第2話 草原の出会い

 暇だ。

草原を越えて道に出た俺は身支度を整えて、ひたすら通行人を待っていた。

だが、30分たっても馬車はおろか誰も姿を現さない。

ここは滅多に人も通らない僻地(へきち)ということなのだろうか。

仕方がない。

退屈だし、人に出会った時のシミレーションをしておこう。

何事も心構えが大切なのだ。


 俺がここで座ってると左から胸の大きな超絶美女がやって来るとする。

不審感を持たれないように爽やかにいくのがいいだろう。

基本は挨拶だ。

「こんにちは!」

暑苦しくならないように気をつけつつ、元気よくだ。

実現は怪しいが爽やかな笑顔を心がけよう。

そうすると相手は「何でこんなところに人がいるのかしら?」と、少し怪訝(けげん)そうな顔をするに違いない。

ここで相手を怖がらせることは絶対に避けなけるべきだ。

だから相手に近づきすぎるのはもってのほかである。

適度な距離を保ちながら質問するのが正解だろう。


「道に迷ってしまいました。街に行くには右と左どちらに行けばいいでしょうか?」

「ああそれなら……」


紳士的な俺の態度に安心した彼女は可愛らしい笑顔で道を教えてくれる……はずだ。

おそらく彼女も街へ向かうに違いない。

俺たちはごく自然に並んで歩きだすだろう。

そして俺の軽妙(けいみょう)なトークに話ははずみ、二人は仲良くなっていく……。

うん。

恐ろしいくらいに完璧なシミレーションだ。

……なんてね。

わかっているよ。

いきなりおっぱいの大きな超絶美女が現れるわけがないっていうんだろ? 

おれだって27歳だぜ。

そんなことはわかっているんだよ。

でもさ……、人が生きていくには、ささやかな夢が必要なんだよね。

いいじゃないか夢くらい見たって。


 なんてことを考えていたら左の方から足音がしてきた。

目を凝らしてみるとまさかの胸の大きな超絶美女の登場だ。

褐色の肌に赤い髪。

身には皮鎧をつけ、手にはロングソードが握られている。

彼女は走っているらしく胸当てがゆっさゆっさと揺れていた。

赤髪の女がこちらを向いて叫んでいる。


「逃げろおぉぉぉぉ!」


よくみれば彼女の後ろには武器を手にした緑の子鬼がやって来るではないか。

ゴブリンだ。

その数100匹以上。(推定)

正確に言うと数えきれないほどだ。


「まじかよ!」


俺は一目散に右へ向かって駆け出した。

俺の攻撃力は3、防御力は5。

ヒットポイントだって8しかないのだ。

走りながら赤髪の美女を鑑定する。


【名前】 パティー・チェリコーク

【年齢】 22歳

【職業】 戦士

【Lv】 13

【HP】 196/289

【MP】 17/42

【攻撃力】104

【防御力】187

【体力】 176

【知力】 97

【素早さ】86

【スキル】身体強化Lv.3 スラッシュLv.4  野営Lv.2


 この世界の基準がわからないので、この女戦士がどの程度強いかはわからない。

でも攻撃力も防御力も俺の30倍以上ある奴が逃げている。

受け入れるにはあまりに悲しい現実に俺は叫んでいた。


「俺YOEEEEEEEEEEEEEE!」


 女戦士は身体強化のスキルを使い、俺は疲労を端から回復して走ったおかげでゴブリンの群れを引き離すことができた。

「巻き込んでしまってごめんなさい。私はパティーよ」

パティーは悪びれもせずに声をかけてきた。

野性味と妖艶さが同居した笑みだ。

ちくしょう……どストライクじゃねぇか!


「俺は一平。旅人だよ。パティーはなんで追いかけられてたんだい?」

「ギルドの依頼で魔物を間引いていたの。ほんとはパーティーを組んでやる予定だったんだけど、ちょっと色々あって直前で仲間の都合が悪くなってね。仕方ないからソロでやってたの」

「随分と危ない橋を渡ってるんだな」

「いやあ、あれくらいの集団なら何とかなると思ったんだけどね。いたた……」


しゃべりながら傷が痛んだのだろう。

パティーは端正な顔を歪ませた。


「怪我をしたのか。見せてごらん」


手をかざして回復魔法をかけた。


「わあっ! 傷がみるみる治ってく。イッペイ、あなた治癒士なの? いい腕してるわ」

「ん、そうかい?」


褒められて、かなりうれしい。


「そうよ、ここまで凄い治癒士って上位パーティーにだってなかなかいないわよ」


回復魔法Lv.maxは伊達じゃないということか。

おそらく欠損部位を生やしたり、下手したら死人を生き返らせることもできるんじゃないのか?


「ねぇイッペイ……」


パティーがコケティッシュな上目遣いで俺を見上げる。

「しばらく私とコンビを組んで冒険者をやらない?」


きましたこれ! 

憧れのシチュエーションじゃないですか。

美女戦士と互いの背中を預け合いながらダンジョンを冒険するなんて最高ですよ。

だけど、こういうことは最初が肝心だ。

最初に隠し事をすると後で大変な事態に陥(おちい)るものだよ。

ましてやパーティーを組もうとする者同士、信頼は何よりも大切なのは言うまでもあるまい。

だから誠実に正直に行動しようと思う。


「Lv.1で攻撃力3、防御力5の無職なんだけど大丈夫かな?」


パティ―の目が驚きに見開かれる。

そして……。


「ごめん。それは無理だわ」


速攻で振られてしまいました!


「なんでそんなに数値が低いのよ。子供だってもう少しましよ?」


どうやら俺はこの世界ではかなり虚弱らしい。


「いやーショックだわ。有望なメンバーを見つけたと思ったのに」

「ショックなのは俺の方だから……」


自分でも弱いだろうなとは思っていたが、現役冒険者に言われてよくわかった。

このままではダンジョンに入るのはとてつもなく危ないらしい。

だけどさ……。

ダンジョンだぜ。

おれは、憧れていたんだよ。

せっかくファンタジーな世界にやってきたのに、冒険できないなんてひどすぎるよ!

これは何とか考えなければなりませんな。

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