第四十話 カウボーイとサムライ
BATTLE START!
いつもならこの表示と共に、心身ともに『AOA』の世界へと完全にダイブする。
が、今日は会場でのプレイとあって、
なんだか不思議な感覚。でも、応援を直に感じられて悪くはない。
『さぁついに始まった2020年東京ゴリンピックGスポーツ決勝! 栄冠は果たしてどちらのチームに輝くのかっ!?』
もっとも会場に流れる実況の声まで拾ってしまうのは、ちょっとやりすぎかもな。どうにも落ち着かないぜ。
そして落ち着かないといえばもうひとつ。
ゲーム開始早々、想像していなかった状況に俺たちは面食らっていた。
目の前に広がるのは、砂埃舞う荒野。
乾いた大地に、ごつごつとした岩石や背の低い草木、サボテンなんかが申し訳程度に配置され、時折吹く風にタンブルウィードが転がっていく。
そう、まんま西部劇のステージ。決勝の舞台としては華やかさに欠けるが、それ自体は別にどうでもいい。
問題はそのステージに敵の、四つ足という特殊な機影がぽつんと一体だけ確認できることだ。
ばっと見渡しても隠れられそうなところはない。ということは、他の連中はかなり離れた場所にいるのだろうか。
トラブル、か? それともやはり何か企んでの行動だろうか?
「どうした? ゲームはもう始まっているぜ。かかってこないのか、サムライの国の連中よ?」
訝しんでいるとむこうから通信が入ってきた。
「ふん。その様子だと迷子ってわけでもなさそうね。よかったわ、危うく『会場の皆さんに迷子のお知らせをいたします。ハンバーガーの国からお越しのカウボーイ・ジョー君のご両親様、至急迷子センターまでお越しください』って館内放送を頼むところだったから」
すかさず切り返す美織。
ホント、こういう煽い合いは得意だよな、こいつ。
「ヒュー。言うねぇ、お嬢さん。こいつは思っていた以上に楽しめそうだ」
もっとも相手――カウボーイ・ジョーは美織の挑発を軽く受け流してみせる。
「準決勝の奴らが拍子抜けだったからお前たちもそうだと思っていたが、どうやら一味違うようだな。いいぜ、どこからでもかかってこいよ」
そしてカウボーイ・ジョーは鞭を取り出し、前足二本を高く持ち上げてみせた。
戦闘態勢に入ったと直感で分かる。
先ほどとは比べ物にならない、まるで相手の機体が俄かに膨れ上がったような存在感。自分が狩る側で、お前たちは狩られる側だと言わんばかりに、カウボーイ・ジョーの四つ足の機体から凶悪なオーラが放たれているのが、距離があっても分かる。
「なるほど。その傲慢な振舞い、如何にもあの国らしい相手です」
そこへすぅと俺たちの前へ躍り出る機体があった。
「黛さん!?」
「みなさんはしばらくそこで待機していてください。罠かもしれませんから」
罠……その可能性は十分にある。
アメリカチームの各プレイヤーが個別で戦うのを好むとは、準決勝を戦った海原アキラたちに聞いていた。
だからこそ昨日はそれぞれが相対するであろう相手を想定して特訓したのだ。
だけど、それも絶対とは言い切れない。
ましてや今回は決勝戦。俺たちが一斉にカウボーイ・ジョーへと飛び掛ったところに、少し離れたところで上手く身を潜めていたアメリカチームの連中が現れて、俺たちを包囲するという可能性も考えられる。
そうなれば昔から大規模な戦闘は相手を取り囲んだ方が勝つように、俺たちはあっという間に全滅の危機に陥ってしまう。
かと言って、当初の予定通りにひとりで立ち向かうのも危ない。
同じように伏兵がいた場合、数的不利を強いられてしまうからだ。
最初は相手がひとりだけで面食らったが、よくよく考えるとこれは相当に厄介な状況だと言えるだろう。
どう出るべきか、よく考えなくてはいけない……のだが。
「それでは行って参ります」
「ちょっ! 黛さん!」
黛さんは機体のブースターを吹かし、俺たちが呼び止める前に行ってしまった。
おいおい、何を考えているんだ。
黛さんほどの人なら、これがかなりマズい状況ってことぐらい分かるだろうに。
「なんだ、戦うのはお前だけなのか? こっちは俺一人でお前ら全員倒して来いってアルベルトの旦那に言われてるんだぜ?」
面倒だから全員まとめてかかってこい、とカウボーイ・ジョー。
「それはそちらの都合でしょう。残念ですが、こちらにはこちらの都合がありますので」
私ひとりであなたの相手をしますよ、と黛さん。
「そっちの都合なんて知らねぇなぁ。あ、もしかしたら俺たちが伏兵を潜ませていると疑っているのか? だったら見当違いも甚だしいぜ。お前ら如き、俺ひとりで――」
それは完全に虚を突いた攻撃だった。
カウボーイ・ジョーが言い終わらないうちに、黛さんの機体が神速の勢いで相手の懐深くへと接近する。
そしてダッシュしながら右の腰から抜いた小刀を逆手に持ちながら、下半身から上半身へと真上に斬り上げるように一閃。
その減らず口ごと相手を真っ二つにぶった斬るに相応しい一撃だった。
が。
「おいおい。まだ話している途中だってのに、随分と卑怯な真似をしてくれるじゃないの」
いつの間に移動したのか、真っ二つにされたはずのカウボーイ・ジョーが先ほどまで居た場所から数メートル後退していた。
「それに確かおめぇは銃使いじゃなかったか、サムライガール?」
切り上げた小刀をくるくると器用に回して鞘へと戻す黛さんにカウボーイ・ジョーが問いかける。
そう、国内予選から準決勝まで一貫して飛び道具を使っていた黛さんだが、この決勝に選んだ得物はなんと刀だった。
「だってあなたカウボーイなのでしょう? だったらこっちはサムライで行くしかないじゃないですか」
「ははっ、どういう理屈だい、それは?」
「分かりませんか?」
「ふっ、つまりアメリカ代表の俺がカウボーイだから、日本代表のあんたはサムライになったってことかい?」
「それもありますが」
黛さんは機体の重心をぐっと下げると、今度は左の大きな鞘に収めた太刀の柄へと手を添える。
「貴方ぐらい銃を使わなくても簡単にあしらってみせますよって意味ですよ、カウボーイさん」
「……」
「さっきあなたは私たちぐらい自分ひとりで片付けろと命令されていると言いましたね。奇遇です。こちらもあなたぐらい私ひとりで始末しなさいって言われているんですよ」
そう言って黛さんが鞘から抜き出すは、機体の半分以上の長さを誇る大太刀。かすかに反り返り、砂埃舞うこのステージでも刀身は煌びやかに、そして妖しく光る。
その切っ先に風で飛ばされた枯葉が触れた。
何事もなかったかのように、太刀を通過する枯葉はそのまま黛さんの機体へと当たり、そこで初めて奇麗に二枚へと切れ分かれた。
「さっきのはほんの挨拶代わりの戯れですよ。さぁ、ここからが本番です。私たちを侮ると大やけどしますよ、ミスター・カウボーイ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます