第8話

一方、芽多留と氷乃は不思議な空間に迷い込んでいた。

階段を下りただけだというのに、そこは草木が茂る外の景色が広がっている。

少し離れた先には小川が流れ、青い屋根の水車小屋が見える。

何とも長閑な光景だ。

「ねえ、芽多留。これってどういう事?」

氷乃がまだ信じられないといった顔で隣の長身の芽多留を見上げる。

だが彼も氷乃同様に顔を引きつらせていた。

「どういうって………俺に聞かれても…なぁ」

いつの間にか彼らが下りてきた階段も跡形もなく消えている。

何もない草原にぽつんと取り残されたような形で二人は立っていた。

「と……取りあえず銀河に知らせようぜ」

そう言って芽多留はポケットから携帯端末を取り出したのだが、すぐに表情を曇らせる。

「ちょっとどうしたのよ」

「いや…電波来てない。圏外だ」

「そんなはずっ………」

氷乃も自分の端末を操作するが、芽多留と同様だったようだ。

「どうなってるのよ。ここってお屋敷の中じゃないの?どこなのよ……」

「落ち着けって。とにかく誰かいないのかよ」

不安そうな氷乃の肩に手を置き、落ち着かせようとするが、自分もまだかなり動揺しているのは隠せない。

「ねぇ、本当にここどこなのかな…」

辺りは舗装されていない獣道が一本伸びている。

二人はその道を辿ってみる事にした。

「しかし電線も信号も見当たらないって、どんだけ田舎なんだよ。ここ」

「本当ね。どうなってるのかしら」

途中で水車小屋も見てみたが、そこに人の気配はなかった。

「もう少し歩いてみるか?」

「うん。分かった…」

やがて二人は更に大きな道に出た。

長い草木の間から何やら赤いものが見えてくる。

「ねぇ、あれって……」

「鳥居だな」

芽多留も見つけたらしく、少し嬉しそうだ。

「行ってみようぜ」

「うんっ」

もしかしたら人がいるかもしれない。

そうしたらここがどこかも分かる。そんな希望を抱え、二人は朱塗りの鳥居に駆け寄った。

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