驚愕

間に合ってくれよ……!

そう、内心叫びながら駆け抜ける。


弟子のサーロスからスタンピートの報告があったのは、夜も更けた頃だった。

必死な形相で一体何があったのかと思えば、まさかの報告にその場にいた騎士団一同、血の気が凍った。


学院の教師からも同様に上層部への報告がなされたらしい。

……だというのに、騎士団の人員の殆どが王族や貴族の守りへと割かれた。


ふざけるな!となりふり構わず叫んだのは、その時が始めてのことだ。

スタンピートが発生し、王都にそれが押し寄せれば守りを固めても仕方がない。

仮に守れたとしても、王都は悲惨な状態になるだろう。

だというのに……!


とはいえ、それでゴネていても仕方がない。

とにかく、早急な討伐が必要だ。

何より、囮を買って出た勇敢な少女を、見殺しにすることはできない。


だからこそ、今こうして俺の部隊は最速で魔の森に向かっている。


魔の森に近づくごとに、ゾクリと背中が凍るような心地がした。

魔の森は魔獣が発生するだけあって、世界に漂う魔力……所謂魔素が多い。

けれども、それだけじゃない。

得体の知れない強大な力が、そこから感じられる気がした。


「ロンデル団長……」


俺の右腕の副団長ガルラが怪訝そうな表情を浮かべていた。

これから立ち向かうスタンピートのことを思っての、その反応だろう。

ガルラの懸念通り、これだけの力を感じられるのだ……相当な規模に違いない。


俺たちは、慎重に魔の森に踏み入った。

大きな力を感じる方へと、徐々に徐々にと進む。


……そうして、俺たちが目にしたものは。


「……くっ。『轟雷障壁』『土弾壊残』」


雷や炎に焼かれ、拓けた魔の森。

夥しい魔獣の死体。

そしてその中心で、傷だらけになりながら中級魔法を次々と放つ一人の少女。


「あああぁ!」


呆然とその様を見ていたら、少女が悲痛な叫びをあげた。

シルバーウルフが、致命傷を負いながら彼女のその腕に噛み付いたのだ。


俺たちが動き出す前に、けれども彼女はそのシルバーウルフを炎球で焼くと、遺体を振り払った。

ボタボタと、紅の血が地面に落ちる。


けれども彼女はすぐさま腕から視線を前に向けると、再び魔法を放った。

そして、天にまで届きそうな炎の壁が彼女と魔獣の間に生成される。


その瞬間、分かった。

……俺たちが感じていたあの強大な力は、スタンピートのせいじゃない!

彼女から発せられるそれだ!と。


彼女は魔獣から距離を置くと、腕に手をかざす。何をしているのかと思えば、淡い光が発せられて止血され僅かに傷が塞がったようだった。

まさか、癒しの魔法まで……使えるというのか?

いいや、それ以上に……彼女は、そうして傷を自ら最低限治して、戦い続けていたのか?!

だとしたら、彼女はこの戦いで一体どれだけの傷を負ったというのだ……!


「……団長」


ガルラの呼びかけに、俺は我に返る。


「……第八・第九隊は待機!残りは前進!一人の少女の細腕に、これ以上国の未来を委ねさせるな!彼女が繋いだ未来を、掴め!我らは何のためにいる!国を、民を守るため、彼女に敬意をもって戦場を引き継げ!」


俺の指示に雄叫びをあげながら、団員は魔獣の方へと向かっていく。


彼女はその声でようやく俺たちの存在に気がついたようで、ハッと俺たちの方を驚いたように見た。


……そして彼女は泣き笑いの表情を浮かべて、そのまま地面に倒れていった。


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