが叩いた。
「どうしたのパパ?もしかして注文の仕方が分からないの?」
女の声が後ろから聞こえる
ーーパパって?誰かと勘違いしていないか?僕に子供なんていないが……。
ただ水嶋にはこの話し声に聞き覚えがあった
「すいません。うちのパパってこういうお店に入った事が無くて。…Sサイズのホットコーヒーを1つお願いできますか」
水嶋の横に並んだ女が注文を告げ料金を支払うと女性店員はすぐにコーヒーをカップに入れ手渡した。注文をしてすぐにでてきたコーヒーと女の正体が分かりその場で唖然としている水嶋に女は言った
「パパ、ママが待ってるから早く帰りましょう」
……水嶋は今だに信じられずにいた。自分の車へと戻った彼の横、助手席には麗奈と同じクラスの島村華奈が座っていた。華奈はおいしそうにさきほど買ったコーヒーを飲んでいる。勿論、華奈を自分の車に入れるつもりではなかった水嶋だが店を出た直後に華奈に脅された
「ーー大声で叫ばられたくなかったら大人しく私に従ってください」
と、この一言だけ言い華奈は無言で水嶋に駐車場までの案内をさせていた。
「…島村華奈君、どうして君が」
助手席の華奈に水嶋が話しかけるが返事がない
「君は麗奈の友達ではないのか?」
水嶋が優しく華奈に問いかけ彼女を見据える。華奈はカップに口をつけたまま微動だにしない
一向に話しをしない彼女、水嶋はもしかして僕の知っている華奈ではないのかと心配になっていた。その為もう一度彼女の顔をしっかりと見ていたのだが、ーー間違いなく島村華奈だ
目の前にいる島村華奈は服装と薄く塗った化粧のせいで学園にいるときよりかなり大人びて見えてはいたが、その彼女の特徴的な豊かな胸とスタイルの良い小柄な身体と顔立ちは隠しようもなかった。水嶋も彼女の事はしっかりと記憶はしている。麗奈ばかりが目立っているのだが実は島村華奈も周りの男性の注目を浴びるほどのかなりの可愛いさを持っていた。だからこそ余計に彼女の事を覚えており見間違えるわけがなかった。
「君は島村華奈だろ?」
水嶋は目の前にいる彼女が華奈と確信をしていたが念のためもう一度聞き返した。コーヒーカップから口を離すと彼女は水嶋をじっと眺めてようやく口を開いた
「…水嶋理事長のおっしゃるとおり私は島村華奈です。あなたの学園の生徒ですね」
彼女の声は学園で会話する時の島村華奈の声に戻っていた。
「何故こんな事をしたのだ。さっきも言ったが君は麗奈の友達の筈ではないのか?」
水嶋は語尾を強め感情をあらわにして華奈を問いただす
「理事長を脅迫した事ですか?それが生徒に手を出した人が言う言葉ですか?違いますよね」
華奈は冷静な口調で水嶋に返事を返す。非がこちらにもあるので水嶋は何も言い返せない。
「まぁそれでも、そのおかげで私も助かりましたので、ありがとうございますとだけは言っておきますね。」
華奈はニコッと笑い話を続ける
「しかし、理事長もさすがに坊っちゃま育ちのボンボンですね。まさか5千万も振り込んでくれるとは思ってもいませんでした」
「それは…。」
「これからは私も見ず知らずの男達に、私の体を触らせずに良くなったので本当に助かりました」水嶋は目を見開いた。ーー今の言葉な意味は
「……華奈君、もしかして君は援交をしてたのか?」
「えへバレちゃいました。まぁ、さすがに今のは理事長でも気付くだろうとは思ったんですけどね。大丈夫ですよこれでも人はしっかりと選んでましたから優しそうな人を基準に」
「そう言う問題じゃないだろう。しかし、分からんな確か君の家庭はかなり裕福だろ?親さんも不動産を経営してかなり有名人の筈だ?」
「さすが理事長です。よくご存知で」
「僕じゃなくてもほとんどの人が知ってるだろう君の親の事は」
「まぁそうなんですけどね」
表情を曇らせる華奈。その表情を見た水嶋は彼女に援交をさせるほどの何か特別な悩みがあるのか聞いてみる事にした
「なんだ家庭内の事か若しくはそれ以外か、悩みがあるなら僕が君の親に言ってあげようか?」
「いいえ、それは結構です。」
「いいやそうはいかん、君は僕の学園生徒なんだよ。生徒が悩んでいるなら相談にのる事が僕の主義なんだ」
「相談ですか…。」
「そうだ何でも僕に言ってくれ」
華奈は水嶋の話を聞き終えると自分の持っているバックから写真を数枚とマイクロディスクを取り出した。
「渡すのが遅れましたがこれが麗奈と理事長の熱々写真とデータになります。自宅のパソコンに保管したのは全部消去したので安心して下さい」
そう言い彼女が水嶋に写真とディスクを渡そうとするがディスクだけ、彼女と水嶋の間に落ちてしまった。慌ててかがんで落ちたディスクを探す華奈
「理事長のデータなんだから探すの手伝ってくださいよ」
華奈の呼びかけに水嶋は一緒に探そうと屈み込んだ。
……一瞬だった。
水嶋の体にふくよかで弾力のあるものが当たったかと思ったら次に小さな唇が水嶋に話をさせなかった。そして甘い香りを漂わせた華奈の舌が水嶋の口の中を這っている。
…パシャ
カメラのシャッター音とともにフラッシュがたかれ眩しい光が水嶋と華奈を包んだ。華奈の口が水嶋から離れた。
「…理事長、さっきの相談なんですけど…今から私を抱いてくださいね」
華奈の声は電話で聞いた可愛いく甘い声になっている
「それは出来ない相談だ」
「そうですよね。理事長ならそう言うと思ってました私。だからこうして写真を撮ったんですけどね。……これ麗奈に見せてもいいんですか?」
華奈は右手に隠し持っていたデジタルカメラを水嶋に見せる
「それならカメラを奪い取ればいい。僕の方が君より力はある」
「力ずくで奪い取れればですけどね。理事長はそんな事出来ませんよね。理事長が女性に手を奮うことができないのは私もよく知ってます優しい人だから。それに防犯カメラのついた駐車場でそんな考えを起こすような馬鹿な人でもないですしね。」
華奈の方が一歩上だった。
「何故そんな事までする必要がある」
「感謝と口止めですかね、5千万と言う大金の御礼が半分とこれから3年生までの学園生活の保障も兼ねてかな」
「僕が誰にも話さないと言っても君は信用はしないのか?」
「私は基本的に口約束は信用しません。」
「それでも僕が断ったら…」
「そうですか、でもこれ以上は断れないとおもいますがねぇ、理事長」
華奈が遠ざけた顔を今度は胸元をわざと見せつけながら水嶋の近くまでやってくる。
「私は確かに麗奈より顔は劣りますけどテクニックや胸だけは勝ってる自信があります。それに顔だって麗奈以外の人と比べたら明らかに私の方が優ってますよね。」
「……。」
水嶋はこれ以上何も言えなかった。島村華奈は見抜いていた水嶋が否定しつつも自分の体に興味を持っている事をそして彼女は付け加えた
「理事長…今私が話してる声、アニメ声って言ってね、なんか男の人はこれを聞きながらだと萌えるんだって」
そして彼女は水嶋の耳元で囁いた
「…今日は理事長のお好きな様に私を扱ってもらっていいですよ」
それは水嶋が麗奈と別れたわずか1時間後の出来事だった
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