第35話 後日談

令嬢に手を出したことが暴かれ、それからさらに様々な罪が明らかになった王子は国王陛下の正式な宣言で平民まで堕とされることになった。

もう、王子には何があっても王家は関わらないという宣言と共に。

その結果2つの大きな出来事が起こった。

1つは今まで王子に苦渋を飲まされて来た人間、それも貴族や平民などの区別ない様々な人が王子に復讐をするべく動き出したのだ。

だが、最終的にその試みは成功することはなかった。


その理由は復讐の対象である王子の消滅。


当初、あまり頭のよろしくない王子はすぐに見つかるだろうと思われていたのだが、王子の存在はまるで霞のように消えてしまったのだ。

そして王子があまりにも証拠を残さずに消えてしまったことから、王子は伝説の大精霊の怒りを買ったのではないかという噂が立つほどだった。


実は王子は大貴族達の怒りを受け、その貴族達に引き取られて行ったという事実を知るものはごく僅かしかいない。



そしてもう1つの大きな出来事、それは罪人アリス・アストレアの婚約破棄そのものが取り消されたことだった……




◇◆◇




婚約破棄そのものが無かったことになった、それは正しくはない。

国王陛下に言われたのはただ、そなたの罪はこれまでの働きに免じ、帳消しにするという言葉。

そしてその言葉の意味はおそらく、王子の暴走を止めてくれたことに対する礼だったのだろう。

だから、アストレアの名前を名乗ることを許すという。


ーーー だが、世間には私が実は王子の悪事の証拠を掴むためのスパイだったという認識になっていた。


つまり、王子の婚約破棄は国王陛下の策略で、王子が執着していた令嬢に悪事の証拠を探すように言いつけており、その為に人々の悪意に挫けず仕事を全うしたのが私であるという風な勘違いが広まっていたのだ。


「アリス、大丈夫か?」


ーーー そしてそんな噂が広まった理由、それは偶然では無かった。


「はい、ありがとうございますお父様」


私は自分を心配げな視線で見て来る父に笑いかける。

王子の悪事が暴かれたことにより突然上がった私の株。

その理由は私が悪役令嬢であると言う噂を必死に否定して回ってくれたアストレア家の人々のお陰だった。

アストレア家の人々は私に拒絶され、絶望しながらもそれでも行動を起こし続けた。

そしてその結果が今の私の名声だった

そのことに私は酷く感謝している。

アストレア家のみんなにも、家族にも。


「アリス、本当に戻ってこないのか?」


「はい」


ーーー だけど私はアストレア家に戻るつもりはなかった。


「私にはこの場所にも大切な人ができました。決してアストレア家に帰りたくないわけではありません。けれども、その人達に恩返ししないとアストレア家に帰れないんです」


ー 馬鹿!アリスちゃん心配したじゃない!


私の頭に昨日帰った時、サリーさんに抱きしめられて告げられた言葉が頭によぎる。

その時のサリーの目には涙が浮かんでいて、あの気丈なサリーが泣いたことに私は酷く慌てた。


ー 無事でよかった……


でも次のサリーさんの言葉で私も泣いてしまって、その後からはもうはもうぐちゃぐちゃだった。

2人とも大声で泣いて、泣いているから何を言っても何言っているか分からなくて、


でもその時私は本当にサリーさんが私のことを心配してくれていたことを悟ったのだ。


そしてその時に私は決めたのだ。

もう私は罪人ではない。

城で下女として働く必要はない。

だったらいつかアストレア家に帰ることになるだろう。

けれども、その前にサリーさんに恩返しをしようと。

いや、私を助けてくれた全ての人に恩返しをしようと。


ーーー そう、サルマートにも。


私の頭に王子から私を救ってくれたあのサルマートの姿がよぎる。

何故彼が捕らえられていたのか、そして何故私を助けてくれたのか、様々な疑問は尽きない。

けれども、あの時彼に助けられた時は酷く嬉しくて……


「っ!」


そして何故かその時の光景を思い出した私の頬が突然熱くなってくる。

理由など分からない。

けれどもとても恥ずかしくなってきて、


「そうか、お前の恩人がこの街にか……って、その顔どうした?」


その私の顔に驚きお父様の言葉が途切れる。

そして私はお父様にも自分の異常を見られたことに気づき、さらなる羞恥を覚え、


「な、なんでもありません!私はこれで!」


逃げ出した。


「えっ?」


お父様が呆然としているのが分かる。

私の胸に罪悪感が生まれるが、だが胸の中にあるある感情のせいで私は立ち止まることが出来なかった………

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