筒六ルート14話 期待と迷い
「1週間以上は長いなとか思ってたけど、過ぎてみればあっという間だな」
昼休み、こうやって筒六と一緒に昼食をとるのが当たり前になってきた頃、俺はデートの約束をした日のことを思い出しながら、筒六に話しかける。
「…………」
「筒六?」
「え、なんですか?」
「なんだよ、聞いてなかったのか?」
「すみません、ボーッとしてて……」
「疲れてるのか?」
「いえ、そういうわけでは……。えーと、誠さんが昨日、道路の白線で反復横跳びをしていたって話でしたっけ?」
「そんな話は一言もしていない。デートの約束をして、もう1週間ぐらいになるんだな、時間が過ぎるのは早いなって話だ」
「そうですね。明後日にはもう練習試合があるんですよね」
「って、そこは俺とのデートの日って言って欲しかったんだけど」
「すみません、もちろんそれも楽しみですよ」
「筒六にとって水泳は切っても切り離せないものだろうし、それに真剣に取り組んでる筒六を見るのも好きだから別にいいけどさ。でも、すまんな。そういうときなのに、俺にちょくちょく会いに来てくれて」
筒六は部活が終わった後、少しの時間だけだが、俺の家に来てくれて、2人の時間を作ってくれていた。部活で疲れているだろうに申し訳ないという気持ちと、嬉しいという気持ちで俺の心はいっぱいだった。
「それは平気です。昼休みにしか会えないのは、寂しいですから。でも、今日と明日は……」
「気にするなって。明後日、練習試合を控えてるんだし、そっちを優先しろ」
「ありがとうございます」
「その後、調子はどうだ?」
「以前に比べたら戻ってきましたが、まだ本調子とは言えません」
「そっか。試合には間に合いそうか?」
「…………」
筒六の沈黙を見て、安易に聞いてしまったことを後悔する。
「すまん……」
「なぜ謝るんですか?」
「俺、水泳のこととかなにもわからないのに、余計なこと聞いちゃったかなって……」
「そんなことは――」
「それに筒六がそんな状態なのに、俺との時間まで作ってくれてたなんて知らなくて……。それに気づけなくて、ごめんな」
「それは私がそうしたかったからで、誠さんは悪くありません。練習試合までに本来の力を発揮できそうにはありませんけど、それでも十分な結果が残せるぐらいには調子も戻っています。ですから、心配することもありません」
「本当か?」
「はい。公式試合でもありませんから、気負いすることもないですし、逆にこれが刺激になって元通りになる可能性もあります誠さんは自分を責める必要なんて、全くないんですよ?」
「筒六がそう言うのなら、これ以上は言わない。ともかく、明後日の試合頑張れよ?」
「それはもちろんです。誠さんこそ、頑張ってくださいね?」
「ん? なにをだ?」
「明後日のデートに決まってるじゃないですか。誠さんの考えるデートプラン、楽しみにしてますよ?」
「お、おう! 任せとけ!」
そんなこと1mmも考えてないが、今からでも間に合う。当日までには策を練らなければ……。
「うーん……」
紗智が夕食を作ってくれている間、俺は自室に篭もり、筒六とのデートプランを練っていた。そうは言ってもなあ……。デートなんてしたことねえし、どんなところがいいとかわからねえし。そもそも、筒六の好みとかあんまり聞いたことなかったな。俺にはまだ恋人としての自覚が足りないのかもしれない。
「誠ちゃーん」
だいたいデートってなにすればいいんだ? 外でカップルは見かけたことあるけど、なにをしているんだろうか。
「誠ちゃんってば」
手を繋いで歩くだけ? いくらなんでもそれはありえんだろ。公園とかも悪くないけど、初デートにそれはどうだろう。
「ねえ、誠ちゃん」
2人で楽しめるような、なにかイベントみたいなものがあればいいんだけど……。
「誠ちゃん!」
「わっ! ビックリした! 急に大声出すなよ」
俺の知らぬうちに、紗智は部屋に入ってきていた。
「急じゃないよ。さっきから呼んでたじゃん」
「そうだったか?」
「ほうら、気づいてない」
「どうかしたか? 俺は今、大事な考え事を――」
「筒六ちゃんとはどう?」
「どうって?」
