26.お姉様と町の武器屋
「いやー、良かった良かった。これで当分の宿代はまかなえそうだな」
薬草を売ってお金に変えた俺は上機嫌でスキップした。初めてのクエスト成功。いやー、気分がいい。
「でも、宿代と食費を引けば、ほんの少ししか残らないよ」
でもモアは財布を見ながら険しい顔をする。する。薬草30束を売った金額から宿代と食費を引いて残った報酬は670フェル。
今日の2人分の朝ごはんの代金より少し多いくらいだ。
「これだけあれば上々だ。そうだ、これでモアの装備と魔法書を買おう」
「えっ? お姉さまの武器は?」
「俺はこのままでいいよ。とりあえずモアは魔法を上手く制御できるようにならないとな」
そう言うと、モアはしゅんとする。
「王宮でもっとちゃんと魔法を習っておけばよかった」
聞けば、モアは初めは家庭教師に魔法を習っていたのだが、魔力が大きすぎてコントロールに手こずり、途中で飽きて習うのを止めてしまったのだという。
「だって、魔法を唱えるより殴った方が早いし......」
そう言ってしょげるモア。なんだか俺が剣術を止めた経緯に似ている気がする。モアは俺に全然似ていないと思っていたが、こういう所は流石姉妹といったところか。
「ま、杖を買えばなんとかなるだろ。コントロールがきかないだけで魔法そのものは使えてたしな」
俺は協会で貰った『冒険者の手引き』を開いた。そこには、冒険に便利な安宿や酒場、武器屋に薬屋など様々な情報が載っている。
「お姉さま、この店にしない? 下にクーポンもついてるし」
「本当だ! モアは買い物上手だなあ」
「えへへへへ」
クーポンのついている店の名は武器屋アックス。
チラシを見ると「初心者向けの安い武器あります!」「中古品買取いたします!」「クーポンを見せると10%引き!」の文字が踊っている。
「よし、今から行ってみよう!」
俺たちは早速、武器屋アックスに向かった。
「いらっしゃいませ~!」
『武器屋アックス』は、広い店内に整然と武器が置かれた綺麗な武器屋だ。
店舗は床も壁も新品の板が敷かれていて、豪華ではないが、清潔感がある。
中には『竜を真っ二つにできます』だとか『Aランク以上の方向け』と鮮やかなポップで書かれた武器もある。
「スゲーな。ゲームに出てくる武器屋ってこんな感じなのかな」
だがRPGゲームと違うのは、金さえ積めば低レベルでも高威力の武器を買えるということ。世の中金だ。
「お姉さま~、杖のコーナーはここみたい!」
モアが店の奥で叫ぶ。
「どれがいいかなあ......?」
目の前には様々な長さや太さの杖が並んでいる。
木でできたもの。金や銀でできたもの。宝石が着いているもの......やっぱり安いのは木かな?
俺が木の杖を手に取ると、若い店員のお姉さんがニコニコとやってきた。
「何かお探しですか?」
「ええと、初心者用の杖を」
「それでしたらこちらに」
お姉さんが杖置き場の一角を指さす。そこには竹や木で出来た安っぽい杖が雑然と樽に刺さっている。
「こちらなんかいかがでしょうか? 中身はコナラの木なんですが、銀メッキを塗っているのであまり見た目も安っぽくなくて人気なんですよ」
モアが勧められた杖を振ってみる。
銀の杖を持つモアは妖精みたいで本当に可愛い。
「それからこちらは少しお値段が張るんですが白樺です。後々まで使うことを考えると魔力を増幅しやすいナナカマドもオススメです」
モアが言われるがままに色んな杖を持つ。どれも似合っているんだけど、あまりに沢山あり過ぎてどれがいいのか分からない。
「あのう、魔力を抑える杖ってありますか?」
俺が尋ねると、店員のお姉さんは困ったような顔をする。
「魔力を抑える......ですか。難しいですね。ここにある杖は魔力を増幅するものがほとんどなので」
まあ、そりゃそうだよな。
俺とモアがションボリとしていると、お姉さんは「少々お待ちください」と言って奥の箱から宝石のついた高そうな杖を取り出した。
「こちらは上級魔法使い向けの品なんですが、上についている魔法石に魔力を溜めることで魔力の消費を抑えることができます」
俺はちらりと値段を見た。70万フェル......だめだ。とても払える金額じゃない。
「もうちょっと安いのは......」
「そ、そうですね......」
お姉さんはゴソゴソと積み上がった箱の中を探し始める。
「あ、ありました! これはアレスシアに住む有名な魔女が愛娘のために作ったとされるものなのですが、魔力コントロールのしにくい子供の為に、魔力の出力量を一定に保つ機能がついておりまして」
「へー、どれどれ」
しかし、その杖を見た俺とモアは思わず固まってしまう。
竹でできたその杖はピンクとシロのペンキで雑に色付けされており、その先端には汚い熊の飾りがついている。
どう見ても子供のおもちゃ、それも4、5歳が持つような子供っぽさである。モアにはちょっと、いやかなり幼すぎる。
「お値段もお手頃なんですよ! たった300フェルです」
確かにそれは他の杖に比べたら安い。でも、こんな手作り感満載なちゃちで子供っぽい杖にそれだけ出せるかと言うと……モアをちらりと見る。
「お姉さま、モア、これ買う!」
なんと、モアは子供っぽくてダサいこの杖を買うと言い出した。
「だって安いし、これがあれば魔力を抑えられるんでしょ? モア、お姉さまの役に立ちたいし、子供っぽい杖でも頑張る!」
そう言って笑うモア。
ああ、なんていじらしいんだ!
モアはクマさんステッキを買い、初級の魔法書も買った。それでもお金はまだ少し余っている。
「一緒にこちらの商品もいかがですか? 今人気ですよ」
「これは……」
お姉さんが出してきたのはドングリや木の実をかたどったビーズのネックレスだった。俺たちが街に来たばっかりのころに出店で買ったあのネックレスと同じものだ。
しかも、俺たちは100フェルで買ったのに、この店では50フェルで売ってるじゃねーか! あの親父、何が「負けてやる」だよ、騙したなー!!
「ではこちらは?」
お姉さんが次に出してきたのは、白いゴワゴワした安くさい手袋だった。
うん、何か俺、こういうの見たことあるぞ。これはあれだ、向こうの世界で言う軍手ってやつだ。
「パワーをプラスする効果もついてますし、お値段たったの50フェルでお得ですよ!」
「買おうよ! お姉さまも折角だから何かアイテムを買ったほうがいいよ!」
そうモアが言うので、しょうがなく俺は軍手を購入した。まあ、これはこれで、重いものとか持つ時に便利かも知れないな。
こうして俺は、軍手を装備したのであった!
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