とある荒野の街の外れの墓場

 寂れた街を出て、砂埃が巻き上がる舗装もされていない道を少し歩いて行くと、有刺鉄線の巻き付いた柵に囲まれた、小さな広場に出た。

 所々に、土を掘り返した様な跡と、その真ん中には、突き出した、腕。

 比較的、新しいものから、腐った肉のこびりついた骨、その骨までもが黒ずみ朽ちかけているものもある。


「これは、・・・・・・」


「墓標さ。」


 不意に、背後から嗄れた声がした。

 振り向くと何時の間にか、腰の曲がった老人が立っていた。


「これが、墓標?」


 老人に訪ねる。薄々は勘づいていたが、俄に信じられない。


「そうだ。」


 ざりざりと、渇いた土を鳴らして足を引きずる様に歩きながら、老人が応える。


「ここは墓場だ。名も無い荒くれ者共のな。」


 聞くと此処は、外からやって来た賊や傭兵達、謂わば無縁仏の集合墓地らしい。


「それにしても、墓標ぐらい立ててやったらどうだ。幾ら何でも、これでは酷くないか?」


「今まで好き勝手やって来た手合いだ、何を憚ることがあるものか。

 それに、こいつらの殆どは犯罪者だ。

 ここの腕の男はな、宗教の教祖だったが裏では麻薬密売カルテルの頭領だったのだ。

 そんな奴が死んだところで誰も悔いも祈りもせん。墓標など自分の腕で充分だろう。」


 地面から突き出た太い腕を、杖の先で小突きながら老人は吐き捨てる。

 なるほど、碌で無し共の末路、という訳か。


「お前さんも死んだら、一緒に腕を残して埋めてやるよ。」


 老人が、目だけで此方を見てニヤリと笑う。


「・・・・遠慮しておくよ。」


私は目を合わせずにそう言いながら、腰にかけた散弾銃の銃床に手を置いた。

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