③レイアナ
「とうとう私の元に帰ってきたか。知らない間に大人びてしまって、あの時の可愛さはどこへ行った
「そりゃあそうですよ。あれから10年経ったんですから、それだけ経てば人間誰だって変わりますって」
「……あぁ、もうその発言も可愛くない。」
僕は10年かけて、青い炎と桜を極めるまで魔術をメリア先生とアレイス先生の元で学んだ。そして最後に青の魔術を極めるために家庭教師の元に戻ってきた。身長こそ小柄で可愛らしい先生だが中身はとんでもないドSで人が困る姿を見るのを心の底から楽しんでいる厄介者な先生。黒いリボンのついたヘアゴムで左サイドに小さくお団子を作ったヘアスタイル、白に近い水色の髪は相変わらず昔から変わらない。切れ長な藤色の瞳で更にこちらを睨んでくるので慣れていない人だときっとすぐにごめんなさいと言いたくなるだろう。でも僕は怒っているわけではないとわかっているので苦笑してしまう。
「本当、父親そっくりな顔になったな。その造作もない笑顔は紛れもなくアルテマ様のものそのものだ。」
「そうですか? 僕、あんなに整った顔してますかね?」
「私はお前を何年見てきたと思ってる。その全くもって可愛くない態度も父そっくりだ。本当に苛めたくなるほどだ。」
「やめてください、レイアナ先生の苛めって氷の槍が地面から生えてくるとかって言うやつでしょ!?」
「ご明察。まぁ……今回はこのレイアナ・メルイド・ウィレイシア、教え子ではなく対等の相手として扱わせてもらうよ。」
肩出しの白いレース付きのオフショルトップスに紺色のキュロットスカートというまるで大学生のようなファッションをいくつになっても続ける、一番付き合いの長い僕の先生だった。レイアナ先生からは沢山の氷の魔術の応用術を学んだ。彼女お得意の氷のトラップの作り方、方向転換の仕方、型の変形のさせ方など今まで僕が聞いたことも見たこともないことを沢山教えてもらった。たまに、あまりにも出来が悪いと氷の槍をふくらはぎに刺されたりして苦痛を浴びせられる時もあったけれども、そうされて初めて僕は赤の契約書のように高い自己治癒力を持っていることに気づかされた。先生と一騎打ちした時、僕は先生の傷も治すことが出来た。緑の力である。常々、僕は力のある契約書に成長しているんだと感じた。
「ちゃんと体にも染みついているし大丈夫だろう。十分アルテマになる素質はあるだろう。もうお前はムカつく金髪にしか見えんよ」
「うーん、それって褒めてます?」
「褒めているよ。全く遊びがいのない無駄美人だ。」
「褒めた後に確実に貶してますよね?」
「……イリアス、最後に最後に言っておく。」
合格を貰った最後の日、レイアナ先生は面白くない奴だといいながら僕に言った。こんなに真剣な顔をしているのは僕も初めてだったので少し緊張を覚えた。
「どうか本当に面白くない奴にならないでくれ。冗談を言えないような男にはならないでくれ。人の死を見て嗤って楽しむ奴になんてならないでくれ!!」
……あの時はあれほど心に残っていた言葉。簡単に僕はその言葉を忘れ、今継承戦争を行っている。
* *
「後に知った。それは父をさしていたということを。レイアナ先生は僕の父親の元恋人で、家庭教師としてずっと彼を見ていたということを。父は後にレイアナ先生に殺められて僕にアルテマの座は回ってきた。そのすぐ後くらいに先生の死刑が決まってそれを止めに行ったら椅子に縛りつけられちゃった。」
「……本当にあなたのお父さんはそんな人だったんですか?」
「どうだろう。正直僕はお父さんの顔もわからないし、話したことも数えるほどしかないからあまり知らないんだ。きっと継承戦争を楽しんでいた僕と同じ感情になっていたんだろうって今になってわかるくらい。僕はあの子をみて、すごく思う。人の命は、とても重いものなんだと。たった一人の死が……あれほど純粋無垢だった少女をあんな化け物に変えてしまった。」
レイアナ先生が浮かんで、僕はとても辛くなる。
そう言うとアルテマは有子を見た。彼女は悲しげな表情で俯いていた。
「君は、本当に苛立ちを覚えるほどレイアナ先生に似ているよ。」
父を殺した理由があんなことじゃなければ……君を見てこんな気持ちにはならなかっただろうに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます