第4話 お姉さま、デルダの町へ
翌朝、外を見ると雪は積もっているものの、吹雪は収まり、嘘のように晴れた空だった。
「デルダの街はここにゃん。この街道をまっすぐ行って、この看板を右に行けばすぐにゃん」
チトが俺たちのために地図を書いてくれる。
「ありがとう、チトちゃん!」
「いえいえ、困った時はお互い様ですにゃん」
昨日濡れたコートもあらかた乾いたので、俺たちは装備を整えて山小屋を出た。
「バイバイにゃん、ミアにゃん、モアにゃん!」
「バイバイ!」
「ありがとう、またどこかで!」
晴れた日は太陽の光が雪に反射して眩しい。溶けた雪がぬかるんでいて、足元も危なっかしい。
途中休憩を挟みながらも歩き続けると、昼前にはデルダの街に辿り着いた。
「おおっ、ここがデルダか!」
昼になり気温が上がったせいか、街の入口にある看板から雪がドサリと落ちる。
雪の下からは『岩と鉱物の街・デルダへようこそ!』というピカピカした看板が現れた。
「くうーっ、新しい街に来たって感じがするなぁ」
「そうだね!」
辺りを見回すと、街の建物はどれも不思議な形をしている。よくよく観察してみると、店や家は全て岩肌をくり抜いて作られているのが分かった。
岩を削り出してできた住居が高層マンションのようにいくつも連なり、それらが無尽蔵に走る階段でつながっている。
雑然としているけど活気のある、一種独特の街の風景に、俺たちは息を飲んだ。
歩いている人を見ると、多くが黒髪で日に焼けた肌の人間、それと何人かのドワーフとチトみたいな獣耳もいる。
「これからどうする?」
「そうだな。まずは宿の確保か……いや、それより先にメシだな」
「賛成!」
ギュルリとお腹がなる。よく考えたら、昨日からキノコのスープしか食べていない。
「お昼ご飯、食べに行こう!」
とはいえ持ち合わせはそんなにない。アレスシアでの依頼ではかなりの額の報酬を貰ったのだが、冬用の装備を整えるのにほとんど使ってしまったのだ。
「おっ、ここなんか良さそうじゃないか?」
街の大通りを歩いていると、「ハンマーストーン」という小さな食堂が目に飛び込んでくる。
「ここ?」
不思議そうな顔で食堂を見やるモア。
「ああ。見てみろ、髭をたくわえた労働者風の男たちがゾロゾロと食堂に入っていくだろ? ああいう地元の男たちが行く店ならきっと安くてボリュームのあるご飯にありつけるに違いないってわけさ」
「なるほど! お姉さま天才!」
二人で「ハンマーストーン」のドアを開ける。
瞬間、肉の焼ける匂いが漂ってきた。
「わぁ、お姉さま、いい匂い!」
中は混みあっていたが、ちょうどタイミングがよく席が空いたのですぐ座ることが出来た。
「どれにしようかな~!」
二人でメニューを眺める。肉ばかりかと思いきや、海の近くだからか意外に魚のメニューもある。
「どうしようかなー。鶏肉のソテーもいいし、牛の鉄板焼きってのも気になるな……」
俺がブツブツ言っていると、後ろから声がした。
「おっ、こんな所に綺麗な姉ちゃんがいるじゃねぇか」
「ちょうどいい、お酌しろよお酌」
男とは知り合いでもなんでもなかったし、最初は自分に話しかけられているとは気づいていなかったので、俺はその話を無視していた。
しかし突然肩をぐいと掴まれて、男が自分に向かって話しかけていたのだと今更ながら気づいた。
「あ?」
思わず呆けた声で返してしまう。
「『あ?』じゃねーよ姉ちゃん。もっと女らしい声を出せよ」
「なぁ、折角美人なのに」
豚みたいな体格のスキンヘッドの男と髭の男が二人、酔っ払っているのか赤い顔をしてニヤニヤ笑っている。どう考えても女にモテそうにない顔だ。
「触んな」
俺は素っ気なく答えた。腹も減ってるし、揉め事をして店から追い出されたりしたら大変だ。
「ああ!?」
だが男は引っ込まない。
「お姉さま……」
モアも心配そうに見上げてくる。いっそぶん殴ってやろうかと立ち上がりかけたその時、一人の女が血がづいてきた。
「おいそこのハゲ、やめないか。このお姉さんが嫌がってるじゃないか」
助けに入ったのは肩までの赤い髪。真っ赤な口紅に赤いボディコンみたいな服。体中に鎖を巻き付けた異様に派手な女だった。
「なんだと!?」
ハゲが女に掴みかかろうとする――その時。
バキッ!
赤髪の女がハゲを殴りつける。ハゲ男は派手な音とともに食堂の奥の壁まで吹っ飛んだ。
「てめぇ!」
すかさずハゲの相方のヒゲが女に殴りかかるも、女は素早い動作でそれをかわすと、ヒゲ男の腹に蹴りを食らわせた。
「――ぐはっ!」
女はふん、と片眉を上げると、俺の方に向き直り手を差し伸べた。
「あんた大丈夫かい? この辺は治安が悪いんだからさ、気をつけないと」
「あ、ああ。ありがとう」
俺は女の手を握った。やたら派手だし変わった感じの女だが、助けてくれたし良い奴かもしれない。
女は俺と握手をすると満足そうにうなずいて巻き付けた鎖をジャラリと鳴らした。
「メレ」
呼ばれた名に小さな声が返事をする。
「……はい」
返事をしたのは首輪をつけ鎖に繋がれた灰色の髪の猫耳少女だった。
「さ、行くよ。こんな所にいたらメシが鼻クソみたいな味になるよ!」
「はい、クレーシー様」
猫耳少女を鎖で引きずりながら去っていくクレーシーとかいう女。
俺とモアはポカンと口を開けてその後ろ姿を見送った。
いい人だと思ったけど、やっぱりちょっと変な女だな。
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