Ⅰ-Ⅲ

『この身に滅びは存在しない! 偉大なる遠矢の神・アポロンにより、不死の加護を付与されたのだからなあ! 貴様のような、親譲りのガキとは違うんだよ!』


「――いいぜ。覚えておけよ? その言葉」


『む……?』


「猛ろ、神馬紅槍ラケラ・ケイローン


 父から受け継いだ相棒が、その正体を露わにする。

 森自体を両断する神の刃。どれだけの再生能力があろうと、真っ二つにする上では問題ないだろう。


 だから、敵は笑っていた。


『ふはは、どれだけの攻撃力があろうと無駄だ! この身体は肉片の一つでも残っていれば再生する! 神の力を侮るな!』


「じゃあ試すからな? 不死の存在を斬れるなんて、滅多にないし」


『ふん、出来るものならなあ!』


 大気を唸らせ、怪物の剣が接近する。


 紅い刃となった神馬紅槍ラケラ・ケイローンは、それを難なく受け止めた。

 弾き返し、敵の懐へ潜り込むまでは一瞬。巨大な得物を手にしているとは思えない速度で、最適の間合いを獲得する。


 後は、真一文字に振り抜くだけ。


「おお……!」


『ぐ――』


 痛みそのものはあるらしく、彼は苦悶を漏らしていた。

 叩きつけたれた相棒からは、視界を埋め尽くすばかりの強烈な光。第二形態である紅槍から出た余波に過ぎないが、これに触れた者は例外なく切り刻まれる。

 

 ブリセイスを助けた時は手加減していたが、ここにいるのは戦士だけ。振るうことに戸惑いはない。

 

 結果、俺の視界から蛇は消滅していた。


「でも治るんだろ!?」


『――然り!』


 どこからともかく声が聞こえたかと思えば、消滅した筈の血肉が集まり始まる。核らしき部分を宙に浮かべ、まるで泥をこね合せるように。


 このまま放っておけば元に戻るのは確実。かといって、ここまで破壊しておいて再生するとくれば手に負えない。


 なら、ヘパイストスから貰った籠手を使ってみよう。

 ちょうど頭の形が完成しつつある。これで捕獲できれば、帝国とやらの情報を引き出す上で役に立ちそうだ。


 神馬紅槍ラケラ・ケイローンを展開したまま、俺は鍛冶神の籠手を突き出す。


『? 何を――』


「はいはい、お静かに」


 籠手の存在を意識し、その加護を発動させる。

 瞬間、


『ぬ!?』


 浮かんでいた蛇の顔が、突如として地面に落下した。オマケに再生も止まっている。


 人外の姿でありながら、被害者は眉根を寄せて困惑していた。何が起こったのか、まるで理解できていないんだろう。うん、俺もよく分からない。


 まあ鍛冶神が手掛けた至高の逸品だ。人間がその仕組みを暴こうなんて、無理難題でしかあるまい。

 あえて想像するとすれば、加護そのものを停止させる能力だろうか。彼に起こっている現象と辻褄は合う。


『ど、どういうことだ!? 何が――』


「はいはい、うるせーぞ。お前は俺達の捕虜に決定した、それだけだ」


『な、何ぃ!?』


 色々と言いたいことがありそうな頭を持ち上げて、俺は直ぐさま踵を返す。集落に向かった兵士達が、数名かいることを忘れてはならない。


 無論、捉えるまでは数秒と掛からなかったし――

 撤退へ追い込むまでの時間も、同じぐらい短かった。

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