第33話 素材大放出

 

 

 

「おい、エル、お前さん、インベントリ持ちか?」


 あ、やっぱり誤魔化せないか。ソリャこんなでっかいトレント分割せずに丸ままだし。しかし、シラを切る!


「いや~このマジックバック大容量なんで」


 コナリーさんがジト目だ。そして呆れたように首を振る。


「………まあいい、そういうことにしておいてやる。で後どれくらいあるんだ?」


「どれくらいほしいです?」


 コナリーさんが表情を緩めフッと笑う。できる男感醸し出してますな。


「できれば、チェリー以外があれば欲しい」


「一本づつでいいです?」


「ってあるんかい!」


  隣で無言になっていたハッシュさんからツッコミいただきました。


「しかもこいつは…全然傷がねえ、一撃で仕留めたって事か」


 ズゥン……ズゥン……ズゥン


 チェリーの横にアップル、ウォールナット、オークを並べて行く。

 幹を一通り出したので今度はその横に腕枝を出す。チェリーだけ6本で他は2本づつ。


「腕枝も傷なしか、あんたらどんな腕してんだよ」


「リュートとアス君がいてくれたから、1人じゃ絶対無理ですよ」


 ハッシュさんが驚いたように2人を見る。リュートは知らん顔だがアス君はニコッと笑う。


「エル、ちょっとこい」


 コナリーさんに指でクイクイ呼ばれて近づくと後ろにぴったリュートも付いてきた。

 コナリーさんはさっきと違って真剣な顔だ。


「マジで後何本あるんだ?後いつまで此処四季ダンジョンにいる?」


「………」


「お前さんの事は秘密にすると誓おう、最近トレントを狩ってくる奴はほとんどいないんだ。品薄で困ってる、上からはせっつかれててな。依頼を出しても誰も受けないんだ」


 まあ、マジックバックでも1本丸々入らないし、荷車でも持ち込まない限り持ち帰りできない。

 ダンジョンだから分割に手間取ると吸収されるしねぇ。

 商人は信用第一だけど、口が上手くないと商業ギルドで上に登ることはできないか。

 ん~、コナリーさん信用出来そうな雰囲気だしいいか。


「今出した分合わせて、チェリー10本、他の3種類が6本づつあります。まだメンバーと相談していないので今後の予定は決めてませんが、私としては後明日一度エオカに戻って明後日夏階層に潜りたいのでこっちに戻って来るかな」


 言いながら後ろのリュートをふり仰ぐ。


「…武器の件が解決すればその予定でもいいが、もう少し間を空けて、休んでもいいんじゃないか?」


「ん〜、そうだった、爪折れちゃったんだよね」


 こっちの話はコネリーさんには聞こえてないっぽい、なんか考えてる。


「……だったら明後日、ダンジョンに潜る前にトレントを同数出してもらえねえか。こっちも出来れば分けて売りたい。」


「明後日と言わず、今日の競り終わったら残り出しますよ。残りの競りの日はそちらで自由に設定して貰って構いませんし、なんでしたら明日エオカの商業ギルドに売りに行きましょうか?」


「いいのか?すまん頼めるか。そうだな、エオカで競りをできるようにこっちから速文で連絡を入れておく」


「初値はロビーの表示価格でお願いします。じゃあ、また後で戻ってきますね」

「競り見ていかないのか?」


 アス君と手を繋いで倉庫を出て行こうとするとコネリーさんに引き止められた。


「冒険者ギルドで依頼達成の査定待ちなんでそろそろいかないと。後宿もとってないし」


「宿ならうちの職員用の部屋を無料で提供するぞ」


 コナリーさんから意外な提案です。


「…お風呂あります?」


「いや、洗い場ならあるが湯船はねえ、つうかここの宿も風呂はねえぞ」


 なんですと!風呂がない!じゃあ洗い場に風呂桶持ち込んで……うん、商業ギルドの方が無理ききそう。


「わかりました。お世話になります。洗い場も貸してください。あ、従魔用の厩舎ってあります?グリフォンなんですけど」


「グリフォンって、噂のグリフォン連れの冒険者ってエルの事か……うちの荷馬用厩舎でいいなら空いてるぜ」


「じゃあお願いします。一旦冒険者ギルドで手続き済ませたら戻ってきますね。受付に声かけたらいいですか」


「ああ、部屋と厩舎、洗い場の件も話を通しておく」


「行こうか、2人ともお待たせ」


 なぜか反対の手をリュートに繋がれ引っ張られる形で倉庫を後にする。

 リュートの手は指が長くて豆とかタコとかなくって柔らかい…なんてこと考えません、考えない!


