第110話 そして、砂漠へ

八月に入ってようやく、すべての資産の評価額があきらかになった。

総額は32億リム強。

約15億3600万リムの税金がかかる。

状況が状況であり急な現金化は無理なので物納でもいいそうだ。

俺としては王都以外の不動産をすべて物納にしてしまいたい。

はっきり言って邪魔なだけだ。

「でも、あの転送ゲートはどうするんだよ?」

ジャンが屋敷の隠し部屋にあった転送装置に言及する。

「そんなもん、国に物納するんだから国が調べればいいんじゃね?」

何故かクロとゴブが顔を見合わせている。

「どうした、ゴブ?」

「いえ……。マスター、あのゲートの向こう側を調べなくてよいのですか?」

「俺たちが活用するならその必要も感じるけど、要らないもん」

「私も……要らない。全部……不便」

「そうですよね。地上の拠点が必要なら迷宮ゲートの近くにどこか借りればいいだけですね」

俺、ボニーさん、マリアは不動産に魅力を感じていない。

だいたい外国へゲートで移動できるとして、出入国管理法とかどうなっているかもわからない。

下手すると捕まるぞ。

ただし、ゲートの構造は既に前回の訪問で解析済みだ。

Bランクの魔石があれば同じものが作れるはずだ。

「安心しろゴブ、屋敷にあった書籍は全て手元に残す。外国の家にある本もすべてだ。こいつは俺の我儘だから俺が買い取るよ」

「それなら私も出資します。書物は簡単に売り買いしていいものではありませんから」

マリアは書籍の価値を認めてくれたようだ。

「だったら『不死鳥の団』の所有物として残しましょうよ」

クロがこういってくれ、書籍は全て手元に残すことになった。

どこか倉庫でも借りて置き場を作らなくてはならないな。

だけど、書籍の半分は貴重な資料だが、もう半分はエロ本だ。

いいのかな?


 話し合いの末、王都の家以外の不動産を税として物納、宝石類と美術品はすべて現金化することになった。

王都の家のゲートは国の調査機関が引っぺがしていったそうだ。

現金化に際してはホワイトさんを通して、俺たちの個人名や『不死鳥の団』の名前が出ないようにしてもらった。

一部の超高級品は何か国にも分けてオークションに出品した。

出品費用だけで軽く2000万リムはかかったが評価額よりは高い落札額が付いた。


 なんだかんだで時間がかかったが、税金を支払い、手元に残った現金は全部で約15億リム強。

一人2億6千万リムの手取りとなった。

全てが終わったとき暦はすでに九月になっていた。

それにしても2億6千万リムか。

運用すれば一生趣味に生きられそうだ。

……運用か。

「なあ、賃貸マンションを建ててみないか?」

俺はみんなに話してみる。

「マンションってなんだ?」

美味しくないよジャン君。

「マンションっていうのは背の高い集合住宅のことさ。ゲートの近くなら冒険者が部屋を借りてくれると思うし、一階に車両置き場も作れるだろう。『不死鳥の団』のパーティールームを備えてもいいし、メンバーが部屋を借りることも出来る」

