第16話

「!」

「アイ・アム・レジェンドレアを破った程度でそのはしゃぎようとはな。あんなもの、ただ単に楽に屈させるからこそ使っていただけのことだ」

「ヒイーーーー! ご、ごめんなさいゼウス様! 全裸土下座すればいいですか!? 女体盛りをご所望ですかーー!」

「SSR姉貴回復早ェ! リジェネ持ちか!」

「処女だけは許して下さいイイイイイ! お願いします、処女だけは! 処女だけは奪わないで!」

「幽世との処女膜ぶち抜いたらーー!」

「私はヴァルハラよーー!」


 N子のラリアットが直撃した。


「その耳障りな声。さっきからやたらとやかましかったのも貴様らだな。いいだろう、ここで貴様らのやかましさにも引導を渡してやろう……一切の手加減抜きで、神の雷撃を叩きこんでくれる」

「キャーー! N子、アレの対策はしてあるの!? ほら何とかしなさいよ!」

「テメーが言うんじゃねーよSSR! Nに頼んな! この北欧神話のシミそばかす!」

「レーザー治療対象なの私!?」

「終わりだ、雑音共」


 更に音が激しさを増す。青い雷が手元に集約され、電気の球を形作る。それは何物をも容易く死に至らしめるだけの力を持つ、死の玉飾り。

 そして――





「ちょっと、ゼウスさん、だっけ。はい、ちょっとストップね。はい」


 ガシン。

 雷を、「握り潰された」。

 横から伸びてきた男の手。黒いスーツを纏った腕が、雷球を何の感情も無くかき消したのである。


「な!?」

「え!?」

「あ、あの人!?」


 誰もがどよめいた。

 その男とは。この村で唯一肉を持つ「男」は――売却担当の黒服。

 彼は今、ゼウスの真正面に立っていた。そしていかにも厄介者を扱うように、へりくだっているとも言える口調で話し始める。


「えーっとね、ゼウスさん。ちょっとここの村長さんから報告あってね。少しはしゃぎすぎてるって聞いたから、そういうの困るの。ちょっとついて来てもらっていい?」

「な、何だ貴様!? 何故私の雷を……! 私を誰と心得る!?」

「あー、うん、ホント、設定的に申し訳ないけどね、ちょっと本当に困ってるから……」

「やかましい! 喰らえ、ゴッド・サンダー!」


 ゼウスは両腕を掲げ、集約した雷撃を接射した。普通の生物ならばこのまま炭になってもおかしくない電圧だ。

 だが、


「……んー、やっぱり君は大人しく言っても無理みたいだね。ちょっとしばらく、おじさん達と暮らそう。ね?」


 無傷。

 ゼウスの顔が、どんどん青ざめていく。


「なん……だと……!? どういう……何故……!?」

「よっこらせ」

「! き、貴様! 私に触れるな!」


 ゼウスをひょいっと持ち上げ、肩に担ぎあげる。まるで子供を扱うような所作に抵抗を見せるが、水滴をぶつけられた程のダメージも受けていない。


「えーっと、キャラクターの皆さん、ごめんね、到着が遅れて。基本的には村長さんに任せてるけど、こういう時は誰でもおじさんのこと呼んでもいいからね。我慢しないで早めにね」

「何故だー! 何故効かん!? わ、私は最高神だぞ! レジェンドレア! レジェンドレアなんだぞーーー!」

「はいはい、行こうね行こうね」


 そして黒服は抵抗を続けるゼウスの攻撃を何とも思っていないかのように歩き続け、遂に村から姿を消す。

 デウス・エクス・マキナ。物語に唐突に終焉をもたらすべく作られた、機械仕掛けの神。

 この世界における「機械仕掛けの神」達にとってのそれとはきっと、肉仕掛けの人類が作ったプログラムなのだろう。

 この概念を生み出した「ギリシャ」神話の最高神の姿を見て、一同は背筋を寒くするのだった。

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