鈴ルート7話 制覇まであと一歩
「…………」
朝の肌寒い風を顔に浴び、普通なら身震いの1つでもしながら登校するところだが、それさえ忘れて、ただただ紗智と三原の後に続くように歩を進める。
「鷲宮さん?」
「え、なんだ? 三原?」
「なんだかボーッとしてましたので、何度もお呼びしたのですが……」
「わ、悪い……」
「ね? 誠ちゃん、ここ1週間ぐらいずっとこうなんだよ」
鈴下が俺の家に来始めてから、1週間とちょっとが経過して、依然として俺の中にある鈴下への気持ちはモヤモヤしたままだった。頭の中でそればかりが思い浮かばれて、ついボーッとしてしまうことが多い。それで授業中も、何回か注意された。
「私も少し気になっていました。鷲宮さん、最近はいつも心ここに在らず、といった感じです」
「なにか悩みでもあるの?」
「いや……」
「もう! いつ聞いても、それしか言わないじゃん」
この際だし、聞いてみようかな。
「あのさ……」
「はい」
「鈴下って、俺のこと好きかな?」
「えっ?」
「へっ?」
「あっ?」
ストレートすぎたー!
「あ、違う! そういことじゃなくてだな……」
「誠ちゃん、自分に自信がないとはいえ、まず周りから探りを入れるのは男らしくないよ」
「鷲宮さん、私その……鈴さんのこと、詳しくはないのでなんとも……」
「だから、そういうことじゃ……ん? 紗智!? 今、なんて言った?!」
「誠ちゃん、あたしの元から離れるのは悲しい。でもね、どうせならあたしにとって、カッコイイままの誠ちゃんでいて……」
「鷲宮さん、私にはそのような経験はありませんので、なんとアドバイスすればいいか……」
「だああ! 違うって言ってるだろ!」
その後、この2人の誤解を解くのに10分かかった。
「今日のご飯はなににしようかな~」
「毎日、献立考えるの、大変ではないですか?」
「そうだけど、美味しいって言ってもらえるのを想像すると、自然とどういうのがいいかって決まっちゃうよ」
「紗智さんが作る料理なんですから、美味しいに決まってますよ。ね、鷲宮さん?」
「ん、ああ。紗智の料理は普通に美味しいよ」
「普通にってなんだよう。鈴ちゃんも美味しいって思ってくれてるかな?」
「きっと喜んでくれてますよ」
「そうだといいなあ。今日も喜んでもらえるように頑張って作らなきゃ!」
「応援してます、紗智さん」
「俺にも喜んでもらえるように頑張ってくれ」
「誠ちゃんはなに作っても、うめーうめーってしか言わないから、あんまり気にしてないよ?」
「さいですか……」
自業自得、ここに極まれり……。
教室に着いてから、改めて鈴下のことを2人に相談する。
「嫌ってないと思いますけど」
「うん。普通に先輩として、慕っているとは思うよ」
「そうかなあ」
「鈴ちゃん、素直じゃないから態度には出さないけど、たまに出てるときあるもん」
「それならいいんだけど……」
「試しに聞いてみたら?」
「そんなこと聞いたら、さっきのお前らと同じ反応しそうだから、聞けないんだよ」
「なにかきっかけでもあればいいんですけど……」
「きっかけか……」
午前の授業中、ずっと考えていたが、依然として答えは出ないまま、昼休みを迎えてしまった。きっかけって言っても、どこか遊び出かけるっていうのもあからさまな気が――待てよ……。
「紗智!」
「わっ! ビックリした!?」
「今、何月だっけ?」
「12月だけど?」
てことは、もう『バーウォー』が稼働してるかもしれない。稼働日に一緒に行こうと思ってたのに、しくじった。明日は休日だし、理由としても充分だし、遊びに誘うにはうってつけじゃねえか。
「弁当もらうぞ!」
「あ、誠ちゃん!?」
俺は机の上に置かれた弁当をサッと取り、鈴下が常駐している屋上へと向かった。
「よお、鈴下」
「なにか用?」
「あ、そのだな……」
なんで緊張してるんだ。ただゲーセンに誘うだけだぞ。
「えーっと……」
「なにか言いたいことでもあんの?」
「あのな、いわゆるだな……」
落ち着け。なに意識してるんだ。いや、鈴下相手になにを意識することがある。
「なにかあるんなら、はっきり言ってよ」
「あ……今はいいや……」
「意味わかんない」
なぜヘタれる、俺……。ただ、ゲーセン行こうって一言言うだけなのに。
「あ、あのさ……!」
「ん?」
今度は鈴下のほうから俺へ話しかけてきた。
「その、あの……」
「なにか用か?」
「だから、その……」
「はっきりしないな」
「あ、あんたに言われたくないっての!」
「ごもっとも」
「はあ……もういいわ」
なにが言いたかったんだ?