「オネーしゃん、顔赤いでしゅ」


「な、なんでもないよ」


 振り返ったリュートは片眉を上げるも何も言わない。そお言えばボス部屋でキ……


 ボワッ


 か、顔から火が……逆上せそうなほど赤面した顔を思わずうつむける。

 そう、あの時リュートにキスで口塞がれた…

 このボディエレーニアのファーストキス、前世の衣瑠含めてのファーストキスな気がするぅぅ。

 え〜っ、あのシュチュエーションでファーストキスってどうなのよ。


 歩みの鈍くなったエルをリュートとアス君が引っ張る形になった。


「兄しゃま、なんか嬉ししょう?」


「ん、そうか?そうだな」


 真っ赤なエルと微笑むリュート。アスはむぅっと首をひねるのだった。








 冒険者ギルドに戻ってリュートがカウンターに行く。

 エルは赤い顔のまま壁際でもじもじしていて珍しく役立たずだった。


 リュートは報酬を受け取ってからまだ出してないものがあることを伝え、壁際のエルとアスを手招きする。


「お待たせしました、あ、チーム【金色の翼】の…ちょっとおまちください」


 ショーンさんはしゃがんで足元からトレーを出してきた。3番の木札と私とリュートのギルドカードを渡す。


「ええっと、全て依頼達成です。ゴブリン35匹で1750ウル、アーチャー10匹で800ウル、メイジ11匹で880ウル、ウォーリアーが13匹で1040ウル、ナイトが3匹で300ウル、ハニービーが53匹で5300ウル、クイーンハニービーが1匹で500ウル、ブラウンウイングコックローチが17匹で8500ウル、ヒュージコックロ26匹で15600ウル、キングコックローチ1匹で1200ウルーチ合計35870メル、税引き後の金額が32290ウルになります」


 耳や針を入れていた袋と大銀貨3枚、小銀貨2枚、大銅貨2枚、小銅貨9枚を渡された。リュートが受け取った代金をそのまま渡してきたのでそれを受け取りマジックバックに入れる。


