若き日の暴君

ヤマオカは、榊とトーマスJr.の勝負の後、ミーティングで二人の傷が治るまで欠場させる旨を伝えた。


そして、チーム内にある膿を全部吐き出させる為には数試合を棒に振っても構わないとまで言った。


膿を全部出さなければ優勝など不可能だとヤマオカはおもったからだ。


ボンバーズとの3連戦は1勝2敗と負け越した。


目先の勝利より、シーズンを通じて闘い抜き、そして優勝を勝ち取る為には、今のうちにチームを立て直す他ない。



榊とトーマスJr.の勝負をスタンドでじっと眺めていた二人の人物は、3連戦終了後にヤマオカと監督室で何やら話をしていた。


「全く相変わらずバカなヤツだ。商売道具の手をあんなことに使いおって。また一から教育しないとな…」


「 I agree. It's an act unworthy as a baseball player(全くだ。野球選手にあるまじき行為た)」


この二人は何者だろうか。


1人は東京ゴールデンズ時代に榊のフォーム矯正をした、佐久間 義一(さくま よしかず)コーチである。


入団間もない榊を見て、コイツは球界最高の投手になる!と榊の能力を見いだした人物でもある。



しかし、若き日の榊は今と変わらず傍若無人ぶりを発揮し、二軍監督がストレスで円形脱毛症になった程だ。


その脱毛症になった頭部をカメラに収め、相手側ベンチに拡大した写真を何枚も貼り付けて面白がっていた。


目上に対する口の聞き方も知らず、例え先輩であろうと気に入らない先輩のバットを全部へし折り、グラブを使えなくなる程ボロボロにし、またある時は寮に住んでいた頃、腹が減ったと寝ている先輩選手を叩き起こし、「腹減った。飯作ってこい」

と命令し、作った料理がマズイとボコボコにしていた。


先輩選手でも手に負えない程の暴れっぷりで、榊のイジメに耐えられずに辞めていった選手も何人かいた。


二軍の首脳陣も榊には手を焼き、気が乗らないと先発を拒否し、自軍の投手が投げているにも関わらず勝手に投手交代を告げマウンドに上がった事も多数。


誰も榊に逆らう人物はいなくなり、いつしか二軍は榊の意のままになっていた。


そんな時、シーズン途中で佐久間が二軍の投手コーチとして就任した。


あまりのワガママぶりに佐久間は、利き腕とは逆の右腕をへし折り、榊を完膚なきまでに叩きのめした。


「練習しないのなら、そんな腕は必要ないだろ」


と榊の腕を取り、関節を極め、躊躇なく折った。


佐久間は合気道や柔道の経験者でもあった。


佐久間にやられた榊は、以後佐久間には逆らわず、佐久間の厳しい指導の下で才能を開花し、榊が一軍に昇格したと同時に佐久間も一軍の投手コーチに就任したのだ。


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