19話「フェロー連合と帝國(説明回かよ!)」


 鈍重な魔導戦闘空母アマテラスがじりじりと港町モガムリブに近づいていく。地面から浮いている高さはさしてない。日本なら街路樹より少し高いくらいの高度だ。

 だが全長で400mちかくある鋼鉄の塊が飛んでくるのだ。くろがねの城が飛んでいるような物だ。それが全身ハリネズミのような魔導砲をばらまいて接近してくる。待ち構えていた防衛隊からした悪夢だろう。


 防衛隊の殆どはフェロー連合軍である。

 帝國からの要請・・と言う名の脅迫によって、集まった軍隊である。

 もともとフェロー連合は帝國と敵対する国家であった。むしろ対帝國として小国がまとまったのがフェロー連合である。フェロー連合は幸い帝國と隣接はしていなかった。だが、連合として形をなした頃に、帝國とフェロー連合の間に存在していたロキソン王国が帝國に大敗する。帝國は占領では無く、膨大な賠償金を支払わせる道を選んだ。それ以降ロキソン王国は帝國に対して実質的属国と貸していた。

 国王による王政はそのままだが、帝國の無理難題を押し続けられる敗戦国になってしまった。

 その無理難題の一つが、国力が疲弊しているロキソン王国に対するフェロー連合との戦争である。

 帝國との戦争で戦力が激減しているロキソン王国と、新興の寄せ集め集団であるフェロー連合の戦争は拮抗した。そして両国共にさらなる国力の疲弊という事態を引き起こしてしまった。

 そこに帝國がいけしゃあしゃあと、停戦を取り持つと介入してきたのだ。

 当然内心ははらわたの煮えたぎる思いであったが、両国とも経済限界線を突破していたので飲むしか無かった。そしてその影響で帝國はとうとうフェロー連合にさえ優位な関係を成立したのだ。


 そんな近年の歴史的背景から、国内に逃げ込んできた反帝国勢力を見なかった事にする事は出来ても、帝國からの要請でその反帝国勢力を合同で追うことを断る事は出来なかったのだ。

 むしろその勢力を大義名分に軍隊を送り込まれなかっただけ幸運だっただろう。帝國は大軍を動かさずに敵を疲弊させる術に長けている。


 表面はにこやかに、内心は怒り心頭のフェロー連合が受け入れた帝國の”軍隊”はたったの11騎だった。数だけを知らされていたフェロー連合は結局全てをこちらに押しつけるつもりだと理解していたのだが、蓋を開けてみたらとんでもない勢力だった。帝國がいかにこの反帝國勢力を危険視しているのかわかるというものだ。

 10騎はワイバーン。これだけでもかなりの戦力だ。問題は最後の1騎である。

 魔導騎士鎧装。

 それは蒼白の巨大な人型甲冑。溢れる魔力で淡く輝いているようであった。

 帝國を帝國として押し上げたと言っても良い、最終兵器であり、戦場の悪夢、世界に12騎しか確認されていない太古の超兵器、魔導騎士鎧装が派遣されてきたのである。

 2000人前後の民兵に対して完全に過剰戦力であった。そもそも魔導鎧装1騎で万を超える軍隊と戦えるとまで言われているのだ。フェロー連合は今までに直接魔導鎧装と戦闘したことは無かったが、魔導鎧装を投入した後のロキソン王国の敗戦を聞けばその恐ろしさがわかるという物だ。

 実際魔導鎧装が投入されるまで、帝國を押し返していたとも聞いていた。


 そんな戦場の守護神……いや、フェロー連合からすれば死に神である魔導鎧装が派遣されてきたのだ。これではフェロー連合側も生半可な対処が出来ない。いつこちらに剣の切っ先を向けられるのかわからないからだ。


 本来2000〜3000人の集団で、かつ大量のワイバーンやグリフォンを擁する一団を見失うことなどあり得ない。だが狭いようでフェロー連合は広い。まだまだ未開の地の沢山ある。

 さすがロキソン王国内を逃げ回り、フェロー連合まで辿り着いただけの事はある。山岳に逃げ込まれた後完全にその所在をロストしたのだ。もっともそれはフェロー連合が反帝国勢力に対して本気で捜索していなかったというのもある。もっとも帝國が介入してくることをあらかじめ知っていればそんな事にはならなかったのだろうが。

