硝子玉の花火

 硝子玉の花火、というのを手に入れた。 

 この前のお祭りのとき、露店で売っていたもので、どういう仕組みか手のひらに納まるくらいの硝子玉のなかで、幾つもの花火が絶え間なく打ち上がっているというものだ。

 花火を独り占め出来るよ、という謳い文句で売られており、その言葉に興味を引かれて、ぼくはついこの硝子玉を買ってしまった。

 祭りから帰り、ベッドに転がってからずっとこの硝子玉を見ているけど、なぜか飽きもせずいつまでも見続けてしまう。ただ見ているだけでは花火の音は聞こえないが、耳に硝子玉を当てればその音も聞こえてくる。花火を見ながら、火薬が破裂する音が聞こえないのは少しだけ迫力に欠けるが、近所迷惑になることもなく、環境に優しい花火だと思う。

 硝子玉のなかの花火を見続けていると、ふと、花火が打ち上げられている位置に、ヒトのようなものが写っていることに気付いた。

 そのことに気付いて、ぼくははっとした。

 硝子玉のなかにいる人間は、子供のころのぼくだったからだ。

 もういない父と、祭りの雰囲気を味わうため二人で浴衣を着て出かけたときの記憶。

 それを視て、ふと思った。

 もしかして、この硝子玉はひとの記憶のなかの花火を映し出しているのではないかと。

 自然と笑みが浮かんだ。この硝子玉を、あとで母さんにも見せてあげよう。

 初めは驚くかもしれないけど、父さんの姿が視れれば、きっとあの人は喜ぶ筈だ。

 値段のわりに、良い買い物をしたなとぼくは思った。

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