レンギアをあとに

 チャムの盾に施されていた蔦草をモチーフにした彫金風の模様はカイがひと撫でしただけで消えた。

 その後に彼らの紋章パーティーエンブレムを描いていく。プレスガンの銃口は逆三角形の下のCの字の中に入るようになっている。


(本当にこの人はこういうの上手よねえ)


 しかし、それだけに留まらなかった。

 次にカイはプレスガン本体を取り外して、新たに取り出したプレスガンに入れ替える。

「例のパワー不足対策?」

「うん、発射圧も少し上げたけど、何より螺旋溝ライフリングを切ったからね。まあ、よく解らないだろうから実践といこうか?」


 2ルステン24m離れた位置にいつもの土壁を作る。その的に向けてチャムは木弾を連続発射する。土煙と着弾音とともに土壁の一箇所にどんどん穴が削れていく。


「これ、威力も上がっているし、当たり易くなってるんだけど」

「それが一番の利点かな?」


 チャムは折に触れ、プレスガンの練習を本当によくやっていた。

 それは危険性を正しく認識した上で使い処の判断が重要になり、使用するなら確実に当てていかねばならないという思いから来たものだ。そんな思いが感謝の言葉になった。

 次に弾箱カートリッジを金属弾に切り替えて一射する。


「あれ?」

「ちょっと待ってね」

 以前に比べて少し入射口は小さくなったようだが、その先が見えない。裏に回ると厚さ20メック24cmの土壁を弾体が抜けかけている。

「おう…」

「これ、ヤバくねえか? 革盾や木盾だとゆうに抜けちまうぜ?」


 カイの予想さえ大きく越えていた。

 木弾みたいに切先を落としても良い。ただ、それをやって貫通力が落ちても、今度はおそらく破壊力が増してしまう。


「チャムさん、要注意でお願いします」


   ◇      ◇      ◇


「剣も手を入れるの?」

「やるよ」

「それなら胸装ブレストアーマー作ってよ」

「それだけは絶対に却下です」

「あなたねぇ」


 新しい剣の荒型を見たチャムはずいぶんと変わったなと思う。

 剣身は60メック72cm。鍔元から剣幅は括れていき、剣の中ほどで鍔元と同じくらいに戻り、そこからは幅広になりまた絞れていくという特殊形状になっている。ナイフや小剣ならたまに見られる形状だが、長剣としては珍しいと言えよう。

 剣の腹、所謂しのぎの部分には剣先近くまで幅2メック2.4cmほどの浅いくぼみが走っていて、それにより剣身強度を上げているようだ。


「前のより更に先重心になっているから、振り抜いた時の斬れ味は増しているはず」

「扱いの難しさも増しているけど?」

 トゥリオの剣と違って技量と手首の強さで振る剣だ。

「まあ、馴染んだらこっちのほうが斬れるのは確かでしょうね」

 接触する刃が曲線を描いていれば、刃の入りは確実に上がる。

「練習するわ。付き合ってよね」

その剣それ相手になの!?」

「そこは想定しておきなさいよ!」


 結局、荒型を仕上げた後、全く同じ形状の刃を潰した練習剣をもう一本作った。


   ◇      ◇      ◇


 各所に挨拶回りをして、国王サルームにも暇乞いとまごいを済ませた三人はレンギアを発つ準備をする。


 忙しいだろうにバルトロ一家が見送りに出てくれた。

「騒がしてばかりで済まなかったな。あまりゆっくりも話せなかった」

「遠話器が完成したら連絡するさ」

「ああ、それが出来るんだったな。そうしてくれ」

 ガッチリと握手を交わす二人。道は違えど、一生の親友なんだろうなと思う。


「ありがとうございました。貴方の教えを忘れません、カイさん」

 ナーツェンは深々とお辞儀をする。

「色々と言ったけど、君はまだ甘えていい歳なんだからゆっくりで良いんだからね、ナーツェン」

「はい…」

 気丈に振る舞っていても限度はあるらしい。カイの左足に縋って顔を押し当てる。撫でてあげると鼻を啜る音がした。


「ちーちー、バイバイ」

「ちっちー!」

 こちらはまだ会えなくなるというのはすぐには解らない年齢だ。別れも簡素になる。


「じゃあ、またな、バルトロ」

「ああ、またな、トゥリオ」


 次に会った時はどんな姿を見せてくれるのか楽しみなバルトロだった。


   ◇      ◇      ◇


 孤児院からは外まで賑やかな声が漏れ聞こえている。


 中に入れば大変な事になりそうなので、覗くだけに留めようとしたら、ラクタがカイに気付いたようだ。レムジーの肩をツンツンとして指差す。


 出てきたレムジーとラクタに「元気そうだね」とカイは正直な感想を伝えた。

「はい! 私、前より元気です。お腹いっぱい食事を摂れているんで大丈夫ですよ」

 すごい元気アピールだった。

「全部、カイさんのお陰です。今度、必ずご恩返ししますので」

「僕は君のとても元気な姿が見れただけで十分だよ」

 そして出立の事を伝える。


「え?」

「何だよ。行っちゃうのかよ、カイ」

「ごめんね、僕達は流れ者なんだよ。ずっとは見ていてあげられない。でも、安心した。君達はもう自分達でやっていけるよね?」

 何も言わずに抱きつくレムジーの無言の抗議は少し効いた。

 だが、気を取り直した彼女は赤い目のままでグッと堪え、引き留めるような事は言わなかった。

「このご恩は一生忘れません。どうかお気を付けて」


 急ぎ足に大人になろうとする彼女を押し留めるように額にキスをして、叶うかは分からない再会の約束をして別れる。

 大丈夫だろう。レムジーにはラクタという騎士が居る。彼らには幸せな未来があると信じてその場を後にした。


   ◇      ◇      ◇


「さて、休養は十分だろうから、好きなだけ走っていいよ」

「そうよ、ブルー。ストレス溜まってたでしょ?」

「キュイ!」

「キュー!」

 街門を出たらすぐに騎乗して彼らの自由にさせてやろうと決めていた。


 ここから北に向かえば獣人居留域だが、南寄りにあるレンギアからはまだ広大なフリギア王国領が残っているのだ。


 セネル鳥せねるちょうが好きなだけ駆けられる土地が。

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