「なんていうか、あれだな」
「なに?」
「鈴下が俺の家に来るようになって、もう1週間以上になるけどさ」
「そんな経つんだ」
「今ではそれが当たり前っていうか、むしろ鈴下が家に来ないってのが考えられないよ」
「あ、あんた、何言ってんの?」
「いや、変な意味じゃないんだ。家に来るのも、まだたった1週間程度だし、知り合って1ヶ月になるかならないかぐらいだけど、大分前から鈴下が家に来てたような、そんな感覚なんだ」
「あのさ……」
「ん?」
「わたし、邪魔になってないかな……?」
「え?」
「もしかして、あんたの邪魔になってないかなって……」
「鈴下……」
「あんただって、1人でゆっくりしたいときもあると思う。けど、わたしが毎日あんたの家に来るから、それが出来てないんじゃないかって……」
「そんなことねえよ。俺は鈴下と一緒にいるときのほうがリラックス出来るぞ」
「あんたはそうじゃなくても、紗智はどうなんだろう……。本当はあんたと2人で……」
「紗智が俺と、なんだ?」
「…………」
「どうしたんだよ?紗智が鈴下のこと、邪魔だなんて思うはずねえって」
「本当に?」
「登校するとき、言ってるぞ。今日のご飯、鈴下は喜んでくれるかなとか、美味しく食べてくれるかなとか」
「…………」
「だから、紗智が鈴下のことをそんなふうに思ってねえよ」
「そっか」
鈴下は立ち上がり、自分の荷物をまとめる。
「今日もあんたの家、行くからね?」
「おう、待ってるぜ――いや、待ってろか」
「ふふ、そうなるわね。また後で」
鈴下、あんなこと考えてたのか。別に気にしなくてもいいのに。
放課後になり、俺たちは帰宅の準備をし、廊下に出る。
「また後でね、誠ちゃん」
「おう」
紗智はいつものように商店街へお買い物。鈴下は、もう俺の家に向かっただろうし、急ぐか。
「よお、帰った……ぞ」
「――っ!?」
帰宅して、すぐに自室へ向かい、扉を開けると、いつぞやと同じように半裸の鈴下が出迎えてくれた。
「あ、あら~……」
いや、表情から察するに『出迎え』という表現は明らかに間違っていると確信する。
「あんた、また――」
「違うんだよ、鈴下。これには訳というか、事情というか、決して覗きとか、そういうつもりでは……」
「よくもぬけぬけとそんなことを……! この前ので懲りなかったみたいね?」
「お、落ち着きたまえ。冷静に話し合おう。どうやら、君は大きな誤解をしているようだ」
「話し合おう前に――」
「話し合う前に……?」
「まずは出て行けー!」
手当たり次第に、そこかしこの物体を俺に投げつけてくる鈴下。
「どわー! やっと一昨日ぐらいに、整理し終わったのにー!」
「知るかー! いいから、出て行けー!」
「わかった! すぐ出て行く! 今すぐ出て行くから、物を投げるのは――へぶっ!」
なぜ……いつも顔面直撃なの……だ……。
「よーし、そのままよ! そのまま、逃げ切って!」
「…………」
鈴下が着替え終わったあと、話し合いの末、どうにかこうにかわかってもらえ、俺は安堵の息をつきながら、鈴下のゲームプレイを見守るのであった。
「あー、また逃したー!」
「なかなか勝てねえな」
ファニコンソフト制覇まで後1本というところまで来ている鈴下であったが、その1本に相当苦戦している。
「このゲーム、能力値見れないから難しすぎよ」
「『競馬スタリオン』はシミュレーションゲームの中でも人を選ぶゲームだからな。最後にプレイするには、うってつけだろうけど」
「後は、東京優駿で優勝すれば、GⅠ制覇なのに……」
「3日でそこまでなら、大したものだけどな。俺なんて、どのGⅠにも優勝したことないのに」
「なにがいけないの……。血統も調教も調子も騎手も完璧なのに……」
「毎回、惜しいとこで抜かれるもんな」
「シミュレーションゲームって本当、時間かかるわね。RPGの比じゃないわ」
「『織田の野望』も時間かかってたもんな。逆にサクサク進めてたのは『ファニコンウォーズ』だったか」
