第122話人とモンスター21



「ん~・・・・、あぁそうだ。母さんと喋りながら、ケーキを食べたよ」


嘘じゃない。

最後に残った、優しい家族の記憶。



「ケーキ・・・・お母さんと食べたんだ・・・・、羨ましい」


箸を止めると、ボソっとマリアが呟く。


あの時、俺は幸せだった。

初めて、母さんが入れてくれたお茶は、この世で一番美味しい物だと思った。



「あぁ・・・・凄い楽しかった!俺嬉しくて、変な笑い方をしちゃってさ・・・。

そんな俺を見た母さんが、また笑い始めて・・・・フフっ・・・」


自然と笑みがこぼれていく。

別に、それを自慢しようと思った訳じゃない。

だって、それじゃあハヤトと同じになってしまうから。


それなのに、なんだろう。

家族と過ごせた幸せな時間を、誰かに話すのって凄く楽しい。

・・・・・こんな気持ちになれるなんて、知らなかった。



「私、涼が羨ましい。

真鍋さんにも信用されているし、素敵な家族にも囲まれているし・・・・。

何もかも、上手くいっている貴方がとても羨ましい・・・・。

ごめんなさい、私にそんな事言われても嬉しくないよね・・・・」


マリアは苦笑いを浮かべると、急いで朝食を口の中に押し込め始めた。



「全然!そんな事ないよ!俺なんて、全然凄くないし・・・・・!」


耳が熱い。

なんだ、この感覚。

なんか凄く恥ずかしくて、謙遜はしたものの、マリアの顔を見る事が出来ない。



朝食を急いで食べ終わると、マリアはトレーを持ち、席を立った。



「・・・・・ふぅっ」


完全に室内から居なくなった事を確認すると、俺はゆっくり顔を上げ空席になった席を見つめる。



・・・・・・言えなかった。

もう、その家族が存在していない事を。


別に隠さなくちゃいけない理由なんてない。

だって俺は、悪い事をしていないのだから。

俺は自分の仕事を全うしただけ。

あいつらが、法律違反を犯したから排除した・・・・ただそれだけなのに。



なのに・・・・・なんで俺、マリアにその事が言えなかったのだろう?


集合時間になり、制服に袖を通すとフロアを降りた。

すでに、マリア、ミカ、ハヤトの姿が見える。



ミカは相変らず、両手に抱えきれない程の食べ物を抱えムシャムシャと口を動かしている。

・・・・フードファイターかよ。


マリアとは、一瞬目が合ったが、すぐにそらされた。

・・・・どうしちゃったんだろ?・・っていう俺も、マリアと目が合うとそらしちゃうんだけど。


そして、ハヤトは俺の事を一切見ようとせず、外を見つめている。

・・・・まだ情緒不安定って奴?



気持ちがバラバラの4人。

それでも俺達は、やらなくちゃならない。

この世界で、俺達が生きていく為に。




「じゃあ行こうか」


そう言い放つと、ホテルを出て止まっている車へ乗り込む。



任務先が何処なのか?俺達にはわからない。

ただ連れて行かれた場所で、モンスター達を討伐するだけだから。


まるでそれは、人から見たら、ただの捨て駒や操り人形なのだろうけど、俺は迷わない。

もう帰る場所は、何処にもないから。




車内は相変らず、静か。

誰も喋ろうとはしない。

それぞれが、思い思いの行動を取る。



車で移動している時間、俺は眠る事が当たり前の行動になっていた。

でも、少しだけ・・・・。

眠りにつく前、チラっとマリアの方を見る。

彼女は大切そうに、風呂敷包みを抱いていた。


任務に行く前、真鍋さんに手渡された、謎の小包。

それを、マリアは何処に行く時にも手放す事なく、持ち歩いている。



あれの中身って、何だろう?

やっぱり気になる。



今、聞こうと思えば聞く事も出来るけど、車内にはうるさいバカ女が居るから、聞くのはまた先送りにしようか。

あいつの前で風呂敷の中身を聞けば、ギャーギゃーうるさくマリアに絡むに違いない。

やめておこう。



ゆっくり目を閉じる。

宴が始まる前の、僅かな静寂。

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