第66話目の前に居る者
「もう僕は、出来ないー・・・・」
昼飯のトレーを押しぬけると、ハヤトはテーブルに突っ伏した。
そんなハヤトを気にする事なく、淡々と食事するマリア。
ミカはまだ、昼食を選んでいる最中。
っていう事で、そんなハヤトに声をかける人物は俺しか居なかったので、
「どうしたの?」
一応声をかける事にした。
まぁ、聞かなくてもなんとなく、何が言いたいのか?察しはついているけど。
「今日、罪人を裁いている時、目の前に年配の人が居たんだ。
目が合った時、そのお祖母ちゃんは僕にこう言った。
やりたくて、罪を犯したんじゃない。
年金じゃ、生活が出来ないから、生きる為に万引きをしてしまった って。
僕は、そのお祖母ちゃんを殺す事は出来なかった・・・・。
だって、殺したくなかったんだ。
生きる為に、罪を犯さなくてはならない人を、殺すなんて事・・・・、僕には出来ない・・・」
頭を掻き毟るハヤトに、
「だから、私が討伐したの。ハヤトはそのまま、動かなくなったから」
マリアが呟く。
無表情のままだったけれど、きっとマリアだって殺したくなかったに違いない。
それなのに・・・・。
何が 僕には出来ない だよ。
ハヤトがやらなくても、誰かの手によって、必ず殺す事になる。
ハヤトが殺さなかった所で、そのお祖母ちゃんを助けた事にはならないのに。
「そうやって、ハヤトは汚い仕事を、マリアに押し付けたんだね。
なんだかんだ理由をつけて」
俺がそう言うと、
「なんだって!」
ハヤトは、テーブルを ダン っと両手で叩くと、立ち上がった。
「だってそうじゃないか。綺麗な言葉を並べた所で、最終的にお祖母ちゃんは助かっていない。死んでいる。
ハヤトは自分の手を汚したくなかっただけで、助けた訳でも、逃がした訳でもない。
ただの責任展開、言い訳にしか過ぎないじゃないか」
正論を述べたつもりだったけれど、ハヤトは顔を真っ赤にしながら怒り始める。
「そもそも、僕達がこんな事をしなければならないのは、女王が法律を変えたからだ!
僕は、好きで漆黒の翼を使っている訳じゃない!
好きで、たくさんの人間を惨殺している訳じゃないんだ!」
次は女王の せい ってか。
つくづく、嫌な男だ。
生ぬるい空間で生活してきた癖に。
何の苦労もしてない癖に。
自分に何かが降りかかれば、ムキになり、全て他人のせい。
だから嫌いなんだ。
こういう自分の事しか考えていない、優等生は。
「なら、辞めればいいだろ。嫌なら漆黒の翼を使わなければいい」
「そんな事出来る訳ないだろ!漆黒の翼を使わなければ、僕はどうなるか・・・・」
ほら、本性が出た。
結局は、自分が一番大事なんじゃん。
「結局は自分が一番大事なんじゃん。お祖母ちゃんを殺さなければ、自分が死ぬ事を理解している。
だから、なんだかんだ言いつつ、結局は目の前に居る人間を殺す。
お前はもう、人殺しなんだ。言い訳なんて通用しない」
俺の言葉を聞き、ハヤトは言い返す事がないまま、強く唇を噛み締めていた。
「え?何?どうしたの?」
そんな出来事を知らないミカは、トレーを持ち、ハヤトの隣に座る。
「・・・・・」
しかし、今起こった出来事を、誰もミカに話そうとはしなかった。
「なーんか、雰囲気悪っ!晩餐会に招待されてから、皆ギスギスしてるよね。
まったく、女王も余計な事して、晩餐会なんて、開くなっつーの!
アタシ、あいつ嫌いー!」
「・・・・・」
ミカの声だけが、室内に響く。
誰も、何も言おうとはしない。
俺は、モンスターの討伐を止めようとは思わない。
生きる為に、罪を犯す?
なんだよ、それ。
俺は罪を犯すことなく、必死にここまで生きてきたんだ。
そんな考えなんて、甘えそのもの。
甘えじゃなかったとしたら、生きる為なら、どんな罪を犯しても良いのだろうか?
俺は生きる為に、俺自身を愚弄してきた母親を殺しても良いのか?
そうは、ならないだろ?
生きる為に犯していい罪なんて、俺は絶対に認めたくない!
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