「敵のターンは長かったけどね。でも、シンプルで面白かったわ」
「鼻歌歌いながらやってたもんな」
「ああ、あれでしょ? 『ファニコンウォーズがで~るぞ~♪』ってやつでしょ?」
「それそれ」
「最初、あんたが歌いだしたときは何事かって思ったけど、なんか耳に残るのよね」
「ゲームやったことないけど、それは知ってるって人もいるんじゃないかな」
「って、今はそれよりもこっちよ。また調教し直さなきゃ」
「鈴下、本当すげえよな」
「急になによ、気持ち悪いわね」
「格ゲーだけかと思いきや、プレイしたことなかっただけで、どんなジャンルでも上手いからさ」
「そ、そう……?」
「俺もどのジャンルでもプレイ出来るけど、ある程度までしか上手くならないからさ。せめて、1つに特化してればいいんだろうけど。どれやっても壁が出てきて、それ越えられないから別のをプレイしてって感じだもんな」
「だから、ソフトの種類が多いの?」
「自分では興味持ったのを買ってるだけって感じだけど、鈴下の言う通りかもな」
「…………」
「だから、鈴下がゲームしてるのを見ると、楽しいぞ」
「え……?」
「鈴下のプレイさ、気持ちいいぐらい的確で爽快だから、見てるだけで楽しいんだ」
「本当に……?」
「ああ、だから鈴下さえよければ、いつでも俺の家に来てくれよな」
「そ、そう? あんたがそこまで言うんなら、まあ来てあげてもいいわ」
「ありがとう、鈴下」
「も、もういいでしょ? わたしはさっさとこのゲームをクリアしないといけないから」
「邪魔して悪かったな」
「……えーっと、まずは馬なり、いや、ここは強めで――」
「ご飯できたよー!」
鈴下がプレイ続行しようとしたとき、紗智が台所のほうから、俺たちを呼ぶ。
「お楽しみのとこ悪いが、飯だとよ」
「……うん。すぐ行く」
リビングへ向かうと、すでに夕飯はテーブルに運ばれており、俺たち3人は食事を開始する。
「…………」
「鈴ちゃん?」
「え、な、なに?」
「どうしたの? なんか元気ないみたいだよ?」
紗智の言う通り、さっきまで普通にしてた鈴下だったが、飯を食べ始めたときから妙に静かになった。どことなく、よそよそしい感じだ。
「そ、そんなことない。普通よ」
「そう? 具合悪かったりもしない?」
「大丈夫。心配しなくても平気だから」
「あ、もしかして、ご飯美味しくなかった?」
「そんなことない!」
「鈴下?」
「鈴ちゃん?」
「あ、ごめん……」
なんか様子が変だな。
「本当に大丈夫?」
「うん……」
「…………」
俺と紗智は顔を見合わせた。考えていることは同じだと思う。
「鈴下――」
「あ、あの……!」
俺が鈴下へ問いかけようとしたとき、遮るかのように当人が口を開く。その視線は真っ直ぐ、紗智を見つめている。
「なに、鈴ちゃん?」
鈴下は顔を火照らせ、少し震えているようだった。
「えと、その……」
しかし、すぐに視線を落とす。
「なにか言いたいことあるの?」
「あ、あ、あの……」
「……鈴ちゃん」
「え……」
紗智は席を立ち、鈴下の視線より下へ、そして鈴下の手の甲に自分の手を被せる。
「ゆっくりでいいよ」
「紗智……わたし、ね」
「うん」
「わたし、紗智の料理……好き」
「え?」
「い、いつも美味しい料理作ってくれて……あ、あ……ふう……」
「…………」
次にどんな言葉が出てくるのか、すぐにわかった。だから、鈴下の深呼吸の意味も理解出来た。
「……ありがとう」
「うん。あたしのほうこそ、いつも残さず食べてくれて、ありがとう」
鈴下は俺が思ってた以上に、自分の居場所を気にしていたんだろう。普段はそんな態度、微塵も出さないが、ずっと気がかりだったのだ。だから、昼間に俺から紗智の気持ちを知ったとき、お礼を言いたかったんだ。素直になれないだけで、本当は純粋で優しいんだな。
「聞いてくれて、ありがと……」
「あたしも、鈴ちゃんの気持ちが聞けて嬉しかったよ。ね、誠ちゃん?」
「あ、ああ。……しかし、なんか言い方が妙に当てつけっぽいぞ?」
