第3話告白の瞬間
6時間目が終わって、帰りの準備をしていく毎度の事ながら、置き勉をしない鞄はその日あった授業の教科書やらノートやらで自重を増してちょっとした凶器になりうる。
専らその凶器は自分の肩に重くのしかかって、対自分用の兵器になるわけなんだけど、それでも今日は軽い方で、鞄が軽くなれば気が軽くなるという、相対効果はあながち間違ってないのかもしれない。
先生の話が終わって、挨拶が済んでゾロゾロと教室から人が排出されていく、その流れに乗って写真部の部室へと向かう、廊下の開け放たれた窓からは早速の練習を始めた陸上部や野球部の声が、熱気とともに入ってくる。
これだけ暑いと、入道雲もよく育ってその姿はまるで某アニメ映画に出てくる龍の巣のよろしく見上げる空にそびえ立っている、部室の扉を開けるとひんやりとした冷気が廊下へ流れ出てきて熱気と入れ替わる様が肌を掠めていく。
扉を開けると待ってましたとばかりに、声が飛んでくる。
「日本の夏」
「キンチョーの夏。 ......あの、この挨拶なんなんです?」
「ん?夏限定!写真部の恒例行事~。的な?」
「なんだそれ?」
と、よく分からない解説を聞きつつ自分の席に座ってパソコンのスイッチを入れる。
「んでんで?陽斗君。君、近頃どうなのさ?美月くんとは」
「どうもこうもないですよ連続失敗記録更新中です...」
興味深げにこちらを見つつその返答に満足したのか、カメラを弄り出す写真部の先輩
「まぁ、それは置いといてだ。コンクールに出す写真は? 決まったのかい?」
「あの、晴夏先輩....さっきから質問の意図が読めないんですけど」
「何を言ってるのだ、陽斗君!私はこれほどまで単純明快に質問をしているというのに君は、この私がしている、質問の意図を探ろうとしているのかね?」
「それってつまり、興味本位でつついてたって宜しいです?」
「まぁまぁ、そんな怖い顔はやめてくれたまえ」
とそそくさと、自分の席へと戻っていった。
鞄からカメラを取り出してパソコンへと繋いでいく、この休日に夏の情景を撮ってきた、陽炎に揺らぐ線路、青々と茂ったどこまでも続く田んぼ、一本の大木と夏空、夕立後の虹、轟く稲妻
後から、いくらでも補正は効くけど心して撮っているのは補正せずと出せる写真。ホワイトバランス、露出、彩度等々それらは、補正に頼ってしまえばいくらでも見せれる写真は撮れてしまうのだから
撮ってきた写真を読み込んで、複製を作って先輩と他愛もない会話をしているとチャイムと共に校内に部活の終了と下校を促す放送が響く、コンクール用の写真をSDカードに入れて、パソコンの電源を落とす。
「晴夏先輩、そういえば先輩はコンクール出さないんですか?今日は特段何かをしている様子もなかったですし」
「ノンノン、はると君甘いよガムシロップを大量にぶち込んだ紅茶並みに甘いよ~!私は既に完成させてあるっ!ほら!これを見よっ!」
ドーンと音がつきそうな勢いで出された写真にはどこかの屋上で仲良さそうに話す、制服姿の男の子と女の子が写ってい......あれ?
「あの、先輩、つかぬ事をお伺いしますが、これいつ撮りました?」
「おっ、それ聞いちゃう!?聞いちゃう!?よしよし、そこまで気になるなら答えてあげようではないかー!この写真はだね、今日撮ったのだよ!!」
ふんすっ!とばかりに胸を張りドヤ顔を見せてくる先輩
「そこに写ってるの僕とミツキですよね?」
「ふふふ、だいせいかーい!いい雰囲気ではないか!完璧なまでの夏空と、その下で談笑する男女の淡い恋」
「先輩、その写真渡して下さい。」
「ん?なんだい?この写真が欲しいのかい?良いだろう。たーだーし!コンクールの応募締め切りまでに 返してくれ給えよ?」
手渡された写真をカバンにしまいつつ答える
「はい、こちらの写真はコンクールが終わるまで、預からせていただきますね!」
まぁ、確かにこの写真雰囲気は凄くいい。気持ちがいいほど深い青に染まった空に高々と伸びる積乱雲、どこか屋上は緑色に輝いて2人の生徒が楽しそうに笑ってる
「なっ、それは困るっと言いたいところだが生憎と元データがあるのでね!君に進呈しようではないか」
思案する表情から、再びニっと笑ってドヤァとばかりに宣言してされると、諦めもつくという感じが。
「....分かりました、しょうがないですね、ミツキには話しておきますがっ!!僕達の写真を使う以上は結果を出してくださいね?そうでないと許しません。」
鞄を肩に下げて、先輩と一緒に部室を出て鍵を閉める廊下の窓から外を見渡すと、空には暗雲が垂れ込み、外から入ってくる風も半袖の制服では肌寒い空気になっていた。
これは、一雨きそうだなと思いながら階段を連れ立って降ってゆく
「さて、ハルト君"告白"頑張りたまえよ?私は鍵を返してから帰るからここでお別れだ、ではまた来週かな?」
告白という部分だけをかなり大きな声で言われて、階段にその声が木霊するのを赤面しながら聞きつつ抗議しようとするけど、遠ざかってゆく背中をみながら「また、来週」と小さな声でつぶやくしか出来なかった。
下駄箱で上履きを袋にしまって靴へ履き替えて玄関に出ると一人ぽつんと佇んでいる美月がいた
「あっ、陽斗!写真部終わったんだね~」
「おう、終わって帰るところだけどこんな所でどうしたんだ?」
「ん?うん、帰ろうとして玄関まで来たら降り出しちゃって傘、持ってないから止むまで待とうかなー?って思ってたところ」
そう言われて、校庭に目を見やると降り出した雨が白く煙って、雲を成して立ち昇っている
「おぅ、本当だ結構強めに降ってるねー、そうだ今日折り畳み持ってきてるから駅まで送るよ」
そう言って傘を開いて、美月にうながすと少し下を向きながら隣に収まった。
「ハルトー、コンクールに出す写真決まったの?」校門を出た所で思い出したように、聞かれて
「まぁ、まだどれを出そうが決めかねてる」
とかえす
「そう言えば、吹部は?地区予選近いんじゃない?どんな感じなの?」
「んー、一応纏まりつつあるけどやっぱり指揮を見て演奏は、まだちょっと掛かりそう学指揮で出場なんて、珍しいからねー、私も頑張らなきゃ!」
そう言って小さくガッツポーズをする、彼女はやはり可愛い。
そんな意識を持ったからか、相合傘という事を強く意識し始めながら、赤面する顔を誤魔化すように口をついて言葉がでる。
「あのさ、美月。前々から、ずっと言いたかったんだけどおれ、お前のことがっ
《ピシャッ!ドッカーンゴロゴロロロロロ.....》」
「ひゃっ!」意を決した告白は雷に掻き消されて、雷鳴に驚いた美月が腕に捕まってくる。
「ごめん.....聞こえなかった、なにか、言ったかな?」
上目遣いで聞き返してくる美月にこの日、何度目かわからない赤面をしつつまたしても「何でもない」と返すのであった。
駅につくと、丁度列車がミツキが乗るやって来た乗り込んだミツキへ手を振りながら、ディーゼル音も高らかに、短尺レールの継ぎ目を踏む音が聞こえなくなるまで、列車の後ろ姿を見送るいつの間にか止んでいた雨に傘を閉じながら雲の切れ間から顔を覗かせた夕陽に溜息を投げるのであった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます