第35話 溶けない氷

こんな真夏の日差しの中で

彼女は少し笑いながら

「寒いね」ってつぶやいた


流れる汗とまぶしい光

足下から立ち上る熱気

夏の温度に抱かれたまま


寂しげに瞳を揺らす

彼女の体の奥底は

凍り付いて止まらない


その寒さを止める術を

誰も何も知らないから

彼女の中は凍り続ける


溶けることないツンドラが

彼女の真ん中を凍らせ続け

それはいつしか全身を覆った


その冷え切った指先を

この手で暖められたらいいのにと

両手でそっと覆って


震えている肩に

ぬくもりを差し出せたらいいのにと

身体ごと抱きしめて


汗だくのままで二人

炎天下で抱きしめ合って

溶けない氷に挑む


「ありがとう」とつぶやく彼女の

氷はほんの少しだけ溶けて

涙となってこぼれ落ちた

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