別荘・4
目を開けたら知らない天井だった。埃っぽくてカーテンのない窓からは日が差していて埃がキラキラ舞っていた。
日は既に高く登っている。昨日は買い物から帰ってきて、疲れて寝ちゃったんだっけ。買ってもらった服は袋に入りっぱなしで、持ってきた私物もまだダンボールの中だ。
あれよあれよという間に、おじさんが私の引越しを決めちゃって、「君の家には後でお手紙を送るからね」って話だった。
もしかしてこれは未成年誘拐なのかな…? うちの親は騒ぐだろうか。いや、まさかね。私は自分でやったことがないからわからないんだけど、住民票とかそういう手続きはどうなっているんだろう。
おじさんと(サイトで)出会ってから一年経ち、付き合ってから次の春を迎えて、私は高校3年生になっていた。おじさんからは「卒業するまでいてもいいし、卒業したっていてもいいんだよ」なんて甘い話を持ちかけられていた。
だけど、彼が本当は何をしたいのか、私に何を求めているのか、正解が掴めなくて困惑した。
かといって、自分がどうしたいのかもいまいちわからない。だって、自分がどうしたいかなんて考えたことなかったんだもの。
「おはよう、よく寝てたね」
おじさんがよろよろしながらリビングから顔を出した。リビングのソファで寝ていたらしい。自分の家なのに、寝室まで辿り着けなかったんだろうか。変なの。「なんでここで寝てるの」と聞くと、「ここの方が自分の部屋からより水回りが近いんだ」と言う。
長時間のドライブと、家の大掃除と、そのまま仮眠せずに行った買い物。「年甲斐もなく張り切ってしまってね、ちょっと腰の調子が…」と苦笑しながらおじさんが言った。自分のことばっかりで全然気付かなかった。疲れた様子のおじさんはニコニコはしていたが、辛そうだ。ちょっとムラッとしたが、これからの生活を考えて我慢した。
キッチンに立ってみて、家庭科の調理実習のことを思い出そうと記憶を探ってみた。だけど、思い出せたのは苦手だったなってことだけだった。家では、包丁も火も使っちゃダメって言われてたから、触るのが怖かった。同じ班の生徒に調理を任せて、私は洗い物をしていたから、調理方法なんて全然記憶になかった。
とりあえず炊飯器でご飯を炊いて、昨日スーパーで買ってきてたおかずをあっためるくらいはできる。お味噌汁もフリーズドライや半生の、お湯を入れて溶かすだけのやつがあるし、洗い物は得意だから食器を用意して、なんとなくよそう。盛りつけセンスなどない。
それでもテーブルに並べてみれば、なかなかいい感じにできた気がする。
「おじさん、ご飯できたよー」
二人でテーブルに向かって、いただきますをした。人とご飯食べるのってなんだか夢みたい。亜希とはもちろんあるけど、同級生と大人は違うもの。長いドライブも友達の家の掃除もこうやって一緒にご飯するのも、何もかも初めてで、小さな子供みたいにワクワクした。
ご飯が終わって、洗い物をして、おじさんが淹れてくれたお茶を飲みながら、二人でソファに座って、テレビをつけた。
何気なくチャンネルを回していたら、ニュースで例の連続殺人についてやっていた。画面の中のアナウンサーは深刻そうな顔で、殺人事件について語っている。コメンテーターはフリップを捲りながらまくし立て、『突如止まった殺人事件!消えた犯人!警察は何をやっているのか!』と声を荒げている。
「志穂ちゃんの家にお手紙を送りたいんだけど、住所教えてもらえる?」
「? 前に、教えなかったっけ…?」
「ああ、うん。聞いたんだけどね、おじさんが間違っちゃったのかもしれなくて、送ったお手紙返って来ちゃったんだ。一応、年頃の娘さんを預かっているわけだから、親御さんにきちんと伝えておかなくてはね」
そう言って、おじさんはまた笑った。
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