「じゃあ残の討伐証明と素材を出していいか。依頼達成処理してもらいたいんだが」


「え?まだあるんですか」


「春階層制覇したから、2階層から5階層の分があるんだがさっきの量の何倍かな、キラーアントの甲殻の数が多くて結構かさばるな。俺達3人ともマジックバック持ちなんだ」


 リュートが大量の素材があることを匂わせる。


「えええっとぉ、ちょっとお待ちください」


 ショーンさんが慌てて奥に引っ込んだと思ったら、誰か連れて戻ってきた。


「解体、査定担当のラッシュだ、ここで出しきれないほど素材が大量にあるんだって?別の場所で受け取ろう、俺についてきてくれ」


 この人もしかして。テクテクとラッシュさんの後をついて行く。


「もしかしてラッシュさん、商業ギルドのハッシュさんとご親戚ですか?」


 部屋のドアを開けながら振り向くラッシュさん。


「ハッシュは弟だ、あんたハッシュの知り合いか?」


「いえ、先ほど商業ギルドにトレントを納品してきたので」


「トレント、あんたトレント討伐したのか?素材にトレントもあるのか?」


「私達商業ギルドにも登録してますので、トレントはあちらに売りました」


「トレントは商業ギルドの方が高く買い取ってくれるからな。じゃあ、このテーブルの上に素材を出してくれるか」


「アス、そっちにお前が持ってる討伐証明部位出してもらっていいか。俺はこっちから出して行く。エルはその向こうで」


「はい、兄しゃま。」


 まずリュートの持分。レッドセンチピードの牙は素材として使い道があるみたいで素材代込みで一つ150ウル。

 ワーキングアントの触覚は使い道がないので50ウル。トレントの鼻枝なんて20ウルだよ。まあ幹がすごい値段で売れるけど。幹を運ぶ手段がなければ倒すだけ無駄になるな。


「レッドセンチピードの牙37対にワーキングアントの触覚82対、トレントの鼻枝はチェリー10本アップル6本ウォールナット6本、オーク6本」


 アス君の分のクロウラーやワーキングアントの触角やモスの口吻も素材価値はない。ただクロウラーはEランクだがモスはDランクモンスターなので150ウルだ。


「ブルークロウラーの触角19個とグリーンクロウラーの触角33個、ワーキングアントの触角は30対入りが2袋と24対入り。ゴールデンビッグモしゅの口吻とビッグモしゅの口吻1つづつ。ポイズンタランチュラの牙が14とレッしゃーしゅパイダーの牙が8」


 アス君が討伐証明部位を出す横で私も嵩張る討伐証明部位と素材を出して行く。


「こっちがキラーマンティスの鎌18対と翅が18対、フォーブレードマンティスの鎌3と翅が1対、あとは……」


 2人が討伐証明部位を出している横で大量のクロウラーの糸袋とワーキングアントの甲殻を積み上げて行く。素材はちょっと残して明日エオカの商業ギルドで売ろう。多少高く売れるだろうから。

 ん?ラッシュさんがこっち見て冷や汗かいてるように見えるが知らんぷり。あーワーキングアントの攻殻置くとこなくなったから床の上でいいかな。

 

「悪いが査定の結果明日の朝でもいいか、この量では今日中で終われそうにない」


「明日朝、エオカに戻る前に一度よります。朝で大丈夫ですか」


「ああ、朝には済ませておく、こいつを渡しておこう」


 リュートがラッシュさんから8番の木札を受け取る。


「ではよろしくお願いします。エル、アス、行こう」


 うんうん唸って居るハッシュさんを残し部屋を後にした。そろそろ夕食だな。


「2人とも、夕ご飯何がいいかな」


「お肉、僕、お肉が食べたいでしゅ」


 思わずリュートと笑ってしまった。


「僕お肉たくさん食べて大きくなって、もっと感バリましゅ」


 ふんす、とばかりに握りこぶしを作るアス君が可愛くてトラ耳を思わずコショコショする。


「お、オネーしゃん、そこダメ、こしょばいから」


  おや、意外な弱点発見


「じゃあ尻尾…」

「ダメっ、もっとこしょばゆいでしゅ…」

「エル、あんまり耳と尾は……」


 ええええ~、尻尾ナデナデしたかったのに……リュートにやんわり止められてしまった。しゅん、、、


「というかエル、ずっと尻尾と耳狙ってるだろ」

「うん、いつも観てましゅね」


 ば、バレてましたか?くぅ、折角のケモ耳&ケモ尾をモフモフできないってどんな拷問。


「むぅ……しょんなにしゃわりたいんですか」

「なら俺のをさわっとけ」


 突然のリュートの言葉に停止する。リュートは背を向け尻尾をプランプラン揺らしてみせる。

 う、あ、その、あの……


「もう、兄しゃま、オネーしゃんをからかって。僕いいでしゅよ?オネーしゃんにならな少しくらい。なでられるの、気持ちいいし……」


 アス君、マジ天使!ホント、いいのね、言質とったよ!


「アスく~ん、ありがと~」

 思わず背後からぎゅーっと抱きしめる。アス君かわゆいです。


「こ、ここじゃダメでしゅ、人目がありましゅ」

「うん、ナデナデは我慢するけど、抱っこは別」

「……はう……//////」

「エルはアスばっかりだな、俺のも触り心地いいぞ」


 赤くなったアス君を抱え、リュートのセリフに再び赤面。幾ら何でも成人男子のケモ耳も触れませんって。

 あ、ニヤリって笑った。


「兄しゃま!さっきからオネーしゃんをからかって」


「いや、真っ赤になって固まるエルが面白くって。悪い、さあ早くご飯行こう」


 リュートがクスクス笑いながら先を行く。く〜からかわれてました。なんだかすごく悔しいです。








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