「おっさん! いい考えじゃねえか!」

「素晴らしい思い付きです。家賃収入があれば引退した後も安定した利益が得られます」

ジャンとメグも褒めてくれたぞ。

他のみんなも賛成してくれた。

たしかゲート近くに空き地があったはずだ。

ホワイトさんに調べてもらおう。

 後日ホワイトさんに相談すると素晴らしい思い付きだと言ってもらえたぞ。

土地の取得から提出書類や施工業者選びまで一切合切をホワイト法律事務所に任せて、俺たちは冒険の日々に、メグとクロは学園へそれぞれ旅立つことになった。



 一週間後に迷宮に入るので俺は準備に追われていた。

買い物をしていて気が付いたのだが、最近街中でテーラーをよく見かける。

どうやらウォード社がテーラーを正式に発売しだしたようだ。

俺が送った設計図がついに日の目を見たのだな。

小さなメーカーも続々と迷宮探索用の車両を発売しだしている。

これで俺たちが目立ちまくることもなくなるだろう。

「おーいイッペイ!」

見たことのあるテーラーが走っているなと思ったら、運転手に声をかけられた。

『マキシマム・ソウル』のライナスだった。

見たことがあるテーラーなわけだ。

あれは以前使っていた自作のテーラーだ。

「久しぶりだなライナス。テーラーの調子はどうだ?」

「二台とも故障もなく動いてるよ。こいつを使い出してから物資も素材もたくさん運べるようになって重宝している。何と言っても負傷者もつめるからな」

迷宮の奥地で負傷するとそれだけでパーティーの足を引っ張ることになるので、放置される負傷者も多いそうだ。

「メンバーもみんな元気か?」

「ああ、今じゃ『マキシマム・ソウル』も構成員が二十四人だ」

「に、二十四だと!」

上層としては最大規模のパーティーだ。

もはや小隊レベルだな。

「最近では三層の草原エリアがメインの狩場だよ」

なるほど、あそこなら広いから大人数でも展開が楽だろう。

ビシャスウルフなら毛皮も買取素材だからいい儲けになるのかもしれない。

「順調にレベルアップしてるじゃないか」

ライナスが照れたように笑う。

「イッペイたちはもう六層到達なんだろう。大分差をつけられたよ」

「いやいや、俺には大所帯のパーティーをまとめる力はないからなあ、ライナスは凄いと思う」

そう、こいつはたまにぶっ飛んでいるが、面倒見がいいのだ。

「とりあえずは部屋付パーティー目指して頑張るさ」

「おう。四層行ったら、ルートからは外れてるけど密林エリアはいいと思うぞ。そこそこ広いから数の有利を活かすことができるはずだ。それにあそこに生えてるフルーツは値段のいい買取素材だし、食料の補給にもなる。長期遠征を目指すなら寄っておいたほうがいい」

「情報感謝するよ。」

ライナスたちも頑張っているようだ。

俺も第七階層へ向けて一層気合がはいった。


 一週間後に向けて着々と準備はすすんでいる。

今回は砂漠地帯なので環境対策が必要だ。

最初に直射日光を避けるため、牽引する荷車に幌を付けた。

これがあると無いとでは暑さが全然違う。

次に日焼け止めクリームだが既に開発済みだ。

現在七層を探索中の「エンジェル・ウィング」の皆さんに渡してある。

全員にすごく感謝されたぞ。

特にユージェニーさんは肌が弱いから嬉しかったみたいだ。

パティーが七層へ旅立って既に2週間が経つ。

元気でやっているか心配だ。

ひょっとしたら砂漠の街ワルザドで会えるかもしれないと淡い期待を抱いている。

砂漠の月夜はロマンチックなんだよね。

キャッキャウフフな展開に期待大だな。

 パティーのことはさておき休憩用のテントも開発した。

砂漠に点在するオアシスとオアシスの間は何百キロにもなるそうだ。

野宿が続くことが予想されるからテントは必需品だろう。

そして最後にゴーグルを作成した。

日差しによる目の負担を軽減するだけでなく、砂嵐対策でもある。

素材屋で燃える水(原油)が手に入ったのでついにプラスチックを錬成できた。

これで眼に砂も入らないぞ。

出来上がった品を並べると、いよいよ冒険の気分が高まってくる。

「マスター、いよいよ砂漠ですな」

「ああ。楽しみで仕方ないよ。今度はとてつもなく広いエリアだからゴブの狙撃に期待してるよ」

「お任せくださいマスター。飛翔するワイバーンさえ撃ち落として御覧にいれます」

ゴブがやけにやる気を見せている。

最近では砂漠の生態や、産物、過去の冒険者の資料などを読み込んでくれていて、俺が分からないことがあると、すぐに答えてくれるから助かる。

「頼もしいぜ相棒!」

「マスター……当然でございます!」

胸を張るゴーレムはプロフェッショナルの雰囲気を漂わせていた。

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