第22話
何事も欲張ってはいけない。人は身近に欲しがるものがないから必死になって手に入れようとする。手に入れることが難しければ難しいほど、自分のものにできた時は気持ちが昂り感動するのだ。いつでもどこでも爪が手に入るとなったら、俺の爪を集める癖はどうなってしまうのだろう。そんな疑問が頭に浮かんだが、考えないようにした。自ら爪の価値を落とすようなことは考えたくはなかった。
フウコを待ち始めて三時間ほど経った頃、車の中で待ちくたびれた俺は外にコーヒーでも買いに行こうかと鞄から財布を取り出そうとした。その時、病院の方に目を向けるとフウコが病院の方からこちらに向かって歩いてくるのが見えた。俺はコーヒーを諦めて車のエンジンをかけた。
フウコは無言で助手席に乗り込んできた。顔色は悪く、表情はなかった。着ているワンピースの下腹部の辺りを右手でぎゅっと握り締めていた。それが数時間前まで共に生きていた赤ん坊を堕ろした後でも守ろうとする母親としての無意識の仕草なのか、処置の痛みが出ているせいなのか、俺にはよくわからなかったし特にかける言葉もなかった。
俺たちは病院を出てフウコの自宅に向かった。車を出してからフウコの家に着くまでお互い何も話さず鉛のような空気が流れる中、エンジン音と時々聞こえるフウコの鼻を啜る音が車内に響いていた。
ボロボロの木造アパートに到着してフウコを車から降ろした後、どこにも寄らずに真っすぐ自分の家に向かった。朝からずっと続いている嫌な気分を部屋にある爪を見て早く吹き飛ばしたかったのだ。
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