「生きたい」

「いっそのこと、殺してくれないか。」


寂しそうに君は微笑う。

その瞳は僕を見ていない。


「無理だよ。君が好きだもの。」


僕は力なく返事をする。

彼女を直接見ることが出来ない。


「卑怯者。君は狡い。こんな時に言うなんて。」


「どうとでも言えばいい、僕は卑怯者だ。自分が一番判ってるつもりだよ。」


声が震える。目が熱い。


「泣いているのかい?」


目は見えていないというのに、矢鱈と勘だけはいい。


「気のせいだよ。」


溢れ出た涙を拭かずに、僕は応える。

抑えるように声を絞り出した。


「君こそ、泣いているじゃないか。」


彼女の頬にも、涙が這っていた。


「私だって君が好きさ。」


気付けば、彼女の声も震えていた。


「死にたくないっ!死にたくないよっ!」


大粒の雫をぼろぼろ溢しながら、彼女の表情から次第に笑みは消え、叫ぶように吐き出す。


「私だってっ!君と一緒におばあちゃんになりたいよっ!なのにっ!」


君は狡い。


多分、そう続くんじゃないかと、思考より早く脳が勝手に推測する。

彼女の取り乱す姿なんて初めて見る。


何故、こんなに冷静でいられるのだろう、なのに涙が、僕の頬を熱くする。


病院の屋上、皮肉な程に青く晴れた下で、二人して泣いた。

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