第159話 満月の横 流氷の上
ジローさんの船室にて『不死鳥の団』は朝食の最中だ。
食事を運ぶのはFP(Five porters)部隊だ。
荷物を運ぶポーターとして開発された人型ゴーレムだが、最近はゴブの指導もあって食事の給仕や掃除など出来ることが増えてきた。
それぞれレッド、ブルー、イエロー、ピンク、グリーンと呼んでいる。
ランクの低い魔石で作られているので、素早い動きや戦闘をすることはできない。
その代わり、生活に必要な仕事は失敗を繰り返しながらも覚えていくようだ。
会話もできないが、こちらのいうことはある程度理解して反応する。
微妙に個性があり、ブルーは掃除が丁寧だったり、グリーンはコーヒーや紅茶を入れるのが上手かったりする。
最近では朝のコーヒーは全てグリーンに任せるようになった。
「レッド、コーヒーに入れるミルクを持ってきてくれ」
レッドがミルクを10リットルの瓶ごと持ってきた。
……まだまだ先は長そうだ。
「みんな食事は終わったかな? ――それじゃあ、ボニーさんに頼まれていた新装備の説明をするよ」
海上でどうやってカイジンと対決するのか?
それをボニーさんに聞いた時、彼女は「結界には結界で……対抗」と言っていた。
その答えがこれだ。
「なんだよそれ? マモル君か?」
ジャンが俺から指輪を受け取ってしげしげと眺めている。
「ほぼ正解だ。構造的にほとんど変わらない。だけどコイツはマモル君みたいなゴーレムじゃないんだ。だから自動でシールドを張ってくれるなんてことはない」
「それじゃあ、任意でマジックシールドを張る魔道具ですか?」
「はずれではないよマリア。だけどコイツはちょっと変わっててね」
俺は指輪を装着してマジックシールドを展開する。
俺の前面に空間に固定されたマジックシールドが出現した。
「マモル君と何が違うんだよ。……? あれ?」
気が付いたようだな。
ジャンはマジックシールドに向けて掌打を放つ。
シールドはジャンの攻撃の前にあっけなく崩れ去った。
「なんだこれ!? 薄いなあ。防御力なんてほとんどないじゃないか」
「その通り。こいつは少ない魔力で防御力1~10のマジックシールドを何枚も張るための道具なんだよ」
「そんなものすぐに突破されちまうだろうが、街の喧嘩でも役に立たねえぞ」
「こいつの使い方はこうさ」
俺は床と水平にマジックシールドを張り、その上に乗る。
「そうか、これなら海の上を歩けるってわけか!」
「ああ。早速外に出て実証実験といこうぜ」
ジローさんのライトに照らされた氷原は銀色に輝いている。
「じゃあ、ボニーさん指輪を装備してください」
「うん」
ボニーさんは小さなマジックシールドを何枚も作り出し、瞬く間に空へと駆け上がる。
「すげー! おっさん、俺にもくれ!」
「実験が終わってからな」
防御力がない分、MP消費量は格段に少なくて済む。
これなら長時間の運用も問題なさそうだ。
「飛び降りて……みる」
え?
飛び降りるって、既に70メートルくらいのところにボニーさんはいるんだぞ。
俺の心配をよそにボニーさんは空中へと身を投げ出した。
「ボニーさん危ない!」
すぐに回復魔法をかけようと走り寄るが、落下速度がちょっと遅い。
よく観察すると、薄いマジックシールドを何枚も展開して、それをこわしながら落ちてきている。
シールドの破壊により落下速度を殺しているのだ。
最後は高さ3メートルくらいのシールドから綺麗に着地を決めていた。
「びっくりしたぁ。でも調子はよさそうですね」
「うん……魔力負担もほとんどない。次の実験……いってみる」
次の実験?
今度はかなり高い位置にシールドを張ったぞ。
最大15メートル離れたところに張ることができるが、どういうつもりだ?
