天誅 7

逃げなくちゃ、アタシがママに殺される?

そんなの、絶対に嫌!



「なんで信じてくれないのよぉおお!!!!」



この身体に改造されてから、他人を目の前にして逃げるなんて有り得なかった。

だって、生身の人間よりも、アタシの方が上回ってるから。

そんなアタシが、自分の命を守る為に、必死に逃げている。

逃げた相手は、実の母。


今のアタシの姿は、滑稽?

バカにしないで!



1度も後ろを振り返れないまま、家を飛び出した。

安全だと思われる場所まで、必死に走る。


母がどんな顔をして、逃げていくアタシの姿を見ていたのか?なんて、怖くて考えられない。


信じていたのに。


ママだけは、アタシの事を愛してくれているって思ってたのに。

どうしてこうなったの?


これも全て、あの写真のせい。

あんな写真が、自宅や近所にばら撒かれなければ、こんな事にはならなかった!

誰が、こんな事をしたの?

  




自宅から離れた場所にある、駅前に辿り着いた。

帰宅ラッシュは過ぎたというのに、駅前という事もあり、人通りが多く、全身血だらけのアタシは、嫌でも目立つ。


「・・・うわっ!なんだあれ!」

「きゃあっ、あの人血だらけよ!」


耳障りな言葉が、投げかけられる。

今日は厄日ね。

罵声ばっかり浴びてるじゃない。



安全な場所に辿り着き、アタシはようやくある行動を取る。

それは、後ろを振り返る事。


ここからじゃ、自宅を見るなんて不可能だけど、それでもなんとなくその後ママはどうしたのか?気になる訳で。

それが親子という物なのだろうか?

あんな最悪な仕打ちを受けたって言うのにね。


もう見える事がない実家がある方向の空を眺め、やっぱり見えないか~なんて、苦笑いを浮かべながら視界を地面に移した時、

アスファルトに点々と付着している血痕が目に入った。

まるでそれは、アタシが居る場所を示しているか?のように、

ずっと遠くから続いており、アタシが居る場所の直前まで落ちている。



ハッと気づき、先ほど刺された左わき腹に触れると、手にベッタリと血が付着した。

血 が 止 ま っ て な い。

さっき刺された所の傷が、塞がっていないんだ。

背筋にゾクっと、寒気が走る。


痛みは感じない。

まだエネルギーが続いているから。

でも、傷が塞がらず、血が垂れ流されているという事は、いつもよりエネルギーが切れるのが早まるって事?

それじゃなくても、右手の指、左わき腹、額と怪我は三箇所に増えたというのに。

今のペースの人殺しじゃ、痛みを誤魔化すには足りないんだ。


痛みへの恐怖からガクガク震え、その場に蹲ると、



「あの、大丈夫ですか?酷い血。今救急車を呼びますから」


一人の若いお姉ちゃんが心配そうな顔をして、近づいてきた。

皆アタシの事を怪訝な顔をし、罵声を飛ばしながら眺めているだけだったのに、わざわざ声をかけてくれるんだ。

・・・・優しいんだね。



「ありがとう」


誰かに対して、素直に感謝の気持ちを言うなんて久しぶりだった。

普通の人間に一瞬戻れた気がした。

暖かい気持ち。

とても心地よい。



今日のアタシは散々だったな。

他人にゴミを見るような目で見下され、罵声を飛ばされ、挙句の果てには母に捨てられた。


怪我は痛くないの。

出血は酷いけど、痛みは麻痺しているから。

だから心配なんて必要ないわ。

救急車を呼んだ所で、アタシの傷は治らない。

傷は治らないけど、痛みを抑える事は出来る。



それはね・・・・・。



「大丈夫よ。こうやれば、痛みは消えるから」


心配そうな顔をし、優しい言葉を投げかけてくれたお姉ちゃんの顔が、どんどん歪んでいく。

気づけばアタシは鍵鉄鋼を召喚し、目の前にいたお姉ちゃんにそれを突き刺していた。



何で、ボーっとしてたんだろう。

忘れてた。

アタシは常に誰かを狩り続けなくてはならないんだった。

立ち止まれば、途端に激痛が身体を駆け抜ける。

悲しみながら、突っ立ってる時間なんて、1秒たりともない。



「ありがとう。アタシから痛みを取り除いてくれて」



もがき苦しむお姉ちゃんの身動きが止まるまで、何度も何度も切り裂いた。

周りの奴らは、誰一人として助けようとはしない。

自分の命を守る為に、必死に逃げていく。


あぁ、滑稽!愉快だわ!



「他人に優しくするから、こうなるのよ。

他の奴らを見てみなさい。

誰もアンタを助けよう、なんてしない。

結局ねぇ、他人に対して優しくした奴が損をするのよ。

アンタも、アタシに声をかけず、見て見ぬ振りをすれば、死ななくて済んだのにね・・・あははは」


笑える。

笑いが止まらないわ。

どうしてこうも、バカなのかしら?

皆バカ。

アタシ以外、全員愚かで滑稽でバカばかり!

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