第27話 決意 Ⅲ
「はは、」
サリーさんが去ってから私はしばらく黙って立ち尽くしていた。
そしてどれだけそのままの状態でじっとしていただろうか分からない。
だがようやくサリーさんの言葉が飲み込めた私は大きな声を提案立てて笑っていた。
それは弾けるような笑い。
もしかしたら宿屋に止まっている他の客にまできこるかもしれない。
そう分かっていながら、それでも私は笑うことをやめようとはしなかった。
本当に毎日しんどくて、折角助けて貰ったと思ったのに夢のようにその出来事は消えてしまったかも知れなくて、
ーーー だけど、ずっとサリーさんだけは私の味方であるとそう今は純粋に思えて私は笑う。
「本当、嬉しいなぁ……」
私はサリーさんのような存在をどれだけ望んでいただろうか。
今まで必死に望んで、それでも手に入らなかったそんな存在。
だけどようやく手に入ったのだ。
嬉しくないわけがない。
そしてだから私は笑顔で、ある揺るぎない決意をさらに確かにした。
「ーーー 絶対にもうサリーさんには手を出させない。王子はここで私が追放する」
◇◆◇
ー 変なことを考えるんじゃないよ!
未だサリーさんに言われた一言は耳に残っていて私の頬は自然と緩む。
本当にその言葉は嬉しくて、私は決してサリーさんは私が犠牲になってほしいなんてことを望んでいないことを教えて貰った。
ーーー だからこそ、私の決意はどんどん硬くなっていった。
おそらく私はまた王子に純潔を奪われた後後悔する。
それも周りの人を悲しませて、そして一番嫌いな人間に自分の大切なものを捧げでしまったことを悔やんで。
それは絶対で、今から私はその時のことが想像できて情けなくなってくる。
「なのに、何で私今笑っているんだろう……」
だけど、私の頬には隠しきれない凄絶な笑みが浮かんでいた。
鏡に映ったその自分の姿を見て、私は思わず言葉を失う。
だが、次に胸に溢れてきたのは懐かしいような感覚だった。
私は決して強くない。
特に人一倍の寂しがり屋で人に恨まれたりすると私は酷いストレスを覚える。
それは生まれた時から変わらない私という人間の性質。
ーーー なのに、何故か私は後悔すると分かる場面でも躊躇したことはなかった。
それは弟が夜の森で迷った時、1人で飛び出し迷って泣いていた時も、
そして婚約破棄された時もそう。
絶対に後悔する、そう分かっていてだけどそれでも私はこんな状況になれば迷わない。
いや、迷えない。
どれだけ先に後悔するか、そのことをわかりながらそれでも私は迷わず笑みまで浮かべながら行動を起こす。
「本当に、何でだろうね……」
それは私の中で酷く不可解なことだった。
本当に私は強くなし、別に自己犠牲が好きなわけではない。
だって私は自己犠牲たと思って行動したことは一度もないのだ。
それどころか頭には未来の破滅に対するイメージが精彩に出来ている。
ーーー なのに、いつも行動する前には自然と笑ってしまうのだ。
何故か凄く胸が熱くなって行動する以外のことが頭に浮かばなくなる。
それは私の異常で……
「いや、違う!」
だが、そう何時ものように首を捻って分からないで終わろうとした私はようやく何故自分がこんな時でも笑ってしまうのかを悟った。
「そうか。私は例え自分がどんな目にあっても、
ーーー 自分が一番に望んだことは果たしているんだ……」
そう、私は決しておかしなわけではなかった。
ただ、私自身の一番辛いことは自分の大切な人が苦しむことなのだ。
別に自分が苦しむことが楽ではない。
けど、それ以上にアストレア家の皆や、サリーさんは酷く素敵な人で、そんな人達が傷つくことの方が私はずっと辛いだけなんだ。
「私は弱い……」
そのことが、長年の疑問が、ようやく解けた時私は自然と微笑んでいた。
「だから、一番嫌なことをされたらもう立ち直れない。
だったら、私は何としてでも自分の一番に望むことはやり遂げる」
後でどれだけ後悔しても、それでも絶対に行動しなかった時よりはましなことが分かったから。
だから私は静かに精霊石を握りしめた。
ー 本当にお前は似ているよ。
頭の中、そんな青年の呟きが聞こえた気がした。
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