第11話

 仲間、あたしには、きっと一生できないんだろう。

 仲間どころか今のあたしには、友だちさえいないんだものね。

 人と話すのは小さい時から苦手だったし、気が聞く台詞なんかも言えなかったっけ。あたしの大きなコンプレックス。でも小学生のころ、ピアノ教室で由梨花の人懐っこい笑顔に出会ってからは、一人じゃなかった。

 学校でも塾でもピアノでも、由梨花が側にいた。大切な大好きな友だち。ずっとずっと、一緒に居られると思ってた。

 由梨花とだけはうまく話せたし、ぼそぼそとなんでも話したっけ。素直な気持ちのまんま、本当の自分を隠さずにさ。

 その度、由梨花はニコニコしてうんうんってうなずいてくれたの。

 由梨花はクラスでもどこでも友だちがたくさんいて、いつか離れていってしまうんじゃないかって本当は不安だった。

 この公園で暗くなるまで、いろんな事を話したね、あたしたち。かわいかったよね。いつまでもいつまでも、一緒だと思っていた。

 二人とも休まずピアノ教室には通っていたんだ。音楽、大好きだったから。

 『来年のクリスマスには、二人でピアノの連弾をしようね』それが、この公園での最後の言葉になっちゃったんだよね。あの時のあたし達はもう、どこにもいない。

 目尻から、あったかいものが流れてきた。風に吹かれた冷たい頬に一筋の思い出がゆっくりあごのとこまで伝って落ちる。


 やわらかな音が身体をなでる。 

 あたしは、ふぅっとため息をついた。

 昨日、由梨花は転校して行った。友だちが一人もいないあたしを残して。

 二日前の放課後、クラス全員残らされた。

「だれか、柳さんのお財布見た人はいないの?」

 先生は、ちょっと苛着いているみたいだった。

 静かになる教室。どうしよう。あたしは、どうしていいかわからなくなって、由梨花の方を向いた。

 由梨花と目は合わなかった。そして、由梨花の手がすっと上げられたんだ。

『先生、桐嶋さんが廊下のゴミ箱に、なんか捨ててたの見ました』

 いっせいに振り返るみんなの視線。あたしは、かぁっとなった。胸の奥がどきどきして痛んだ。

 先生が廊下の遠い隅に置いてあるゴミ箱まで歩いていった音がパタパタと響いていた。

 お財布は、みつかるだろう。そしてあたしはいたずらした犯人、それとも泥棒かな。

 クラスの生徒は釈放された。

 あたしは、一人放課後の教室で先生と向き合っていた。

 一言も話さないあたしに、先生はいいかげん切れそうだったっけ。

「理由は、なんなんですか?何にも言わなくちゃわからないわ!」

 帰ると、親に電話がかかっていた。あたしは、何一つ言い訳をしなかった。由梨花と話がしたかった。

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