幕間 7 選択

「エミア、こいつが!」


部屋に戻ると未だ喧嘩が続いていて1人が私に向かって何事か言おうと口を開く。


「黙れ!」


「なっ!」


だが、その男の言葉を私は無視する。

そしてその場にいた全員に向かって怒鳴りつけた。


「あんたらもよ!」


「何なのよあんた!いきなり私達に向かって怒鳴り始めて……」


私の態度に1人の元妾が苛立ちげに舌打ちを漏らす。

彼女も私と同じようにボロボロの格好になっていた。

確かに私程綺麗だったとは言い難い人間だったが、それでも貴族である時はある程度綺麗に着飾っていたはずなのに。

そして顔には疲労が張り付いていて、彼女も苛立ちが最大限に達していることに気づく。


だがそんなもの私にはどうでも良かった。


「私達は仕事を受けることをこの街では拒否されているらしいって、それを聞いてもまだそんなことを言える?」


「えっ?」


私が乱暴に告げた言葉に、ここにいた全員が言葉をなくす。


「ほら!あんた達がそんな喧嘩ばっかしている間にこんなことなってたのよ!」


私はその表情に嘲笑を浮かべる。

目の前でどうしようもない、そう考え絶望を顔に貼り付ける仲間は酷く滑稽で、優越感が胸に生まれる。


「ちっ!」


だが直ぐにそれは自分も変わら無い、そのことに直ぐに私は気づいた。

そしてそのとこに気づいた瞬間今まで胸に溢れていた高揚感が消えて、どうしようもない虚しさが溢れ出す。


先ほど見たアリスの姿が私の脳裏に蘇る。


あの時の笑みが、そしてその時のアリスの美しさが私の胸に淀みを作る。

そして私は居た堪れなくてその場を去ろうとして、その時ある考えが電撃のように頭に浮かんだ。


「そうだ……」


私が周りを見渡すとそこに居るのはどうしようもない現状に頭を抱える仲間達の姿。

そしてその顔は絶望に、未来への不安に歪んでいた。


ーーー そう、アリスに憎悪を感じるようになった私のように。


「ねぇ、みんなアリスのこと覚えている」


私は笑顔でそう切り出す。

おそらく私の今の口元には醜い笑みが浮かんでいるだろう。

だがそんなことどうでも良い。

私の頭を占めていたのはただ1つ。

これで上手くいけばアリスを罠にはめ、報いを受けさせるための仲間を得ることができるという考え。


「あいつ、今私達何か比較になら無いほど良い暮らししているよ」


そう切り出した私の口元は憎悪に歪んでいた。




◇◆◇




それから私はこの場所にいる全員にどれだけアリスが私達と違う暮らしをしているか、どれだけ私達が惨めかを話した。


「そうか……あの堕ちた令嬢が……」


そして私が話を続けていくうちにどんどん仲間の顔は変わっていった。

何か覚悟を決めたような、そんな表情に。


ー 掛かった。


私はその仲間達の態度の変貌を確かめながら内心で笑う。

これで目の前の人間達も分かっただろう。

そう、アリスは絶対に報いを受けさせなければなら無い。

それだけの罪を彼女は犯してきていて、そしてその権利が私達にある。

そう私は少し過剰に、まるでアリスが私のことを嘲笑っていたということを捏造して仲間達に話す。

確かに実際にはされてい無いが、それでも内心で思っていることは確かだったのだから嘘ではないと自分に言い聞かせながら。


「分かった……」


そしてその私の言葉を聞いた後、仲間達は意を決した表情でそう呟いた。


ー 良し!


私はその様子に内心で笑う。

想像以上に自分の企みが上手くいったことに満足感を感じる。


「俺達はアリスに謝ら無いとなら無い……」



「えっ?」


だが、次の瞬間その私の内心の満足感は消え去った。

一瞬私の耳がおかしくなったのではないか、そんな錯覚に私は陥る。


「そう、だわよね……」


「っ!」


だが、そんなことがないことに私は直ぐに気づく。

その時ようやく私は悟った。

私と同じ目にあって、そして同じ状況に陥ったはずの仲間。

なのに彼らは私と全く違う選択をしたということを……

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