天誅 12



また人ごみを掻き分けて、一人のおばちゃんが歩いてきた。

その顔は見た事があるのだけれど、痛みと怒りで頭がパニック状態。

思い出す事が出来ない。


すでにおばちゃんは、泣いていた。

どうして泣いているの?

アタシのこの姿を見て、同情してくれた?

りょうが死んだ事が悲しかった?


泣きながら、しゃがみ込みアタシの顔を覗き込むと、



「私、貴方の事許そうと思ったのよ。

貴方が自殺未遂をしたと聞いて、反省してくれてるんだって思えたから」



あぁ、この人はまだ学校に通っていた頃のアタシを知っているんだ。



「子供が突然居なくなる親の気持ちは、先に私も味わった。

だから、貴方の親御さんの事が心配でね・・・・」



この人も子供を失ったのね。うちのママと同じだ。



「それなのに・・・・・、貴方は何も変わっていなかった。

反省なんてしていない。あの時と同じ」



何を言ってるの?反省はしたじゃない。

首を吊った、それだけじゃダメなの?



おばちゃんはキッとアタシの事を睨み付けた。

この目つき、覚えがある。


あぁ思い出した。

このおばちゃんとは、あそこで会ったんだ。

サナエのお通夜に参列した時、親族席の一番前に座って、ボーっと遺影を眺めていた。

あの人だ。



「私からサナエを奪い取った癖に、反省も謝罪の言葉もなく、

他人に責任を押し付け、ヘラヘラ笑っていたあの頃の貴方から、何一つ変わっていない!

もう貴方が生きている事が許せない!!

例えこの行為が罪になり、死刑になったとしても構わない。

この場で、死んで頂戴!!!!」



おばちゃんは手に持っていた金槌を、アタシの頭に振り下ろした。



痛い痛い痛い痛い痛い。

止めて、殴らないで。

もうこれ以上死にたくない。

痛い思いをしたくない。

アタシは生きていたいの。

生きて、もっともっとオシャレをして恋をして、楽しい人生を送りたいの。


「さぁ、皆さんもボーっと見ていないで、モンスターを殺すのです。

今の狂った世の中を、我々の手で正すんだ!!!

国家を潰して、自由を手に入れるんだ!!!」



無数の人間に殴られ、刺され、蹴られていく中、

係員が街の人を煽る声だけが、聞こえてきた。



こいつが黒幕なんだ。

アタシ達の仲間が次々に作戦に失敗し、死んでいったのも、きっとアタシと同じで裏で手を回したのね。


痛かった?辛かった?

こんな身体に改造されなければ、もっと楽しい人生が送れたはずなのにね。

ツイてない。



先に係員に連れて行かれた、ハヤトもマリアももうきっと死んでるんだね。

りょうはどうだろ?

あいつも殺されたのかな?


あ、違った。

りょうはさっき、アタシの目の前で死んだんだった。

誰と間違えたんだろ。

わかんないや。



いつも上流で、他人を見下して生きてきたアタシが、今じゃ知らない奴らの足の下にいる。

口の中は血と砂でジャリジャリしてて、いつも綺麗にセットしていた髪の毛もグチャグチャで、

爪の手入れを欠かさなかった指はもう無くて、スラリと伸びた足にも感覚はない。



死ぬんだね。

死にたくなかったのに。

あの時、首を吊ったのは生きたかったからなんだよ。

死ぬつもりなんてなかった。

もっと早く、誰かがアタシの事を発見してくれて、助かる予定だったの。

それでね、首を吊るという行動をとったアタシの事を、

「ここまで思いつめていたんだね、可哀相に」

って言って、抱きしめて貰う予定だったのに、上手く行かなかった。

そこからアタシの人生は、狂い始めた。



最後に目を開けると、一段高い場所から、いつものように気持ち悪い笑みを浮かべた係員と目が合う。

目が合った瞬間。



「死ねクズ」


あいつは、そうアタシに投げかけた。

そしてアタシもあいつに言い返す。



「お前も死ね」


って。


そういえば、皆あの人の事を 係員 って呼んでいたけど、本当は誰なんだろう?

本当にあの人は、 係員 だったのだろうか?


完全に信じきっていて、聞こうとも知ろうともしなかった。

あんな気持ち悪い奴の事を、信じ裏切られるなんて、バカみたいだね。



最後くらい、誰かに抱きしめられたかった。

アタシが死ぬ事を、泣いて悲しんでもらいたかった。

サミシイ。

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