「そんなことないよ。たまには『うめー!』以外の感想が聞きたいとか、そんなこと思ってないよ?」
「口に出してんじゃねえか」
「なに、あんた。それしか言ってないの?」
「最近はね、それすらも言わなくなったの」
「最低……」
「すみません、いつも美味しゅう頂いております、はい」
あれ、おかしいな? さっきまでの感動的な流れはどこに行った?
「わかればいいのだよ、あはは」
「ふっ、ふふふ」
「ったく、2人して……」
ま、いいか。
「今度こそ、勝つわよ……!」
例のごとく、飯を食べ終わった後、紗智は帰宅。鈴下はゲームの続きをプレイしていた。
「緊張の一瞬だな……」
「お願いよ、『モウコウダッシュカチク』! このレースはあなたにかかってるのよ!」
今まで名付けた馬の名前は大抵そんな感じだけど、それが原因ではないのかと少し思っている。
「お! まずは先頭だ」
「ダメよ……いつもそうなの」
「問題は最後の直線だな」
「そう。必ず最後の直線で追い越されてしまうの……。ここで安心してはダメ」
レースは進み、『モウコウダッシュカチク』は依然として1着……指示も逃げを選択している。
「来た! 最後の直線!」
このまま逃げ切れば、優勝だ……しかし――
「あ! ちょっと! なにやってんのよ!?」
2着の馬が最終直線になった瞬間、破竹の勢いで猛ダッシュを決め込み、1着を奪い取る。
「まだ距離はあるわ! あなたならいけるはずよ!」
2着は維持しているものの、どんどん『モウコウダッシュカチク』は引き離され、1着の馬はゴール目指して駆ける。
「まだよ! まだゴールは見えてない! ゴールが見えない限り、可能性はあるのよ!」
「おい……うそだろ……!」
鈴下の声が届いたとでもいうのか……。『モウコウダッシュカチク』は怒涛の勢いで速度を上げ、1着の座を奪い返し、見事ゴールイン。
「や、や……やったーー!」
「おわっ!」
鈴下は嬉しさのあまり、我を忘れ、力一杯俺に抱きつく。
「やった! やった! やった! ついに東京優駿で勝った! GⅠ制覇よ!」
ゲーム画面も勝利を祝福し、騎手は高々と優勝旗を掲げている。
「わたしの想いが『モウコウダッシュカチク』に届いたのよ! 諦めなければ、可能性はあるのよ!」
「そ、そうだな……」
「あ~、ゲームでこんなに感動したの初めてだわ」
「そ、そうか……それはなによりだ」
「なによ、あんたももう少し喜びなさいよ。こんなにおめでたいのに」
「ああ、わかった。わかったから、少し力を緩めてくれないか?」
「へ? ――うわあっ!」
そこで鈴下は、ようやく自分の体勢に気づいたようで、飛び退くように俺から離れた。
「ふう……」
「そ、そういうことは早く言いなさいよ!」
「だって、言おうにも鈴下が――」
「言い訳しない!」
「わかりましたよ」
「はっ! そんなことより、エンディング画面!」
テレビに流れるエンディング画面を、食いつくように見守る鈴下。今まで優勝したGⅠがずらりと映し出されている。
「はああ……ついにやったのね。この日をどれだけ夢見たことか……」
それから、タイトル画面に戻るまで、鈴下はひたすら感傷に浸っていた。
「クリアおめでとう」
「今思うと、とてもいいゲームだったわ」
「それはよかったな。それと、今ので俺の家にあるファニコンソフトは全て終了だ」
「制覇達成ね。次のハードも楽しみだわ」
「ファニコンに比べたら、ボリュームは格段に上がってるから、もっと楽しめるはずだぞ」
「腕が鳴るわ」
鈴下なら、すぐに終わりそうだと思うけどな。
「……あのさ」
「なんだ?」
「さっきはその……ごめん」
「なにがだ?」
「苦しかったでしょ? わたしが力任せにしたせいで」
抱きついたことを言ってるのか。
「苦しかったけど、もう少しあのままでもよかったかな」
「な、バ、バカじゃないの!? 変なこと言わないでよね!」
「ごめん、ごめん」
「ふんっ……!」
怒らせちゃったかな……?