「マジックシールドと……ワイヤーフック」
ボニーさんの左腕に装着されたワイヤーフックが射出されてマジックシールドに引っかかる。
それと同時にワイヤーが巻き上げられた。
今度は本当に空を飛んでいる。
まるで映画のワイヤーアクションだ。
「おっさん、もう実験はいいだろう? 俺にも貸してくれよ!」
空を飛ぶボニーさんを見てジャンが居ても立ってもいられないようだ。
「わかった、わかった。気をつけろよ」
いうだけ無駄だな。
「あの……」
はいはい、マリアもやってみたいのね。
白銀の世界に舞い降りた三人の曲芸師が、俺の目の前を縦横無尽に跳ね回っている。
自らの意思で糸を操るマリオネットのように彼女たちは舞い踊る。
「イッペイ、イッペイのワイヤーフックを貸して」
ボニーさんは俺の分を取り上げて、両手にワイヤーフックを装備したぞ。
二つワイヤーフックを交互に使い、もっと早く、もっと高くボニーさんは舞い上がる。
なんて華麗な動きをするんだろう。
振り子の動きで次々とマジックシールドを渡っていく。
これなら高速でカイジンに接近することが可能だろう。
後はボニーさん次第だ。
武器と移動手段は整った。
次は「漁の歌」で奴を呼び寄せて、戦うだけだ。
珍しく晴れ渡った天気に、明るい満月がほぼ真横に移動していく。
氷塊を青く照らして転がる月はアザラシが弄ぶボールのように見える。
「いい晩だ……さあ……狩りに出かけよう」
ボニーさんの命令一下、静寂と冷気が支配する空へジローさんがふわりと浮き上がった。
俺たちは入り江の奥深くの流氷の上に陣取っている。
ボニーさんは入り江の突端に身を潜める。
「こちらボニー、配置に着いた……始めて」
アヤヤヤ イエエエエ アヤヤヤァ
氷塊に漁歌がこだまする。
出て来いカイジン。
今回は前回のようにはいかないぞ。
「マスター、MPソナーに反応。……カイジンです。距離8キロ」
「全員配置につけ!」
ボニーさんがカイジンに接近する間、奴を引き付けておくのが俺たちの役割だ。
だから敢えてジローさんを着陸させて奴の的にしてやるつもりだ。
だがむざむざやられる気はない。
前回とは違い船底ではなく正面で攻撃を受け止めれば必要なシールドの面積は小さくなる。
その分、防御力は増すのだ。
また今回はジャン、マリア、ジローさんがそれぞれ機銃でアイスランスを迎撃する。
質量は大きくても所詮は氷だから硬度は大したことはないはずだ。
破壊できる可能性は充分ある。
簡単に言ってしまえば正面から奴の攻撃を受け止め、その間に遊撃のボニーさんが近接戦闘を仕掛けるという作戦だ。
「迎撃部隊、射程に入り次第射撃を開始しろよ」
「おっさんこそしっかり守れよ」
「前回のようにはいかなさ。シールドも二重に張れるように改造したからな」
イケトックがくれたDランク魔石が役に立ったぜ。
ありがとうイケトック。
この戦闘を凌ぎきったら改めて礼に行くよ。
その時はうまい肉を一緒に食おう!
「マスター、カイジンとの距離6000メートル。アイスランス6本発射されました4秒で飛来!」
「弾幕を張れ!」
ジャン、マリア、ジローさんの機銃が発射される。
ゴブもアンチマテリアルライフルで狙撃だ。
思った通りアイスランスは銃弾で砕かれ、小さくなっていく。
全てを撃ち落とすわけにはいかなかったが、マジックシールドを破壊しつくすほどの威力は残っていなかった。
「……撃ち方止め」
イヤフォンからボニーさんの声が聞こえて、氷原に静寂が訪れる。
勝負は一瞬だ。
ボニーさんが刀を抜く瞬間に俺たちは全てをかけている。
全員がトリガーから指を離して虚空を見つめるが、ここからでは何も見えない。
誰も何も言わない。
ただあの人の声を待っている。
「終わった……首を獲ったよ」
満足そうに息をつくボニーさんの声が聞こえた。
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