「仲良くやってる?」
「それはまあ」
「ちゃんとデートとかしてあげてる?」
「うえっ!? げほっ、げほっ……」
「その様子だとしてないでしょ?」
「う、うるせーよ。なんでお前にそんなこと言われなきゃいけないんだ」
「誠ちゃんのことだから、多分そうだろうって思ってたよ」
「色々と都合があるんだよ。あっちは部活してるし、時間がないだけだ。それに明後日には約束してある」
「へえ、そうなんだ。どこ行くか決めてあるの?」
「いや、それはまだ……」
「やっぱりねえ」
「さっきからなんだよ。余計なことばっかり言いやがって」
「あれれ? そんなこと言ってていいのかな?」
紗智はなにやら含みのある顔をする。その顔、ムカつくからやめろ。
「なんだよ?」
「ふふーん、せっかく迷えるデートプランナーにお助けアイテムをプレゼントしてあげようと思ったのになあ?」
「お助けアイテム?」
「これ、なーんだ?」
紗智はポケットから、2枚の紙切れを取り出し得意げに見せてきた。
「『水族館無料招待券及びイルカショー特別体験付き』?」
2枚の紙切れの正体は水族館への無料招待券だった。そのうちの1枚はイルカショーの体験付きのようだ。
「実は今日、商店街で買い物してたら福引やっててさ。買い物したときにもらった福引券でやってみたら、当たっちゃったんだ。本当は1等のハワイ家族旅行が欲しかったんだけどね」
「そうか。ま、欲しくないものが当たっても仕方ないしな。これは俺がもらっておこう」
「おっと待った!」
俺が招待券を掠め取ろうとしたが、さっと避けられてしまう。
「無理にもらわなくてもいいんだよ? 誠ちゃんがすでにデート内容を考えているんなら、必要ないでしょ?」
「左様だ。しかし、いらないものを持っててもしょうがないとは思わんかね?」
「待った! 誠ちゃんに渡さない場合は、麻衣ちゃんと一緒に行くから完全にいらないものじゃないよ? ちょうど2枚あるからね。デート内容、考えてないようだから本当は欲しいんでしょ?」
「そ、そんなことねえよ?」
「では、デートプランを企画してあると?」
「そ、そうだ。しかし、紗智がそれを不必要と言うなら――」
「異議あり!」
紗智は人差し指を俺につきつけ、叫ぶ。
「!?」
「誠ちゃんのその発言には大きなムジュンがあるよ!」
「ば、バカなこと言うな! 俺の発言にムジュンなど……」
「誠ちゃんはデートプランを考えてある、そう言うんだね?」
「ああ、そうだ」
「でも、このチケットをもらうのは、あたしがこれを不必要としているからだと?」
「さっきからそう言ってるだろ?」
「本当にそうかな?」
「どういう意味だ?」
「あたしがデートのことを聞き始めたとき、誠ちゃん言ってたよね?」
「なにをだ?」
「あたしがどこかに行くか決めてるのって聞いたとき、誠ちゃんは確かに『それはまだ……』と言っている!」
「!?」
「これはどういうことかな?」
「ぐ、ぐ、ぐぐぐ……お、俺は……」
「ふっふっふ、くらえ!」
今度は人差し指でなく、2枚のチケットを俺につきつけてくる。
「さあ、誠ちゃん? 正直になったほうが身の為だと思うよ?」
「うぐああ!」
なんということだ……俺が紗智に負けるなんて……。
「紗智……」
「なに?」
「そのチケット……ください……」
「うん、正直でよろしい」
紗智はゆっくり俺の手にチケットを手渡してきた。
「これで筒六ちゃんと楽しんできて」
「紗智、お前いいやつだなあ……」
「はいはい、わかったから。さっさとご飯食べる食べる」
紗智に背中を押され、リビングまで移動した俺は紗智の言葉に従い、鼻をすすりながら飯にありついた。
「水族館か……」
紗智が帰った後、俺は布団で横たわりながら、2枚のチケットを眺める。紗智のおかげでデートの宛てが出来た。これなら、筒六も喜んでくれるだろう。
「なぜか手に入れるのに変な法廷コントしてしまったが……」
そうだ! 明日、昼休みに筒六に見せてやろう! これを楽しみにすれば、練習も捗って、試合にも気合が入るかもしれんからな。
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