「でも……」
「ん?」
「わたしも……嫌じゃなかった……」
「え……?」
「…………」
「鈴下――」
「う、うるさい! なにも聞くな!」
「お、おお」
「…………」
「…………」
あれ? なんだこの空気は……。思わぬ方向に向かっているような……。でも、今なら言えるかも……。
「あ、あの――! え?」
予期せぬハモリ。気まずい。
「お先にどうぞ」
「あ、あんたから言いなさいよ」
「えーっとだな……」
どうしよ、せっかく勇気が出たのに、ハモったせいで躊躇してしまう。
「あのだな……」
「だから、なに?」
えーい、迷ってても仕方ないだろ!
「明日の休み、なにか用事あるか?」
「え……? ないけど?」
「そ、そうか……」
「……それだけ?」
違いますー! なんで、そこで止めるんだ、俺ー!
「いや、そうじゃなくて……」
「なによ、ハッキリ言ってよ」
「……明日、俺とどこか出かけないか?」
「…………」
あれ? 黙っちゃった? い、嫌だったのか?
「……い、いいわよ」
「本当か?」
「うん、いい」
「本当に本当か?」
「いいって言ってるでしょ」
よかった……。言ってしまえば楽なもんだ。
「ありがとうな」
「それで、どこ行くのよ?」
「もう12月だろ? 『バーウォー』が、もう稼働してるかもしれないから、一緒にどうかなって思ったんだ」
「え、うそ……」
「い、嫌か……?」
「あ、いや、わたしも明日、あんた誘って行こうかと思ってたから」
「まさか、昼休みとさっき言いかけたのって――」
「ってことは、あんたが昼休み、言おうとしたのって――」
なんだ、考えてることは一緒じゃねえか。
「ぷっ、ふふっ、あはは」
「はははは」
「なに、あんた? もしかして、それ言おうとして、緊張してたの? ふふふ」
「鈴下こそ、そんなこと言えなかったのか? ははは」
「なんか悩んでたわたしがバカみたい」
「俺もだ」
「なら、決定ね」
「ああ」
「……わたし、帰るわ」
「送ってくよ」
いつもの場所に到着してから、鈴下はトテテっと俺より少し前に出て、振り向く。
「ここでいいわ」
「気をつけてな」
「明日、ここに10時集合ね?」
「わかった。楽しみにしとくよ」
「『バーウォー』は注目されてるんだから、下手っぴな戦い、しないでよね?」
「鈴下こそ、家庭用ばっかりしてたから、腕がなまってないだろうな?」
「誰に向かって言ってんのよ」
「そうだったな」
「ふふ、じゃあね」
「またな」
俺は自室で腰を下ろし、安堵する。
「はあ……悩む必要なんてなかったな」
鈴下も同じこと考えてたなんて。ちょっと嬉しいな。鈴下……まさか俺のことを――
「いやいや! 自意識過剰だ! 余計なこと考えずに寝よう!」
遅刻するわけにはいかねえからな。
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