第6話



  「……え、祐樹にいの友達って、女の人だったの?……。」


  同人誌のお祭り当日。


  いつものようにキャミソールの中で黒く日焼けした柔らかそうな胸を揺らし……。


  は、別にいいとして、その幼馴染み兼イラストレーター兼本日のスペース管理人である素城栄美は、売り子として連れて来た聖良を見て何か怒ったような悲しそうなような、微妙な表情を見せた。


  が、すぐに元気な声になったのでさっきのはおれの見間違いだろう。

  何しろ栄美は肌が黒いせいで元々表情が分かり辛いのである。


  「中嶋さんですか、本日はよろしくお願いします! 祐樹にいもよろしく!!」


  と、栄美は聖良とおれに挨拶した。


  「……なにぶんこういった場所は不慣れなものでして。

  よろしくお願い申し上げます。」


  と、人気エッセイストの聖良も、この暑い中浴衣を着てその布地の擦れる音をサラサラと静かに聞かせながら栄美に微笑みを返す。


  いつも無表情の聖良が微笑むなんて珍しい事だ。

  その笑みがやけに含んだものが見られたの、が気になったが。



  それにしても、個人誌を出そうと決めてからの慌ただしさは凄かった。2、3年前に商業で本を出した時の事を懐かしくも熱くにがく思い出したくらいだった。


  しかしそんな期間でもmamiさんとは、毎日ツイッターで交流をした。

  まるでお互いを確かめ合うかのように。



  「今ヒロインの重要シーンを書いている所。」


  「どんな子だろうな〜。楽しみにしてます(^_^*)」


  「やっとストーリー下書き半分位まで書き上げましたあ!!」


  「お疲れ様です☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆ 睡眠も忘れないでくださいね…>_<…」


  「ちょっと休憩。へぎそば食べてます。」


  「美味しいですか? 私も食べてみたい( ゜д゜)」



  なんて。


 

  「明日のスペースは、すー◯aのサークルネーム『スジョウ屋』です。時間ありましたら是非遊びに来てください。」


  mamiさんからのメッセージは無かったが、ハートボタンのいいねだけは押されていた。

 

  実際、今日mamiさんに会えるのかどうか分からない。


  でも、仮にもおれの『大ファン』を自称してくれているmamiさんが。


  ブログでおれの本を何度も紹介してくれて、匿名掲示板のおれのトピックにも書き込んでくれている(と思われる。そういえばそれの確認はした事がないし別にしなくてもいいと思っている)おれのファンをしてくれてるmamiさんがおれの新刊を読んでくれないなんて事があるだろうか。


  来てくれない、としたら通販か?

  通販だとしたらmamiさんの住所が分かるからおれ的にはそれでもいいが。

  いや、行かないけどね! 紳士であれ!!



  「ほら、立って立って!」


  栄美が慌ただし気に言う。そろそろ開場の時間の様子だ。

 

 


「これより、一般入場を開始致します。」



  場内にアナウンスが流れる。

  一斉に拍手が起こる。

  恒例らしいので、おれも手を叩いた。お互いにこういう場所が初めての聖良もすました感じで、しかし物珍しそうに拍手をしている。


  mamiさん、来てくれないかな。

  おれは祈って手を叩いた。

 

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