第33話

 急務はR子を探すことだった。一面の織田信長の中で、一角だけチェーンソーの音と怒声が聞こえる。それは3軒隣の庭からである。


「織田信長アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

「ぬううううう! 南蛮渡来の面妖な機器か! それを寄越せえええええええ!」

「死ねーーー! 私の怨みのために死ねーーーー!」

「あっちよ!」

「分かりやすすぎるだろアイツ!」


 3人は庭へと直行した。途中の織田信長の妨害は何とかそれぞれの身体能力で乗り越え、庭へとたどり着く。

 しかし、R子の移動速度はそれを上回っていた。

 女性型の織田信長が一人だけ倒れ伏していて、R子の姿はない。


「なんてこと! 早くも犠牲者が!」

「ホントにやりやがった、あいつ……!」

「おーい、大丈夫か!」


 SR子が助け起こした。流石に殺すのはマズいのである。

 織田信長は既に息絶えていた。もはやダメかと唇を噛むが、その時、織田信長の胸元からひょこっと虹色の物体が顔を出した。


「……?」


 それは。

 『石』。課金アイテムである。


「SR子! そいつを食わせろ!」

「え!? 何!? 食えるのこれ!」

「その子は課金アイテムが石のソシャゲから来たのよ! それを食べればコンテできるの!」

「何か分からんが、ホラ、喰え」


 織田信長の口に石を押し込むと、くちどけが余程いいらしく、あっさりと消えて無くなる石。

 すると織田信長は瞬時に目を覚ました。


「はっ! 人間50年!」

「よかった、生き返ったわ!」

「本当に蘇生した……」


 何だか理不尽に胸がもやもやしたが、とりあえず安心するSR子。

 織田信長はきょろきょろと周りを見回した後、何かを理解したらしい。そして――


「是非もなし!」


 襲い掛かってきた。


「オラー!」


 すかさずN子がカウンターし、沈黙させた。


「何で織田信長、こんな知能が低下してんだよ……英雄だろ一応」

「通って来る時にバグったんじゃないかしら。正式な招来方法じゃなかったし。それでこんなにも語彙力が低下してるんじゃ」

「つまりそれなりに理性のある個体を探せばいいってことだろうが……この数だと気が遠いし気が重いぜ」

「それよりR子だ! あいつが暴れてると余計にややこしくなる! あいつを探――」


 ズシン!

 地響きにSR子は言葉を打ち切った。

 ズシン! ズシン! ズシン!

 その音と地響きの出所を感覚を頼りに探すが、それは探す必要すらなかった。

 余りにも巨大にして、異様な姿の織田信長がそこには居たのである。


「あれは!?」

「超大型織田信長だ!」

『ミツヒデーーーーーーーーーーーーーー!』


 ズシンズシンと地響きを立てながら歩行する、天を突くようなサイズの織田信長は咆哮した。鎧すら纏わずに筋肉が露出した状態で歩き回り、口元から蒸気を噴き出す姿はまさに超大型である。

 それに気を取られていると、その横を獣のような毛で覆われた織田信長が通過する。更に巨大な銀色の鎧を纏った織田信長も出現。気持ちの悪い奇行をする織田信長まで観測出来る。


「どこが織田信長なんだよアレはもう! 獣の織田信長、鎧の織田信長、奇行種の織田信長! アイツはどんな扱い受けてんだよ!」

「本能寺の変の後っていう設定のようじゃない? デカさはともかく皮膚がないのはそんな解釈じゃないの、きっと」

「そのともかくで処理した辺りがおかしいだろーが! あと何で蒸気発してんの!? 焼死体は蒸気を発するのかよ!」

「ちょ……超大型……」


 ガタガタガタ。

 SR子が震えているのを、N子が気が付く。


「お、おい、大丈夫かSR姉貴?」

「超大型……」

「……?」


 そんな三人をよそに、超大型にかかる一つの影。

 水着姿でチェーンソーを二本装着し、ワイヤーを利用して空中を駆けるR子である。


「織田信長アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 怨嗟の籠った一撃は超大型のうなじを切り裂いた。

 そこから更にワイヤーを射出して姿勢を制御。再びうなじを切り裂く。


「やめてR子―――! ソシャゲ間問題に発展しちゃうわ! よそ様のゲームのキャラクターに手を出さないで!」

「R子―――! その3D機動装置どっから持ってきた!? あの日の少年かよお前は!」

「R子―――!」


 さっきまで震えっぱなしだったSR子が大声を発した。

 SSR子もN子もツッコミに回った今、この本家ツッコミ役は何を言うつもりなのか。固唾を飲んで二人は見守るが。

 その言葉は予想外を突き抜けた。


「頼む! それ貸してくれーーー!」

「え!? SR子どうしたの!?」

「貸してなんて!? ツッコミ続けて壊れちまったのか!?」


 そんな二人の言葉もろくに聞かず、SR子は目を輝かせていた。

 それこそ、憧れのヒーローを目の前にしたあの日の少年のように。


「あ、そうか! こいつアレの大ファンだったっけ!」

「なら無理も無いわ!」

「私も……! 私も、兵長になりたいんだ! R子―――!」

「ほら、女型ならゴロゴロいるだろ!? そっちで我慢しろ!」

「やだ! ちっちゃい! 私は超大型と戦いたい!」

「ミツヒデーーーーーーーーーーーーーー!」


 超大型織田信長が咆哮した。見ると、R子が超大型に片手で弾かれている。R子は高速回転しながら、こっちに飛んできた。


「きゃあ! R子――!」

「いくらサイコパスでもアレは死ぬ!」


 ギュルルルルルルルル!

 風を切り裂くチェーンソーは決して離さないのはその執念が為せる業だろう。下手に触れてしまうと惨殺死体は確定ルートだ。

 しかし、その脅威に立ち向かえるのは。


「R子―――! その装置をもらうぞーーー!」


 執念である。

 跳んだSR子は空中でチェーンソーを受け止める、チェーンソー白羽取りを行った。R子は回転を止めるが、即座にチェーンソーを引きはがされる。更に流れで装置まで解除され、SR子に所有権は移った。

 この間、SR子達は空中に居たまま。

 まさに執念。


「これで! これで私も! いやっふううううううううう!」


 直後、SR子は装置を射出して超大型に立ち向かっていった。


「心臓を捧げてやるーーー! 駆逐してやるぞ、織田信長アアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 そしてR子もまた、空中で意識を取り戻す。

 アクロバティックな動きで体を操って着地をすると、その両腕を広げて獣のようなポーズをとる。


「織田信長アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 そして跳躍し、超大型にかかっていった。


「……えっと。コレ、あの二人はもうナシでいいのかしら」

「いいんじゃね? SR子も日頃ツッコミだし、ストレスたまってんだろ。こういう時くらいいいじゃねえか」

「趣味って……素敵ね」


 二人はほのぼのと暴走する二人を見ていた。

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