第九話 入学式

入学式が終わって教室に移動すると、そのまま自己紹介が始まった。それも終わり、一旦休憩となった。千春はすかさずかカバンから本を取り出して読み始める。

休憩が終わると先生からの説明があった。校内の施設の説明で図書館の番が回ってくると、千春はひときわ目を光らせた。しかし、先生の説明は

「この学校の図書館は非常に小さいものです。利用する人もあまりいません。」

と言うものだった。がっかりした千春だったが、それでもと帰りに図書館へ寄ってみることにした。図書館は予想を下回る狭さだった。本棚に並んでいる本も読んだことのあるものばかり。千春は

「こんなんじゃぜんぜん物足りないよ。やっぱり遠くても隣町の図書館へ行くしかないか。」

と独り言を言いながら図書館を出た。

次の日、各委員を決めるホームルームがあり、千春は図書委員に立候補した。他に立候補は無く、図書委員に決まった。

(まぁあんな図書館でも無いよりはマシだからね)

放課後、千春はまた図書館へと向かった。そこには先客がいた。女の子が一人、机で本を読んでいる。

(確か入学式にいた子だよね、ってことは私と同じ1年生か。)

と思いながら図書館に入ってドアを閉めると彼女のほうから話しかけてきた。


「あなた千春さんね」

「あ、はいそうです」

この中学には二つの小学校と三つの分校からの生徒が集まる。千春の通っていたのは小さな分校で、同級生は3人しかいなかった。ナノで千春にとって28人というのは大クラスである。なので最初の自己紹介でクラス全員の名前を覚えることはできず、相手の名前が出てこない。それを察したのか花音が話し始めた

「花音よ。覚えてないのも無理ないわ、私は今年からこの村に引っ越してきたんだもの。私は入学式からずっとあなたを見ていたけどね。」

最後の言葉が気になった。入学式から私を見ていた?なんで?軽く頭がパニック状態の千春を見て花音は

「くすくす」と笑い、

「だってあなた入学式が始まる前に本を読んでいたでしょ。」

花音の答えは千春にとっての答えとはならず、新たな疑問が生まれた。本を読んでいたから私を見ていた?なぜ?何で本?千春は改めてカノンの顔を見る。どこか楽しそうなその顔は私の心の中がすべてお見通しと言った感じだった。そしてそれを楽しんでいるようにも思えた。

「千春さん、本が好きでしょ。」

「は、はい」

「今年の入学制の中で一番ね。」

「意味が良く分からなかったが、確かに休み時間日本を読んだり、図書館に来たりするのは私だけだ。」

「だからあなたに決めたの。4人目を。」

もう何を言っているのかさっぱり分からなかった。とりあえずここから逃げて、誰か先生を呼んできたほうがいいかと思ったくらいである。

「あなたこの図書館に満足してる?」

「え?」

「聞くまでも無いわね。あなただったらここの本はほとんど読んだことがあるんじゃないの」

「ええ、まぁ」

「それじゃあつまらないわよね」

「でも仕方ないじゃないですか。となりの町には大きな図書館があるし、そっちへいけば・・」

千春の言葉をさえぎるように花音が話し始めた。

「それがそうでもないのよ。たとえばこの図書館の10倍の本があるとしたら?」

千春には見当がつかなかったが、3年間の中学生活で読書には困らない数であることは分かった。

「どこにあるんですか?」

千春は少し期待しながら花音に聞いてみた。

「ここよ、ここ」

花音の答えに千春の頭には?マークが浮かんだが、自分がからかわれているのだと気づいた。

「もうやめてください!わたし帰ります。」

と図書館を出て行こうとすると、

「まってまって、遊びすぎたのは謝るから、でも私はもう4回目だから・・まぁいいわ、本題に入りましょう。」

やっぱりからかわれていたんだと言う憤りと、本題に入るという意味深な言葉が千春の頭の中で整理される前に

「こっちこっち」

と花音に手を引かれて本の貸し出し机の前に連れて行かれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る