第110話人とモンスター 9

10分くらい経った頃、


「お風呂沸いたわよ。ゆっくり入ってきなさい」


この家に居る頃には、かけて貰えなかった言葉を投げかけられる。

ゆっくり風呂に入っていいんだ。

前は、「早く上がれ」って言ってたのに。



やっと、この汚い身体からサヨナラ出来る。

リビングのドアノブに手をかけた時、後ろに居る母の方を振り返ると、



「兄ちゃん、仕事しないで家に居るんでしょ?死ななくていいの?」


そう尋ねた。

俺が学校に行かないのなら、「死ね」と言った母。

なら、兄が会社に行かないのであれば、「死ぬ」しかないだろう。

そうならなければ、おかしい!


しかし、母が出した答えは、



「何言ってるの?!お兄ちゃんは大事な家族じゃない!

会社に行かない位で、死ぬ必要なんてないわ!

また就職先探せばいいのだから!

それに、お母さん、お兄ちゃんが死んだら悲しくて生きていけない!」


怒った口調でそう言うと、両手で顔を塞ぐ。


・・・・大事な家族ねぇ・・・・。

なら、学校に行かなければ死ななくてはいけない俺は、大事な家族にはなれなかったのか。




「風呂入ってくる。着替え用意しといて」


言い返せなかった。

何って言えばいいのか?わからなかった。


モヤモヤした物が、頭の中を埋め尽くす。

あー・・・・・、最悪。

こんな気持ちになるなら、一人でホテルで寝てる方がマシだったよ。

これも全部、ハヤトのせいだ。

家に帰れ!なんて言うから。



俺が偉くなったというのに、何も変わっていない。

母は俺の事を、愛してくれていない。

相変らず、自分に似ている兄の事しか見えてない。



さっさと風呂に入って、晩御飯食ったら、適当に言い訳してホテルに帰ろう。

ここに居ると、どんどん気分が滅入るだけだ。



制服を脱ぎ捨てる。

もう血痕は乾き、パリパリになっていた。

そのまま脱衣所にある籠に置き、汚して怒られたら嫌だから、無意識にハンガーに手を伸ばし、それにかけた。

この家の住人ではないのに、俺は何に恐れているのだろう?

もう恐れる 物 は、全て討伐したはずなのにね。




1時間くらい風呂でゆっくりし、そろそろ上がろうとした時、



「しまった!」


俺はある事を思い出した。

財布!制服に財布を入れっぱなしだった!


先ほど、母に着替えを用意するよう頼んだ。

その隙に、金を盗まれてるんじゃ・・・・・・!



ハンガーにかけておいた制服のポケットに、手を突っ込む。

財布は・・・・・あった!

中を確認すると・・・・・・ない。

札がない!

小銭は残っているものの、札が綺麗に抜かれていた。



くそっ!やられた!

怒りがいっきに込み上げてくる。



脱衣籠には、家着と下着が用意されており、それに手早く着替える。

サイズはブカブカで、聞かなくても、それが兄の物である事がわかった。

兄の物が用意されているという事は、もう俺の服がこの家にないと察しがつく。

数少ない服さえ、処分してしまったのかよ。



リビングまで走り、ドアを開けると、



「母さんっ!俺の金何処やったんだよ!」


初めて、母さんに怒鳴った。

俺がこの家で怒鳴り声を上げる事なんてなかったから、母は酷く驚いた顔をしていて、



「え?知らないわよ。母さん財布なんて触ってないわ」


顔の前で、必死に両手を振っていた。

しかし、そんな答えじゃ俺は満足はしない。

頑張って稼いだ金を、盗むなんて・・・・・もう許せねぇ!

俺の怒りは収まらない。



「嘘つけ!さっき着替えを持ってきた時、抜いたんだろ!返せよ!俺の金!」


後ずさりする母に、ゆっくり近づいてくと、


「着替えを持っていったのは、私じゃないわ。お兄ちゃんに頼んだの」


兄だと・・・・?

母から視線を外すと、俺はドアの方向へ歩いていく。

あいつが盗んだのか・・・・。

無職の癖に、ダラダラと生き続け、金まで盗むとはな・・・・・。



ドカドカ歩いていく俺の背後から、


「お兄ちゃんは盗んだりはしないわ。

だってあの子私に似てるもの。

そんな事する子じゃないわ!」


母の声が聞こえてくる。

私に似ている?

そっか、あいつ、母にそっくりなんだ。

なら、尚更金を盗んだに違いない。




疑惑から確信へと変わる。

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