筒六ルート19話 兄妹の存在

日曜が過ぎ、週明けしてから何日か経過したが、いつものように昼休みは筒六と一緒に食事している。そう、その光景はいつも通りだ。

「…………」

「筒六?」

「! ――なんですか?」

「またボーッとしてたぞ?」

「すみません……」

「どうしたんだ? このところ、ずっとその調子だぞ?」

「……そうですか?」

「週明けしてからずっとだ。それも日に日に多くなってる」

「……すみません」

「疲れてるのか?」

「いえ」

「悩みでもあるのか?」

「いえ」

「水泳の調子は?」

「いつも通りです」

「なら、どうして?」

「わかりません」

「わからないって……」

「私自身、その自覚がないので」

「ボーッとしてることがか?」

「はい」

それ、なんかやばいんじゃねえか。なにか原因がないか、考えていると昼休み終了の予鈴が鳴った。

「予鈴ですね。では、また明日」

「お、おう。またな」

筒六はまるで事務をこなすように挨拶を終え、校舎へ向かっていった。

明らかに様子が変だ。元気がないとか疲れてるとか、そんな感じはするんだけど、なんか違うんだよな。部活にはちゃんと行ってるみたいだから、水泳のことで悩みがあるってわけじゃないんだろうし……。

「わかんねえ……」


「…………」

午後の授業が始まってから、放課後に至るまでずっと筒六のことを考えていたが、筒六が今の状態になっている心当たりがまるでなかった。

「誠ちゃん、帰らないの?」

「んー、ああ……」

「なにか悩みでもあるんですか?」

「なんで?」

「今週に入ってから、ずっとその調子ですので」

「すまんな」

「…………」

「こら、誠ちゃん」

紗智は俺の頭をコツンと叩く。

「なんだよ?」

「麻衣ちゃんはね、誠ちゃんのこと心配して言ってあげてるんだよ? それをなんでそんな言い方するの?」

「いいんです、紗智さん。私が余計なことを聞いただけなので……」

「よくないよ」

「待て、なんで俺が悪いみたいな雰囲気なんだ?」

「麻衣ちゃんへの返事がダメ!」

「なんだよ、それ? 謝っただけだろ?」

「言い方だよ」

「言い方ぁ?」

「そうだよ。えーと、なんて言うんだっけ? なんとかに構えるみたいな言い方――」

「えっと、斜に構える、ですか?」

「それそれ! さっきの誠ちゃん、そういう態度してた!」

「そうだったか?」

「紗智さん、鷲宮さんは決して、そのような――」

「そうだった!」

俺は紗智の顔を見て冗談でないと、すぐにわかった。

「悪い……」

「鷲宮さん……?」

「本気でそういうつもりはなかったんだ。でも、そう聞こえたのなら悪い……」

「…………」

くそ、なにやってんだ俺は……。考えてるのは筒六のことだけど、自分のことで頭いっぱいで全然周りが見えてない。そのせいで雰囲気悪くするなんて最低だ。

「……わざとじゃないみたいだから、もういいよ」

「…………」

「なにが原因かは知らないけど、周りに迷惑かけるのはよくないよ」

「ああ……」

「迷惑かけるぐらいなら、頼ってくれたほうが何倍もマシだよ」

「そう……だよな」

「あの、私は本当に大丈夫ですから、あまりお気になさらないでください」

「ありがと、三原」

「いえ……」

「あたしたちは帰るけど、誠ちゃんはどうするの?」

「俺は1人で帰るよ。考えたいこともあるし」

「そっか。晩ご飯までには帰っておいでね?」

「ああ」

「それでは、また明日」

「じゃあな、三原」

教室から出て行く紗智と三原に心の中で謝罪する。お前らはなにも関係ないのに、申し訳ねえ。

「…………」

ここにいてもしょうがないし、場所変えるか。


「ふう……」

公園のベンチに腰掛けながら、一息つく。公園で遊ぶ子供たちの声はうるさいが、家には紗智がいるだろうし、ここのほうが落ち着ける。

「……頼ってくれたほうがマシか」

紗智の言う通りだ。筒六のことを迷惑だなんて思ったことないけど、なにかあるのに頼ってくれないのは確かに辛い。本人はそのつもりはなくても、信頼されていないのかと心配になってくる。

