エピローグ 解決編

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謹啓 深秋の候

皆様には、お健やかにお過ごしのこととお喜び申し上げます。

さて、このたび、私たちは結婚式を挙げることになりました。

是非、皆様に挙式の立会人になって見届けていただきたく……(略


田村次郎

中野春江


僕ら元に、ペンションオーナーと春江さんの結婚式の招待状が届けられたのは、あれから半年後の事だった。


僕は、結婚式に招待されるのに価するような事をしたか疑問に感じていた。

しかし、僕らの結束を強固な物にしてくれた思い出の場で再び集まれる事は、僕らの楽しみとなっていた。



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僕らは、前日からペンション入りして、準備を手伝う事になっていた。

人前式の結婚式で、参加者は、うちらの他は、ほぼ新郎新婦の両親と直近の兄弟のみの小規模な物だ。

式場は、ペンションの裏庭を使う事になっている。


料理の手伝い、飾り付け、小道具のセットアップ、リハーサルなどで僕らは多忙を極めた。

それは、忙しい一日だったが、日が沈む頃には、なんとか準備を終える事ができた。



結婚式の前日の夜もオーナーは、自分で厨房に立って、僕らに料理を振舞ってくれた。

以前来た時もとても美味しかったが、今度の料理は、今まで口にしたどんな料理よりも、美しく、美味しく、香り豊かで、それでいて暖かみがある料理だった。

料理が男主体だったからか、片付けと皿洗いは女性陣が取り仕切った。


「ごだい君、少し二人で散歩しないか?」

暇を持て余し、リビングのソファに腰を沈めていたところを、厨房から出ていたオーナーに声をかけられた。


「僕もそうしたいと思っていたところです。」

そう、オーナーに聞きたい事が積もっていた。


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僕らは、満天の星空の下、ペンションの一階のバルコニーに手すりに体を傾けた。

バルコニーまで歩くことを散歩とは言わないだろうが、要は場所を変えたかったのだ。


僕から、オーナー切り出した。

ずっと気になっていた事を聞くためだ。


「オーナーは、どうして、こんなに『ささやかな』結婚式に僕らを招待したんですか?僕らとオーナーは、たった一度しか会ってないのに」


完全身内だけの結婚式の中、僕らだけ完全に異分子のような面子である。


「大体検討はついてるんじゃないのかい?」


オーナーは、僕の方を見ずに、空を見上げている。

僕もオーナーから目を離し、上を見上げ、なんとなくオリオンの光に視線を合わせた。


「……わからない事も沢山ありますが。」


「聞かせてもらおうか。名探偵ごだい君」

オーナーは、僕の方に顔を向ける。目が合った。

人を試しているというより期待に胸を弾ませている。そんな口調だ。



「まず、オフ会二日目の脅迫文ですが、置くこと自体は、誰にでも可能でした。


内容は、ゲームの再現をしているだけと軽視していましたが、内容こそが重要でした。


『こんや じゅうにじ だれかが きえる』


ゲームとの違いは、『しぬ』が『きえる』になっている点です。


大差はないと思っていましたが、その……」


僕は、ここでは超自然現象については触れたくなかった。


「実際に十二時に、『誰かが』が消えた」

オーナーが、代弁してくれる。


「そうです」

僕は、『なぜあなたオーナーがそれを知っているのですか?』などとは聞かない。


「つまり、誰かが消える事を知っていた。

または、そうなる可能性が高い事を知っていた人物が、あの脅迫文を書いたんです。」


「ほう、面白い推理だ。で、それは誰かね?」


「あなたです。オーナー。」

僕は、オーナーを凝視する。


「証拠は?」

オーナーは、微笑を崩さずに言う。


「このような非科学的な事は、捜査上、決定的な証拠になるか分かりませんが…『留意物』です。」


「あなたは、本当に熱狂的とも言える原作ファンです。

細部に至って、本当によくゲーム内のペンションを再現されている。


ゲーム内のペンションは、このペンションをモデルにしているわけですが、ゲームの都合で改竄が入っている。

あなたは、その違いをまたペンションに取り入れて、ペンションをゲーム通り仕上げました。

それは本当に巧妙に作られていて、ゲーム内のペンションと見分けがつかないぐらいです。


ただ一点を除いて。」 


僕は、星を眺めながら淡々と答える。


「続けてくれたまえ」


「それは、鳩時計の中身です。

原作的には、鳩時計の中には、玩具の宝石が入っているはずでした。

しかし入っていたのは、ロケットのペンダント。

それも、『初代オーナー』の物です。」


「あなたは、それをなんらかの理由で動かせなかった。

恐らく、動かすと何らか反発が起こるからじゃないですかね?

