消せない傷跡 11

「ごめんなさいっ!・・・」


マキの身体の上に跨ると、剣を心臓の上に当てる。

しかし、剣先はカタカタと震えていた。


怖いよ・・・・、マキを殺すのが怖い。

ここまでしても、俺はマキを殺すのを躊躇ってしまう。


すると、マキは剣を両腕に掴むと、それを自分の方向へと引っ張った。



「このまま、刺して・・・早く」


どうして、死を急ぐ?

何故、今日会ったばかりのマリアに、何の恩があり、そこまで気を使うのだろうか?



「なんで・・・、そこまでマリアの事を気にするんだ。

だって・・・、きょ、今日会ったばかりだろう?」



声が裏返る。

すると、マキはゆっくり目を閉じ、


「あの天使さんは、マリアさんって言うのね。

天使じゃなくて、マリア様だった・・・・、嬉しいな、最後にそんな人に出会えるなんて。

だって、マリア様は私の言う事を、初めて信じてくれたのよ。

だから・・・・嬉しいの。感謝してる」



マリア・・・・君が羨ましいよ。

大切な人が居る事も、そして誰かに愛されている事も。


そこまでマリアの事を、大切にしてくれるのなら、望みをかなえよう。



震える右手を左手でしっかり押える。

剣を心臓に突き刺そうとした時、


「ありがとう、優しい天使さん」


マキはそう言うと、優しく微笑んだ。


両足を切断し、今自分の命を奪おうとしている人間に対して、礼を言い、微笑むことが出来るマキは強くてとても優しい子だ。

そんな子の事を、騙されていたとはいえ、疑った自分が憎い。



マキが死んだ事を確認すると、マキの上から降り、近くにあった机に腰掛ける。

室内を見渡せば、5体の遺体がある。

この学校での討伐予定数は、1体だったはずなのにね。

増えてしまったよ。



窓から外の景色を眺める。

今日の空は、晴れているだろうか?


しかし外は雨が降っていて、薄暗かった。




タッタッタ・・・・。


誰かが走る足音が、どんどんこちらへ近づいてくる。

きっと、その足音はマリアのものだ。


「はぁ・・・はぁ・・・っ・・・」


扉の横に手をあてながら、息を切らすマリアの表情は何故だか微笑んでいた。

どんな理由であれ、マリアの笑顔が見れるのは、嬉しい。



「そんなに慌てなくても、もう大丈夫だよ」


と、諭したのだけれど、俺の声は聞こえていないみたいで、返事はなかった。

マリアは息を整えながら、マキの方へと歩いていく。

しかし、マキの元へ近づくにつれ、どんどんマリアの表情は曇り、


「あの!救護の人が、すぐに来る・・・・」


動かなくなったマキを目の当たりにすると、完全に絶句をし、一瞬立ち止まった。




「あの・・・、マキはもう死ん・・・・」


「どうして・・・!マキ!しっかりして!・・・なんで・・・さっきまでは生きていたじゃない!」


俺とマリアの声が重なり、俺の声が途中でかき消された。

マキの隣に崩れ落ちると、もう死んでいるその遺体を抱き上げる。

顔に手を沿え、必死にマキの目を覚まそうとするが、すでに彼女は死んでおり、2度と目が開く事はない事を、まだ理解出来ないみたいだ。



「嫌よ!・・・このまま死ぬなんて・・・・だって、貴女は・・・・」


そう言いながら、マリアの目線が、マキの顔から首、鎖骨へと下がっていき、心臓を見ると、そこで動きを止めた。

先ほどまでなかった、心臓への刺し傷を見つけたみたいで、無言でマリアはその傷を手で撫でると、



「・・・・・どうして刺したの?涼だけは、違うって思ってたのに・・・。

私の気持ちをわかってくれるって、信じてたのに!」


顔を上げたマリアの目からは、涙こそ流れていなかったものの、怒りに満ち溢れていた。

マリアが俺に対して、怒っている?


その剣幕に俺は思わず、その場から一歩後ろへ下がる。



「・・・・ち、違うよ!これは・・・・マキに頼まれて・・・」


マリアは錯乱している。

それはきっと、マキとアリスが、マリアの中で重なっているからだ!

冷静になれば、きっと俺がした行動も理解してくれる。

これは、止む終えない事故だった、と。

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