「はあ……」

「あら、誠くん?」

「ん?」

うなだれていた顔を上げると、そこには4人の子供を連れた久乃さんがいた。この子供たちってもしかして――

「やっぱり、誠くんだった。ほら、あんたたちご挨拶なさい」

「おれ、たいち!」

「わたし、そらー!」

「……やまと」

「あたち、ひかりー」

「こ、こんにちは、俺は誠だよ」

行儀良く挨拶をする幼い子たちに俺は慣れない挨拶を返す。

「はい、5人ともよくできました」

何気に俺も含まれてる。

「えっと、この子たちって――」

「私の子供だよ」

「じゃあ、筒六の弟と妹ってことですよね?」

「そんなの当たり前でしょ?」

5人兄弟と聞いてはいたが、こうして見ると本当に多いな。

「お母さん、お母さん」

「なに、太一?」

「この人、つつむ姉のこいびとなんでしょ?」

「ぶふー!」

長男坊であろう太一君の言葉に俺は思わず吹き出してしまう。

「あー、それ、そらもしってるよー!」

「ねえさんの……こいびと……」

「ねえねえ、こいびとってちいさいひとのことー?」

「こら、太一! どこで聞いたの?」

これは久乃さんも知らなかったようで、太一君に詰め寄っている。

「べ、べつにだれにも聞いてないよ……」

「えー、そらにはこの前、お姉ちゃんのつくえで写真見つけたって言ってたじゃん」

写真?

「あ、なんで言うんだよ――」

「太一ー? 帰ったら、少しお話しようね?」

「ひい~」

久乃さんの恐怖の笑顔に太一君は震え上がっている。

「ねえさんの……こいびと……」

「えーと、太一君? 写真ってどんなの?」

なんの写真を見て、俺が筒六の恋人だとを知ったのか気になり、太一君に聞いてみる。

「お、おれ、写真なんて知らないよ?」

「えっとね、お魚さんといっしょにうつってるやつ」

太一君の必死のごかましも、空ちゃんが隣でベラベラと喋るせいで無意味なものになっている。

「お魚?」

久乃さんの頭に疑問符が浮かんでいる。筒六、久乃さんにはなにも言ってないんだな。

「この前、筒六と水族館に行ったときのやつだと思います」

「ああ、なるほどね」

それで恋人って言ってたのか。本当に恋人って知ってて言ったわけじゃないんだな。

「それで誠くんはここでなにを――」

「おさかなさん、よるごはんだー! ひかる、だいちゅきー!」

「ねえねえ、そら、お腹すいたよー」

「ねえさんとあそびたい……」

「あ、ずるい! おれがつつむ姉と一緒にあそぶ!」

「えー! 今日は、そらとあそぶってやくそくしてるもん!」

「ひかる、おままごとがいいー!」

筒六は大人気だな。

「ああもう、わかったから。ごめんね、誠くん。そういうわけでもう行くから」

「久乃さん」

「なに?」

「時間ある日ないですか? 少しお話したいことが……」

「そうねえ、明日のこの時間なら大丈夫よ」

「じゃあ、場所はここで」

「うん、おっけー」

「お母さーん!」

「はいはい、行こうね」

久乃さんは半ば子供たちに連行される形で去っていった。大和君だけは俺のほうをずっと睨んでたけど……。あれだけ子供がいると大変そうだな。でも、久乃さんのことだから、ちゃんと子供一人一人、よく観察してるんだろうなあ。

「その久乃さんを説教したっていう親父は根性あるな」

せっかく久乃さんに会えたから筒六のこと相談しようと思ったけど、明日までお預けだな。


「うぅ~ん……!」

俺は布団の上で背筋を伸ばしながら、仲野一家について考えており、それで1つわかったことがある。筒六はどうしてあんなに俺を転がすのが上手いのか。それはあの兄妹たちの存在だろう。4人もの兄妹をまとめあげるのは並大抵のことじゃ務まらない。俺への対応はそこで培われた能力なのだろう。そう考えると筒六からすれば、俺の扱いは弟を扱うのと同じってわけだ。

「俺、そんなに子供っぽいかな……」

なんだか自分の精神年齢が不安になってきた。余計なこと考えてないで寝よ。

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