普段は、南京錠な何かをして、イタズラで鳩時計の中は開けられないようにしていた。


しかし、あの日だけは開けておいた。僕が解決に来るからです。」


「ははっ!はははっ!」

『パチパチパチパチ』とオーナーは拍手をしながら、高笑いをした。


「ほぼほぼ完璧な推理だよ。

そう、あのロケットのペンダントを動かすと、『反発』する。

それには、僕も困っていたんだ。まさか、君がそれを解決してくれたのかい?」


「とぼけないで下さい。

あなたは、僕なら解決できると思って、連れてきたのでしょう?

ツイッターの『抽選』と言う名の指名招待をして。」


「くは!そこまで気づいてくれたのか!」

オーナーは、歓喜した。


「一つだけ君の推理にケチをつけるとしたら、あの脅迫文の内容は、お父さんが成仏されるの知っていたからではなく、むしろ君のお父さんにお願いとして書いた物だ。


僕はやる事をやったから、もういい加減に成仏してくれないかと『旧友』に、メッセージを込めてたんだ。」


「旧友?」


「うん、僕と君のお父さんは、昔からの友達だった。友達と言っても、お父さんが自殺してしまう事を食い止められなかったから、おこがましいかも知れないが……


その…幽霊になってしまった君のお父さんを助けたかった。」


「メッセージは、聞かれたと思います。丁度、12時でしたから。」

僕は、窓を開けた時に一階の鳩時計から聞こえた12時に知らせを思い出した。


「そうか… それは、良かった。

イタズラに模した形だったから、怒ってないかと心配だったんだ。

死因となんらかの関係のある手段以外、伝える方法がなかった感じだったからね。


兎に角、君にはお世話になった。

早くお父さんが行ってくれないと、春江を迎えられないからね。

嫁にいった先にお化けが出たら、君のお父さんの二の舞になってしまうかも知れないだろう?全て話すにしても、解決してから式を挙げたかった。


これは、想定外だろう?」


「ええ、想定外です。春江さんが中々結婚してくれない事を嘆いているのは、実は聞いてましたけどね。」


「そうか…だいぶ気苦労をかけたみたいだな。その借りは、これから返していく事にするよ」


そう言いながら、オーナーはペンションの玄関の方に体を向けて、歩きだす。

僕もそれに続く。ここでしか出来ない話は、終わりだろう。


ドアノブにオーナーに手を掛けた時、僕の方を振り向いて言った。


「こんな感じの結婚式でも良かったら、うちを使ってもらって構わないからな。

返す借りは、幾らでもあると思ってるんだ。」


僕は、返答に困り、感謝の気持ちだけを返した。


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雲ひとつ無い晴れ渡った快晴の昼前。

正装した男女十四人が、ペンションの裏庭で、新郎新婦を取り囲む。


祭祀服を着た男性は、誓いの言葉を唱え、新郎新婦に復唱させた。

「……中野春江さんを、一生愛する事を誓います。」

「……田村次郎さんを、一生愛する事を誓います。」


ジョン・スミスに扮したオジさんは、今度は牧師に扮している。インチキ牧師は、二人に誓いの印にと口づけを促す。

「では、誓いの口づけを」


タキシードに身を包んだオーナーは、ゆっくりと厳かにベールを取り払うと、ウェディングドレスの春江さんに優しく口に口づけをした。


僕は、勢いよく鐘を振り回し、奏で、カランカランと鐘が鳴り響く。


少し遅れて、オルガンの演奏がそれに続く。

新郎新婦が退場する時のクラシックの代表、『メンデルスゾーン』だ。


そして、子供用のタキシードを着たせいちゃんが、新郎新婦の前を歩き、白い花びらを撒いて、道を作る。

拍手喝采の中、二人は腕を組んで、花弁シャワーの中をゆっくりと歩いていく。


春江さんは、手に持っていた白百合のブーケを空高く投げた。


わっと軽く喝采が沸き起こり、みんなの視線がブーケに集中する。


それは優しく風に乗って、幾分かゆったりと落ちていく。


僕の目もブーケを追いかけていく…………


その先には、キョトンとした顔でブーケを抱える、赤いドレス姿のリッカさんの姿があった……

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恐怖を恋えて Dary@だりゅーん @Dary

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