執事の望んだ未来
12.縛られていた自分
「兄妹が不仲……?」
「ええ。私と兄はとっても仲が悪いの」
キャラメルの色の髪の少女、盾娘はそう教えてくれる。この少女の不遇さ……この人の家系は複雑なんだな、と考えてしまう。
「それで……それをなぜ私に?」
「お姉さんとは長い付き合いになりそうだから」
「そ、そうか? 私はそう思わないが……」
「ふふ。私がそう思っている限り、私とお姉さんは出会えるのよ」
「……お前、占い師にでも目覚めたのか?」
「どうかしらね?」
盾娘はそう楽しそうに笑う。そしてニコニコしながら、立ち上がった。
「……だって、私の元にあなたの『求める人』がいるのだから」
* * *
……俺の未来、それは当の昔に闇の中だった。生まれつき体が弱かった俺は家族に迷惑をかけることしか出来なくて、情けない人生を送っていた。現に、俺は11歳のときにアストイル家の若き従者として入れられた。まぁ……実際は両親に捨てられたのだ。ラズウェル家よりも資産を持つ、アストイル家の部下として働いて友好関係だけを築こうと言う見え見えの作戦。きっと、病で死んでも何とも思われなかったのだろう。なぜなら、俺には4人もの兄がいたのだから……後継ぎなんて、腐るほどいたんだから。
「……どうして、知っているのですか?」
「どうしてって……親族だもの」
セリカとルナは二人で会話を続けている。俺はセリカが出した『家族』という言葉の意味を深く考えていた……。彼女にとっては大したことがない言葉なのかもしれないが、俺にとっては大きな事。彼女の口からその言葉を聞くたびに、こうして考えてしまうのは悪い癖かもしれないが……
「でもそれじゃあ、この家には暗殺者が沢山来るのでは……」
「ええ。週に一回くらいのペースでやってくるわ。」
「え、えええ!? それって大丈夫なんですか……?」
「今は、ね。さすがにこれが10年続くときついかなぁ」
「……お強いのですね、お嬢様は。」
「もう馴れちゃったのよ。でも、何でアストイルが最近暗殺者に狙われてるのかは知りたいわ。ギルも知りたいでしょ?」
「…………」
「ギル?」
「あ、あぁ……なんだ?」
ぼーっと考えていると、急にセリカに肩を叩かれた。振り向くと、彼女は話を聞いてなさいよ、と言いたげな少しむくれた表情で俺を見ていた。
「最近うちに何で暗殺者がよく来るのかを、よ。そんな世界にいたルナなら知ってそうじゃない? って思って」
「あ、あぁそうだな。そう簡単に話せるものかわからないが……」
「構いませんよ、そのくらいなら。」
そう言うと赤髪の暗殺者、ルナは静かに紅茶を飲み干し俺とセリカの顔を見ると落ち着いた口調で話し始めた。
「ここの近くの貧民街はご存知ですよね? お洒落な街の隅っこに存在する場所です。そこには数々の無法者、暗殺者も沢山いるのですよ。私もたまにそこへは行きます、結構大きな依頼が転がっていることがありますから。そこで今、大きな依頼として転がっているものというのが『アストイル家の暗殺』なんですよ。」
「資産家の大アストイルが亡くなったのを狙ってきているというのか?」
「でも、お父様が亡くなったのは15年くらい前の話よ。何で今更なの?」
「簡単なことですよ。依頼主が、とっても面白いんですから」
「依頼主……?」
「そう、依頼主は……」
……あの、『孤高の暗殺者』なんですから。
その肩書き……エレノア・ウィルクリス? ということはノアが俺らを同職の奴らに殺させようとしているのか……? 何でだ、それがあいつにとって何の利益となる?
「まぁ、そんなわけで今大アストイルが亡くなった『アストイル家の暗殺』の依頼は大人気なんです。報酬は、あの誇り高きエレノアが使った銀のナイフですよ。もの凄くキレ味が良くて、殺人には最適の武器です。皆が求める、エレノア様の私物です」
「あら、ノアってば大人気なのね。暗殺者世界のアイドルじゃない。」
「そ、そこじゃねぇだろ!? 俺らはノアの使った銀のナイフのためだけに、殺されようとしているのか?」
「そういうことになりますね。」
「……ふざけんなよ」
俺が思わず舌打ちをしてしまったとほぼ同時に、コンコンッとノック音が響いた。失礼します、と言って入って来たのは二人のメイド……ノアとリアだ。彼女らの手にはスープとハンバーグプレートが乗っていた。
「お食事をお持ちしました。後、私とヴィンセントさんは少し用がありますので、遅れて同席いたします。お先に召しあがっていてください、リリアナさんは残りますので」
「わかったわ、冷めないうちに戻って来てね」
そう言ってノアは静かに素早く、部屋を後にした。そして俺の隣にリアが静かに座る。いつも明るい彼女の表情から、笑顔の欠片も見えなかった……それに気付いてしまう。
「それで、ルナもその依頼を元にここまで?」
「はい。まぁ……私は昔、ノアがここに来ていたことを知っていましたから何か彼女の手がかりが無いかと訪れただけなんですが。それが私の知る全てです。」
なるほどね、そうセリカが一言呟き夕食に手をつけたところで会話は終わった。それ以降は、珍しく静かな時間が過ぎて行った。こんな空気、いつぶりだろうか。
「……ギル君。食後のデザートを運ぶ手伝い、頼める?」
「あ、あぁ……ってちょっ!!」
静かな空気の中、いつもより低いトーンでリアは俺に声をかけた。そして答えを聞くのも待たず、俺の腕を思いっきり引っ張り部屋から連れ出した。
「ど、どうしたんだリア……?」
そう聞くと、リアは一気に涙を溢れだして俺の顔を見た。
「ギル君は……怖くないの?」
『怖い』……そんな感情、しばらく抱いてこなかった。だって俺がそう思うことはほとんどないのだから。
「……セリカが、俺を捨てない限りそうは思わない。」
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