第60話王女 1

「ねぇ、お母様!今日は、私が眠るまで、ずっと傍に居て!約束よ」


隣で私の手を握りながら、頭を撫でてくれる母に、私は必死にそう言った。



「大丈夫。今日は、貴女が眠るまで、ずっと傍に居るから。安心して眠りなさい」


母はそう微笑みながら、私に言ったのに。



慌しく部屋にやって来た兵士が、


「女王様。急患が来ました!」


そう言った途端、



「ちょっと、様子を見てくるから。待っていてね」


私の手を離すと、母はドコかへ行ってしまった。

約束したのに・・・・、今日もそれを破るのね。


広いお部屋に、私は一人ぼっち。

眠らず、母を待っていようと思っていても、1時間経っても、2時間経っても、戻ってこない。

ちょっと、様子を見てくる って、言っていたのに。

嘘つき。




この世界は、4つに分かれている。

火の国。

土の国。

風の国。

そして、私の母が女王を勤める水の国。


それぞれの、長となる者は、代々 魔法 を使う事出来き、私もその力を受け継いでいた。

しかし、子供の私は、まだ一度も、その力を使った事がない。

そもそも、魔法を使えば、その代償に自分の寿命が縮んでいく。

だから、大人となった現在でも、私は魔法を進んで使おうなんて思わない。



水の国の魔法、それは水の力を用いて、傷を癒す事。

母は、朝も夜も関係なく、誰かが傷ついたと聞けば、すっ飛んで行き、傷を癒した。

一人の傷を癒せば、 我も癒せ と、どんどん怪我人は溢れて行き、母はゆっくり眠る事も、食事をする事も出来ない。



今日も母は、民の傷を癒しに、ドコかへと向かっていく。

私との約束を破り、自分の寿命を縮めながら。


私には、そんな母の行動が理解出来なかった。


自分の傷を癒して欲しいが為に、母の身体の事を考えず、朝夜問わずに押しかけてくる民が、憎くて仕方がなかったのだ。




「私は大きくなっても、魔法なんて絶対に使わないから」


頑なに、その言葉を繰り返す私に、母は



「私達が安心して生活出来るのは、民のお陰です。

その恩返しに、私達は 私達が出来る事 を、行いましょう。

人は支えあいながら、生きていくものなのですよ」


微笑みながら、そう言うけれど、

何万、何百という国民に対して、魔法が仕えるのは、現時点で母と私の二人だけ。

二人で、国民全員の怪我の治癒をするなんて、無謀にも程がある。


しかし、母は魔法を使う事を止めなかった。

そして、弱っていく身体。



「お母様!お庭をお散歩しましょう!」


母が眠るベッドの横まで走ると、横たわる母に声をかけた。

いつも寝てばかり居るから、たまには気晴らしにでも!・・・そんな思いも合ったのだけれど・・・・、



「ごめんなさい。体調がよくないから、私はここから見ているわ。

遊んで来なさい」


そう言い、布団から右手を出し、私の頭を優しく撫でる。


当時、母は20代。

にも関わらず、シワシワな手だ。


魔法の使いすぎで、母の身体は劣化していた。

金髪で真っ直ぐ伸びた綺麗な髪だったのが、今では真っ白。

全身の皮はシワシワになり、見た目はもうおばあちゃんに。


歩く事さえ、出来なくなっていた。



そこまでして、国民を助ける意味は何なのだろう?

私には、理解する事が出来ず、いつしか、私は母と顔を合わせる事を避けるようになっていた。




だって、お母様は私と過ごす時間より、国民を癒す事を選んだのだから。

お母様にとって、私は必要ない人間なのだわ。

国民以下の。



私は、そうはならない。

国民の傷を癒すだけの 物 になんて、ならないんだから。

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