#8
第4地区にある≪鳥飼インダストリー社≫本社は九十九の中で一番大きい高層ビルとして新たなランドマークとなっているほどであった。
楓は第9地区で妙見と分れた後、本社に戻ってきた。
受付の女性社員が楓の帰社を確認すると声をかけた『社長、只今美木本グループの美木本社長がお目見えです』
『そうか、ありがとう』楓は感謝の言葉を告げるとそのまま受付横のエレベーターに乗り込んで行った。
最上階は社長室と応接室しかない一般社員はほとんど立ち入りしない所であった。
応接室の扉にノックをして楓は中に入り『いや、お待たせして申し訳ない』と頭を下げた。
美木本グループ社長、美木本敦(みきもとあつし)は楓より少し年上ではあるが企業の社長としては楓同様若きリーダーといった印象の男である。
美木本敦は片口まで伸ばしパーマがかった長髪をなびかせながら話し出した。
『こちらこそアポを取っていない訪問だったので申し訳ない』
『今日はどうされましたか?』
『退院したと聞いたので、御挨拶をと思いまして・・何せ私の命の恩人ですから鳥飼社長には本当に感謝しています』
『いえ、当然のことをしたまでです・・とはカッコつけすぎですね』
『勇敢な人だあなたは、ところで橋の方はどうですか?』
『ええ、順調ですよ。ナインゲート(第9地区)の人達の雇用も始まっています』
『我々も力になれて光栄です』
美木本グループはIT業界の大手企業である。
インターネット通信販売を軸に業績を上げ現在ではトラベル事業、証券事業、通信事業、情報サービス事業など多くの事業を行っている。
そして今回鳥飼インダストリー社と業務提携を結ぶことになった要因は"ナインゲート・ブリッジ”を渡る際に行うセキュリテーの為であった。
“ナインゲート・ブリッジ”を都心からの新たな入口として開放するのは現在の治安も考えるとリスクのある事だ、それは楓も重々承知のことであった。
そこで橋を渡る際の出入り口には強固なセキュリティーシステムの構築が必要だと感じていた楓は美木本グループがセュリティー事業を新たに始めたと聞きつけ業務提携へと至ったのであった。
『セキュリティシステムの開発は順調ですので、ご心配なく』
『よろしくお願いします』と楓は手を差し出すと美木本もそれを受け2人は握手を交わした。
美木本と別れた後、楓は社長室にいた。
何気なしに付けたテレビから流れるニュース映像に楓は釘付けとなっていた。
数時間前に起こった九十九中央銀行に入った銀行強盗について報じており正面入り口の見るも無残な映像が映し出されていた。
さらにニュース内容はショッキングな事実を伝えた。
≪尚、現時点での情報ですと人質となっていた13名と強盗の仲間と思われる4名が遺体となって発見された模様≫
楓はやりきれない気持ちでいっぱいになっていたが、第9地区再建の為には自分がやらなければという気持ちがより一層高まっていた。
その時デスクの電話から呼び出し音が鳴った。
『社長、テレビ局の取材の時間ですが・・』
『ああ、わかった。応接室に通してくれ』
楓はスーツの襟を正し気持ちを切り替えて社長室を出た。
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