豪結ー10
ちょっと聞きたいんだけど」
目的地――港まで飛んでいる最中に、堰神が問うてきた。
「
「クラエスか? 父さんの知り合いだよ」
「なら、なんで竜人なんて呼ばれているの?」
「知るか。誘拐犯に聞いてくれ」
クラエスと連絡が途絶えた時は、焦りから冷静に考えることが出来なかった。しかし、今はクラエスの行方も大よそ掴むことができ、方針も決まっているためだいぶ落ち着くことができた。
そうなると、なぜクラエスが竜人として誘拐されたのか、という考えに至る。
クラエスが来てから、俺がクラスで上位成績を収めるようになった、とは言っても、そこからクラエス=竜人という考えは成り立たないだろう。
なら、どこかから情報が洩れたと考えるべきだ。その場合、洩れるとしたら宮川さんか――如月さん……?
父さんの部下だったという松島のあの話のせいで、如月さんの姿が一瞬、頭をよぎった。それをすぐに、頭から吹き飛ばす。
あんな奴が言った言葉を信じることはない。第一、如月さんは俺たちの心配をしてくれていた。
「獅童君……?」
俺が突然、
「大丈夫だ。とにかく、話は後にしてくれ。今は、目の前のことに集中したい」
「うっ、うん、分かったわ」
先ほどまで主導権を握っていた堰神は、気圧されたようにあっさりと引き下がり、飛ぶことに集中した。
そして、海に出る――港で目的の船を見つけた。着陸して間もないのか、それとも空港へ戻るためなのか分からないが、デッキの上でローターを回した状態で待機しているヘリコプターを載せた船が見えた。
「よし、日本船籍よ。これなら、問題なく止められる」
「んで、どうやって止めるんだ!?」
「乗り込めばいいのよ」
船の名前は『OASIS』というらしい。堰神が使用しているパッドには、船がどこの国の所属か書かれているのか、外観だけでは俺に判別できなかった。
堰神は宣言通り、乗船許可を取ることなくそのままヘリポートへ着地した。俺もそれに続き着地する。
さてこれからどうするか、と堰神を見ていると、目の前にオープンチャンネルを現すウィンドウがポップした。
「こちらは、神代学園所属の神器遣いです。誘拐犯がこの船に乗り込んだという通報があり、近くを警邏していた我々が来ました。ただ今より、この船を調べますのでご協力をお願いします」
堰神が言ったことは全て嘘っぱちだ。それらしいことをそれっぽく言っているだけで、通報を受けた訳でも、俺たちが担当となったわけでもない。
しかし、俺にとってはそれがありがたかった。
「でも、フェリー会社は信じるか?」
「信じるも信じないも、神器遣いが来たのよ。遊びでやって来たわけじゃない。蔑ろにしたら、何が起こるか分からない、と相手は考える。まともな会社であれば、考える」
なるほど、と納得したところで、通信が入った。
船長からの通信かと思ったが、後ろで待機していたヘリコプターの機長だった。
「この機体には、私と副機長以外、誰も乗っていない。件に関して、我々は関与していないため戻らせてもらう」
「いいえ、それはできません。事件が解決するまで、全員、下船は許可できません」
ヘリコプターの方を一瞥することなく、堰神は静かに言った。しかし、オープンチャンネルなのでヘリコプターの機長はこの通信が聞こえているはずなのに、ローターの回転数を上げ始めた。
「おい、あのヘリコプター、離陸するつもりだぞ!?」
「信じてもらえなかったのは、たいへん遺憾ね」
ため息を吐くと、堰神は肩に帯刀していた刀型の
「うわっ!?」
オープンチャンネルからヘリコプターの機長たちからの悲鳴が聞こえると共に、続いて、ガランゴン、と堰神によって切り落とされたプロペラが船体にぶつかりながら、海へ落ちて行った。
「勝手な行動は許可されていません。全員、我々の指示にしたがってください」
あまりにも滅茶苦茶な行動だったが、逆らわない方が良いと判断したのか、先ほどプロペラを切り落とされたヘリコプターから文句が飛んでこず、船長からも通信が入らなかった。
「では、我々の――」
と言いかけたところで、堰神が黙った。それに釣られるように振り返ると、堰神が一点を集中してみていた。
何か来たか、とそちらを見ると、大きく開かれた扉から歩いてくる人影が見えた。
影となっている時は見辛かったが、その顔が日に晒されることで輪郭がはっきりとした。
その見覚えのある顔を見て、俺はため息を吐いた。
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