観察
その日の夜も、魔の森に入っていた。
昼の鬱憤を晴らすように、魔獣の討伐に勤しむ。
そのせいで、共にいたルーノは不満げだ。
そんな彼を宥めつつ、そろそろ帰ろうかと思ったちょうどその時、探知の範囲にサーロスの魔力が引っかかった。
だから、だろう。
……果たして、彼はどのように戦っているのだろうか?という考えが頭を過ぎったのは。
その衝動のままに、ルーノを連れて彼の方へと近づく。
そっと気配を押し殺して近づけば、ちょうど魔獣と戦っていた。
彼は自分の剣に魔力を流し、それを振るっている。
「……楽しい?」
魔獣を倒し終えた彼は、私の方を振り返った。
その段になって、私がずっと彼を見続けていたことに気がつく。
「いえ……あ、ええ。ごめんなさい。不躾に見てしまって」
「いや、別に良いけどさ……」
汗を拭いつつ、彼は苦笑いを浮かべていた。彼のその反応に、けれどもより申し訳なさが胸に募る。
「……少し休憩するけれども、クラールさんも一緒にどう?これが手に入ったんだ」
ふと、彼が足元から何かを取り上げた。
薄暗い中目を凝らしてそれを見つめると、それはパルルの実だった。
焼いて食べる甘いその実は、魔の森でしか採ることができない。
「……いただくのは申し訳ないので、サーロス君が食べてください」
「せっかくだから、ここで一緒に食べよう?どうせ寮に持ち帰っても、誰かの目に触れると面倒だってことを考えると保管に困るからね」
「……パルルを誰かに見られると面倒とは?」
「追及されるのが面倒だな、と。別に魔の森に来ていることを、秘密にしている訳ではないのだけれども」
「……そういうものですか」
「そういうものじゃなかった?僕が君に追及した時に」
そう言われて、ふとその時のことを思い出して『ああ……』と思わず呟いてしまった。
私のその反応に、サーロスは苦笑いを浮かべている。
「だから、どの口がそれを言うんだって感じなんだけれどもね。……まあ、それはともかく、ちょうどここに三個あるんだ。そこの彼も一緒に、皆で食べない?彼は、興味津々みたいだけど」
ハタと気がついて下を見れば、いつの間にかルーノは彼……というよりも、彼の側にあるパルルの実に近づいていた。
ルーノ……と内心息を吐く。
「なら、お言葉に甘えさせていただきます」
それから、彼と私で薪になれそうな木を集めて焚き火を焚いた。
火の魔法で燃やした木は、パチパチと燃えている。
日が完全に沈み、真っ暗になった森の中にボウっとその灯が浮かび上がっているかのようだった。
パチパチと燃え盛る焚き火に、サーロスが薪を追加する。
私はそれをぼんやりと眺めていた。
「……ちょうど良い具合みたいだ。さ、どうぞ」
火に炙っていたパルルの実を、固定していた棒ごと差し出す。
私はそれを受け取り、息を吹きかけて冷やしていた。
「……彼、パルルの実も食べられるんだね。肉類しか食べられないかもと少しだけ心配していたんだけど」
「ルーノは比較的なんでも食べますよ。勿論、好んで食べるのは肉類が多いですが……」
「そっか……」
もう一本の火にかざすための棒を、彼は取る。そして先端に刺していたパルルの実を少しだけ冷ますと、彼はそれを口にした。
私もそれに倣って、同じくパルルの実を口にする。
「……うん、美味しい」
口の中に広がる甘い味を噛み締めながら、呟く。
ふと視線に気がついて顔をあげると、彼が微笑ましげな視線を向けていた。
その表情に何だか少し気恥ずかしさを感じて、慌てて居住まいを正す。
「……今日は、ありがとうございました」
「パルルのお礼はもういいよ」
「いいえ。それだけでなく、昼間の授業のことです」
「昼間?ああ……」
彼は納得したのか、頷いていた。
「あれは僕が勝手にしたことだ。君がお礼を言うことじゃない」
「……ですが、あの時あの男を止めてくれたのは事実です」
尚もお礼を言う私に、彼は困ったように笑った。
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