開始
「……いよいよ、待ちに待った実地訓練の時が来た」
魔の森の前にて、私たち生徒に教師が訓示を述べる。
危険を感じたら無理をしないだとか教師が巡回していることだとか、注意事項が主だ。
「それでは、各自の健闘を祈る!」
その言葉で〆られ、私たちは魔の森の中に入った。
「頑張ろうね、サーロス君」
嬉しそうにそう言うミルズからは、とてもではないがこれから命がかかっている訓練に赴くとはとてもではないが感じられない。
「うん。皆で無事、帰って来よう」
そんなサーロスの言葉を無視して、ルクセとダルメはそそくさと森の奥へと進んで行く。
……まあ、一週間の訓練でそう変わるはずもないか。
ルクセとダルメの後を、サーロスとミルズが追いかける。
そしてその更に後ろを私がついていく。
いつもの流れだ。
「魔の炎よ、我がいく道に立ち塞がる敵を滅せよ。『炎道』」
「大地よ、我がいく道に立ち塞がる敵を圧殺せよ。『地道』」
ルクセが炎のそしてダルメが地のそれぞれ中級魔法を、一匹の狼型の魔獣に向けて放つ。
それらは当たったものの、僅かに避けられていて致命傷にはならない。
「『炎球』」
そこを、ミルズが火の初級魔法を当てた。
そしてそれと同時に、サーロスが身体強化で魔獣に向かって走りだし、一刀のもとに敵を屠った。
無駄のない動きと、高いレベルの身体強化は流石学院で実力ナンバーワンと謳われているだけのことはあると素直に感心する。
「サーロス君、すごい!」
そんな彼に、ミルズはいつも通り黄色い声をあげた。
「そんなことないよ。ルクセさんやダルメさんそれからミルズさんが敵を弱らせてくれていたからだよ」
ミルズの言葉に活躍を奪われたと言わんばかりに不穏な空気を漂わせていた二人も、サーロスの言葉に得意げなそれに変わっていた。
うまいなあ、彼らの扱いが。
そんなことを思いつつ観察をしていたら、サーロスがこちらにむかって来る。
「クラールさんも、次は一緒にどう?」
「サーロス君。そんな子、放っておきましょう。やる気がない子までサーロス君が気にかける必要はないわ」
サーロスの言葉に、ミルズは過剰に反応していた。
だからというわけではないけれども、私はサーロスの言葉に首を横に振る。
「後方の注意、ご苦労様。疲れたなら、言ってね。いつでも変わるから」
そんな私にサーロスは困ったように微笑みながらそう呟くと、ミルズに促されるまま先へと進んだ。
一人残された私は、深く溜息を吐く。
よく、気がついたこと。
この森で怖いのは、認識外からの奇襲。前へ前へと進むルクセとダルメはそこに気を配ることなくそうしているし、サーロスはその二人のフォローで手一杯。
ミルズはサーロスの方しか見ていない。
というわけで正確には後方だけでなく、半径五百メートル全てに常に気を配っているのだ。
幸いにも、一人でいる時もそうだから特に疲労等は感じていないけれども。
「『火球』」
ボソリ呟き、後方から迫り来た魔獣を屠る。
どうやら、さっきの狼型の魔獣の仲間のようだ。
「……本当に、魔獣が増えているわね」
そう呟くと、私は彼等の後を追った。
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