 派遣されてきた魔導騎士鎧装の搭乗騎士はそれを知り、怒り心頭であった。お付きの人間が間に入ってくれなければ国家問題にまで発展しただろう。

 現状間違っても帝國と事を構えたくないフェロー連合はそれまでのいい加減な捜索から、本腰を入れる。

 2000人を越える人数が移動するのだ。徹底的な捜査をすれば、食料の買い付けなどからある程度のルートは絞れた。それにしてもその集団は狡猾だった。なんと住民の三割が冒険者ギルドに登録していたのだ。

 そして何食わぬ顔で、流れの冒険者として行く先々で依頼をこなし金と食料を確保していたのだ。

 厄介きわまりない魔物を退治してくれる冒険者ギルドの特権が裏目に出た形だ。だが国家間を越えて活動する冒険者ギルドという巨大な権力に対抗する術は少なかった。


 この一団の個々の情報はほとんど無いのだ。仮に犯罪者として指名手配して、ギルドから抹消させるにしても、その情報が無い。一部長老と言われる反帝国組織の責任者は名前など判明しているが、そういう人間は当然ギルドに所属などしていない。

 そして冒険者ギルドもその権限を発揮して、誰が移ってきたのかという情報は零さない。

 未開の地域で繁殖して町を襲う魔物を退治する事を職業とする冒険者ギルドを追い出すわけにも行かない。帝國とギルドとの板挟みでフェロー連合は頭を痛めていた。


 だが、さすがに国家を上げた捜索によってその場所が判明する。

 現地の人間からすると、魔境とも言われる深き森の、さらに奥にそびえる帰らずの山脈の奥深く、誰も知ることの無かった深く長い渓谷に彼らはいた。

 そこに隠されていた古代の浮遊要塞の中に。


 その後の調べで、この渓谷、フェロー連合の端にある港町まで続いていることがわかった。フェロー連合が把握している地図としては、てっきり連峰の端に巨大な盆地のような深い森がある土地だと思っていた。まさかその深き森のさらに奥に、誰も知らない絶壁の渓谷があり、その最奥にそんな物が隠されているなど誰も考えていなかった。

 港町に隣接する切り立った連峰の最西端はまるで刃物で切れ目を入れたような綺麗な崖となっていた。そしてその崖の間に存在する森は湿地帯でもあり、わざわざ足を踏み入れるような場所ではなかったのだ。


 だから最初の襲撃は部隊を厳選するしか無かった。

 フェロー連合からすれば、空を飛べるのは帝國の派遣部隊だけなのだから勝手に行けと言いたかったが、そんなわけにはいかない。道案内も必要だし、糧食だって運ばなければならない。

 結果としてフェロー連合は800の兵力を抽出した。うち200が魔導士という精鋭中の精鋭部隊だ。それで帝國の搭乗騎士はようやく納得してくれた。

 そもそも未踏の森を抜け、未踏の山脈を抜けられる人員などそうそういない。いや、反帝国の奴らは抜けたのだったか。

 ともかく体面だけは揃えた。

 普通に考えたらこの800の兵力も過剰兵力と言って良い。そこに噂の魔導騎士鎧装に帝國のワイバーン部隊まで加わるのだ。負ける要素は無かった。


 ——だが、結果は敗北であった。


 信じられない事に、敵が異形の魔導騎士鎧装を持ち出してきたのだ。

 幸い800の兵はほぼ無傷であったが、衝撃の敗戦である。

 さらに浮遊要塞は移動を始め、渓谷の奥へと消えてしまった。


 だが、そこは袋小路のはずだ。

 山脈だと思い込んでいた、背の高い岩山だが、その内に広大な湿地の森を内包しているなど誰が想像しただろう。港町の人間もそれが奥深くまで続くとは思っていなかったらしい。


 だが、一つの巨大な山脈だと思い込んでいたのだ。つまり左右は高い岩山に阻まれ出られる場所は1カ所。港町モガムリブだけだ。

 二度の強行偵察を帝國のワイバーン部隊が行ったが、懸念されていた空高くに飛び上がり逃げられるという可能性はまず考えられない。

 だからフェロー連合は帝國に対する誠意を見せるためにも、持てる戦力を可能な限りモガムリブへつぎ込んだ。これはロキソン王国が攻め込んでこないという帝國の確約があればこそだ。


 そして……。

 フェロー連合の兵士はそれと対峙した。

 魔導戦闘空母アマテラスと……。


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