第108話人とモンスター 7

「ここのケーキ美味しいのよ・・・」


ソファに座ると、温かいお茶とケーキが目の前に差し出された。

食事以外の物を、食べさせて貰うなんて初めての事で、




「あぁ・・・うん・・・・・」


何って言ったらいいのか?わからず、モゴモゴしてしまう。

カップを手に取り、お茶を一口飲むと、母も俺の真正面に座り、自分のお茶を飲む。


もう母にとって俺は、一緒にお茶を飲んで大丈夫なのだろうか?

以前家に居る頃は、一緒に食事するとマズくなると悪態をついていたから。

それが気になり、中々ケーキに手が伸びなかったのだけれど、



「どうしたの?苺のケーキ嫌いだった?」


中々食べようとしない俺に、母は不思議そうな顔をしながら、問いかけてきた。



「違う!・・・あの・・その・・・・、うっ美味いよ!」


このままじゃ、誤解させてしまう!

フォークを手に取ると、慌ててケーキを口に運んだ。



「・・・・変な子・・・・」


それを見た母が、フフっと笑う。

変・・・だった・・・・・?

でもきっと、今母が言った 変 は、今まで言われていた 変 とは違う。

行動が面白いって意味の方だ。



「・・・・フフッ・・・・」


俺も母につられて、一緒に笑う。

母と笑い合った記憶がないから、やっぱり笑い方もぎこちなくなってしまったけど。

それでも、こんな些細な家族のやりとりを凄く嬉しく思った。




やっぱり学校の奴らを、皆殺しにしてきて良かった。

あいつ等が存在しているせいで、俺の気分は憂鬱になり、笑顔を作るのが難しかったんだ。

でも今は、憎らしいあいつ等は居ない。

苛める奴らも何処にも居ない。

やっと自由になれた。

今の自由で地位がある俺なら、母親は愛してくれるだろう。


我慢し続け、手に入れたこの幸せを、俺は静かに噛み締めていた。


幸せだ。

こんな些細な事を幸せだと感じる事が出来るなんて、考えもしなかった。


ケーキを食べ終え、フォークをお皿に置いた時、



「あの・・・・・・、給料の事なんだけど・・・・・」


苦い顔をしながらも、鋭い目線を送る母と目が合った。

・・・・・またか。

やっと手に入れた幸せを壊したくないから、給料については触れないでおこうと思っていたのに。


もしかして、このお茶とケーキでご機嫌を取り、俺から金を根こそぎ奪う気なのだろうか?

嫌な事が頭に浮かぶ。


金を請求されたらキッパリ断ろう!

やっと手に入れた幸せだけど、もう母に利用されるなんてごめんだ。

そう心に固く決め、



「何?給料がどうしたの?」


俺も母を睨み返す。

ここで弱い部分を見せたら、前の俺と同じ。

もう俺は、昔の弱くてバカにされていた俺じゃない。



すると、母は俺の行動に驚いたのか?

鋭い目線から、ニッコリ微笑むと、



「違うの!別にアンタのお金を当てにしてるんじゃないわ!

それがね・・・・、うちも色々大変なのよ・・・・・」


両手を顔の前で振り、アピールをする。

は?大変アピールすれば、俺が同情して金を渡すとでも思ってんの?

そこまで俺は、お人よしなんかじゃねーよ。

バカな奴。




まぁ、話だけは聞いてやるか。

そういえばコイツ、俺が入院した時、

「まさか、アンタが役に立つ日が来るなんてね」

とか言ってたな。


ここまで俺が偉くなり、力を持ったというのに、まだ利用するというのか。

愚かだ。

ケーキとお茶を出された事を、喜んだ俺がバカだった。



ご機嫌だった気分が、いっきに地獄まで落っこちる。

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